青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

生産財の青草新吾1はリタイア。シニアの青草新吾2は複業で貢献を目指す。

2018-11-15 216.ハイテク製造業の米中「大競争」と人生100年時代

米中貿易戦争は国力を競う“米国側の「強固な製造業基盤の国内構築」と中国共産党の「製造業2025」の衝突”です。実力は米合衆国が圧倒的ですが、生産財営業の視点からは製造業や商社・物流業の未来を先読みしながら、自分の付加価値を高めることで次世代をサポートしていく人生100年計画が望まれます。

  日産のゴーン会長の逮捕(2018.11.19)はショッキングな出来事でした。1999.10の日産リバイバルプランの発表を、筆者/青草新吾は銀座近くの宿泊先のテレビで見て感動した記憶があります。対話型リーダーの代表格だったゴーンさんが、権力の頂点に立って人格が変質し、側近に囲まれた独裁の専横リーダーに腐っていたことが本当ならば驚きです。「絶対権力は腐敗する」「魚も組織も頭から腐る」は真理だと痛感しました。・・・組織の大小を問わず、組織トップのガバナンスの適正の確保こそは、持続的な発展の肝であると感じます。本題に入ります。
  筆者/青草新吾は、マスコミ用語の貿易戦争という言葉は多くの誤解を招く不適切な用語だと感じます。正しくは「米国が仕掛けた力比べパワーゲーム(力比べ競争)」という表現が事実に近いと思います。・・・国家政策の点では、仏国マクロン大統領の「生産国としての復活」も、米合衆国トランプ大統領の「米国第一」もともに「付加価値と従業員所得が高い製造業の生産自国生産比率高める」との政策目標が共通しています。これに米国の場合は共和党民主党の共通認識として「中国共産党の本質は高度技術の略奪的な取得に代表される。米国は中国共産党に騙されてきた。これ以上はもう騙されない。」という見方が米国世論の主流になりつつあるようです。
  米国トランプ政権がしかけた米中パワーゲーム(力比べ競争/強い合衆国を目指す“戦略通商政策”)の根幹は、米合衆国が国力と軍事力を支えるハイテク製造業の基盤再強化して、これ以上は中国共産党の独善的な台頭許さないというものです。その根底にあるのは、あるいは通底するのは、これまでよいこととされてきたリベラル国際主義グローバリズムの行き過ぎに対する揺り戻しです。
  2016年の米国大統領選では、多くのメディアがトランプ大統領が誕生することはないとの報道をしていましたが、筆者/青草新吾は「可能性あり」と感じ、201[ 2016.7 英国EU離脱と米国大統領選でニッポンこれから]でその根拠を列記しました。一言でいえば、米合衆国・民主党のリベラル国際主義の流れ、第28代ウィルソン大統領(1913-1921)に始まり、特に第32代ローズヴェルト大統領(1922-1945)で加速した“リベラル国際主義の行き過ぎ”に対する小さな政府共和党支持層からの揺り戻しを強く感じていたからです。・・・203[2016.12.30]で、良いこととされてきたグローバリズム言論の自由を奪ってきたポリティカルコレクトネス(日本流で言えば「言葉狩り」)に対して、懐疑的な米国民増えていることを記載しました。
  トランプ大統領が米国を分裂させたのではなく、分裂した流れ片方から政治マーケティングが上手トランプ大統領岩盤支持層を獲得したのだと考えます。・・・トランプ政権は、米国内でポリティカルコレクトネスを打ち破り、中国が悪用しだした国連の制約も打ち破ってしまいました。そのうえで中国との大競争(冷戦)を始めたと考えると、今のトレンドと近未来(「すでに起こった未来」PFドラッカー)が分り易くなります。
  拓殖大学教授の富坂聡(とみさかさとし)氏はVOICE2018.10で「米合衆国の圧倒的な技術優位を崩そうというような“目標を立てるな。許さない。”という警告を発すること」との見立てを示しておられます。また丸三証券経済調査部長の安達誠司氏は「株価は米中貿易戦争の結果を予見するように、中国に近い独連邦韓国株価大きく下落し、米国に近い日本インド株価小幅下落に止まっている。・・・今回のトランプ政権による対中貿易戦争は“(知財の侵害や窃盗など中国が)自由貿易体制にただ乗りして産業構造の高度化をはかるのは許さない”との中長期的な戦略ではないかと考える。戦前の大恐慌後にみられた保護貿易主義とは様相が異なるのではなかろうか。」と寄稿しておられました。・・・ハドソン研究所の日高義樹氏は、トランプ政権三つの政策発動が決定的に不利な立場に中国共産党を追い込んだとして紹介していました。一つは、中国の国営企業の米進出を禁止したこと。二つ目は、対米投資監視委員会を設置して、中国企業の米国進出への監視を強化したこと。日本のLIXILはこれで米国子会社の中国企業への売却を却下されたようです。三つ目が、WTOの上級委員会7名の再任で、中国系3名の再任を認めず、中国に有利な決定ができないようにしてしまったこと。以上三つです。これら方針に従って「商務省は外国の技術を盗んでつくられた中国の新幹線関わりあった企業米国から締め出すことを決定した。財務省は“中国ZTEが対イラン禁輸協定に違反した疑い”で、STEへの制裁措置をとった。」と起こった事実を説明していました。・・・世界経済のシステム大きく変わっていく中では、私たちが係る産業の姿も変わっていかざるを得ません。
  日立製作所社長の東原敏昭氏は日経新聞2018.10.14付で「(今のままの)製造業はなくなる」とのタイトルで掲載しました。久原房乃介が開いた日立鉱山(明治38/1905)の電機技師/小平浪平が大正7に独立した日立製作所は、その後に鮎川義介が起業した戸畑鋳物(現日立金属、明治43/1910)と合流して鮎川義介日産コンツエルンの一員となり、戦後は大きく発展して今日に至ります。時代の大変化の中で生き抜いて発展した歴史を背負うだけあって、時代の変化に真剣に対応していける代表的な会社と思います。
  米国に亡命した資産家/郭文貴氏は、中国高官のスキャンダルを告発したことで、中国共産党から国際指名手配されているお方です。事実に基づく判断をベースに実に公平な世界観をお持ちです。実に的確な日本向けのアドバイスを行っています。曰く「日本の国民非常にかわいそうな目にあうことになってしまった。近年の日本は、金融の分野で世界で最も失敗した国家である。日本は過去数十年にわたる財産をいつの間にか使い果たしてしまったが、これは本当に深刻な失敗であった。・・・・今、日本が改革すべきは、進歩を阻害する社会の保守性であろう。中国人は日本人から多くのものを学ぶべきだが、逆に日本人が中国人から学ぶべきものもある。それは“大局的な国際感覚”だ。ローカルな殻に閉じこもり、進取の気風を失って思考が硬直したことが、かって世界に冠たる水準を誇った日本の戦略的優位性を失わせることになっている。・・・もっと国際的にイニシアチヴを発揮して世界の潮流をリードする国家になって欲しい。日本は世界で最も優秀な民度を持つ国民を要している国家だ。努力家礼儀正しく、政府に迷惑をかけない日本人の民度は世界で最も尊敬されている。日本のいちばんの財産だろう。この良好なイメージをもっと戦略的に利用して欲しい。」とSAPIO2018.(7.8)に寄稿しておられました。有難いアドバイスです。
  上述の資産家/郭文貴氏が指摘されておられる「本当に深刻な日本の失敗」であった「過去数十年にわたる財産をいつの間にか使い果たしてしまったこと」では、戦後の1946-1950頃生まれ団塊世代を抜きには語れません。・・・江戸時代以降の閉鎖社会の序列重視のタテ社会に、戦後の“勘違いの民主主義”などが重なった戦後「日本型大企業病に染め抜かれた方々」と「バブル崩壊以降の失われた20年」は重なっています。
  戦後復興は、戦争で多くの犠牲者を出した明治・大正・昭和一桁の世代の方々が、成し遂げてくれました。その遺産を食いつぶしたのが、その後に続いた1947-1950生まれの団塊世代といえなくもありません。・・・もちろん実にイノベーティブで新しい価値を世に提供してくれた方々もおられます。例えば、京都大学団塊世代では、1947生まれで松本晃さんのように、伊藤忠出身ジョンソンエンドジョンソンの飛躍的成長をリードし、カルビーでは改革で8期連続の増収増益をリードされたお方や、1948生まれ出口治明さんのように、60才を目前にライフネットを起業されて、今は立命館アジア太平洋大学の学長に就任されるような、とてもイノベーティブで素晴らしい方々がおられます。同時にパワフルな全共闘活動家1945生まれ奥平剛士1948生まれ上野千鶴子さんのような面々もおられます。・・・筆者/青草新吾は、団塊の世代に続く1955前後生まれの団塊に続く世代です。振り返ってみると、団塊世代の多くは戦後日本型の大企業病に染め上げられてしまった方が他の世代よりも多かったように思います。・・・上述の亡命資産家/郭文貴氏が指摘するところの「現状維持的で、大局観を欠いた硬直思考の日本人」の固まりのような方々が多い世代だったように思います。社畜という言葉も団塊世代の頃に流行ったことばです。・・・働き方改革で一番大切なのは、団塊世代以降、日本社会に染みついている硬直的な思考を改めて、画一的でない一人一人の事情も加味して仕事のオーナーシップを持って働ける環境を整備することで、一人一人の生産性高めていくことだと考えます。
  「稼ぐ力」すなわち生産性ですが、原動力は「新陳代謝」すなわちイノベーションリノベーションです。日本人はどちらかというと現場に近い狭い領域でのリノベーションが得意な企業家が目立ちますが、ユダヤアングロ系は、ブラックホールのよう周囲を巻き込んでしまうようなイノベーションが得意な企業家が目立ちます。・・・イノベーションのエンジンはリーダー人材その協働者で「ひと」です。優秀なリーダーが引っ張る高生産性・高賃金の会社へと事業と雇用集約していくことで、最大多数の最大幸福へと近づきます。そのような大きなトレンドの中で、個人はどのように職業人として役に立って報酬を得ていくか・・。
  企業とは個人事業を含む経済活動の単位です。企業の内訳で「営利法人会社」といいます。その営利法人の会社にはローカルな地域密着営業型グローバル営業型に二分できます。今の時代は、グローバル営業型であれ、地域密着型営業であれ、グローカル視点と思考が不可欠です。そのうえで論考を進めてみます。
  ローカル密着型は、規模よりも密度の経済が肝です。セブンイレブンの事業モデルは正に、特定地域で集中出店することで物流費などの共有コストを低減し、さらに範囲の経済で、同じ店舗で多くの売れ筋製品を並べることで共有コストを低減させて稼ぐ力を高めるモデルそのものです。・・・ここでは大都市やコンパクトシティが基盤となります。この領域でキャリアを積み上げていく方々は、業態や業種、製品や地域などの専門性を磨き続けていくことになります。
  グローバル営業型は、規模の経済で、同一製品のボリュームアップ共有コストを低減させて生産性を高めていく場合に効果を発揮します。この領域でキャリアを積み重ねていこうとすると、共通基盤は、外国語異文化対応力、マネージャークラスだと、全地球的なグローバルなセンスも必要です。それらの共通基盤の上で、特定地域貿易と物流製品やサービスなどの専門性に磨きをかけていくことになります。

2018-10-23 215.公正公平守る告発や投票 不正権力退治

「もはや内部告発しか改善の手が残されていない」と立ち上がった現場の方々のお蔭で、神戸製鋼や三菱マテ、先週からのKYBなどは「やり直しと健全な会社に回復する機会」を得ました。この「組織をあげて改善に向けて動きだせる」ところが、内向き利権組織の「相撲協会NHK」との違いです。両者のガバナンスの違いは「お客や社会への畏(おそ)れの程度」だと思います。

  オリンパスで2011年、巨額不正を明らかにしようとして解任されてしまった英国人の元社長/マイケル・ウッドフォード氏が「日本社会は、尊敬するサムライと、その反対の愚か者両極端に分かれてしまう。なぜか?」と嘆いたのは象徴的でした。2011年に、情報誌FACTAの記事(「オリンパス経営陣の不正」)をみて調査を始めたウッドフォード社長を追い込んで解任したのは、不正を行った菊川会長らの前経営陣でした。不正を行っていた菊川前会長らは元英国人社長を解任した理由で「この英国人社長は、独断専横的で日本の企業風土を理解していない」などと、癒着メディアを使って人格攻撃まで広めていましたが、2012年に逮捕されました。・・・菊川会長らが逮捕されるまでの加害者が被害者をいびりだすプロセスは、被害者側である貴乃花親方が相撲協会からいびりだされた一連のプロセスとよく似ています。・・・オリンパス相撲協会違いは、オリンパス事件では、外部の所管官庁などガバナンスの最後の砦が機能して加害者が逮捕され、相撲協会の暴行傷害事件では外部からのガバナンスが利かないで加害者が厚遇され、被害者が追い込まれていったことです。・・・会社であれ、公益法人であれ、日本型組織が背負う脆弱な部分は、本稿の後半で掘り下げてみたいと思います。その前に生産財営業に係るトピックスを幾つか列記させてもらいます。
  1989年のベルリンの壁崩壊東西冷戦終結に始まるグローバル化、日本では1991年のバブル崩壊、2000年頃からのインターネットの発展で、大きな会社も揉みくちゃにされながら変身しながら生き残ってきています。その中にイトマン・住銀事件日鐵住金物産があります。この時代のとても象徴的な事例です。
  繊維分野の名門商社イトマンは、1990年の日経新聞の報道で、住友銀行を巻き込んだイトマン事件が起こりました。内部告発住友銀行取締役の國重惇史(くにしげあつし)は「住友銀行秘史*1を上梓したので、より分り易くなりました。さすがに人材豊富な住友銀行イトマンでした。内部告発のお蔭で腐った頭が差し替えられ、路線が軌道修正され、1993年にイトマン住金物産が買収しました。イトマンの商号は110年の歴史に幕をおろしましたが、事業を継続できたことで、イトマンで育ったプロ社員の方々は移籍先の住金物産で事業を発展させていきました。・・・2013年には住金物産日鐵商事が合併し、日鐵住金物産へと巨大化し、さらに三井物産からの事業譲渡も受けて、4月から日鉄物産に商号を変更するそうです。イトマンからの繊維事業は「メーカー型商社」としてOEMメーカー事業で発展を続けてきているそうです。そしてこれからはODM事業の機能を高めていくそうです。世界のアパレル産業の規模180兆円くらいとのことですから、アパレル産業は自動車産業並みの規模といえます。
   テレ東BSのモーニングプラスで赤羽高(たかし)なる東海東京証券のアナリストがヘルスケア分野の解説をしていました。その中で医療手術ロボットでは、本稿214[ 2018.9.15 ]で早大の木村秀紀さんの「世界トップの要素技術がそろっているのにシステム製品がない事例が手術ロボット」を紹介しましたが、赤羽さんの説明では「ダビンチや、川重とシスメックスの協業が頑張ってる」そうです。本庶佑(ほんじょたすく)京大特別教授のノーベル賞受賞に象徴されますが、がんの分野日本がとても強いそうです。特に放射線では陽子線重粒子などでは世界の半分くらいのイメージでダントツとのことでした。
  自動車産業は、CASE(Connected /Autonomous /Shared /Electric)に向かった流れがどんどん強く広く大きくなっています。生産規模は、ビジネス+IT Magazine なる出版物(vol.31)でまとめてくれていましたので以下引用します。1位の独VW10.1百万台、2位のトヨタ9.9百万台、3位ルノー日産8.5百万台、4位現代自8.1百万台、5位の米GM7.9百万台、6位の米フォード6.3百万台、7位本田4.9百万台、8位がフィアットクライスラー4.9百万台、9位が仏PSA3.2百万台、10位スズキ2.8百万台。・・・VWナチス政権下の国策会社でスタートしたが、今はポルシェ家とピエヒ家の両家が支配株主で、ポルシェやアウディもグループ入りしており、英のベントレーや伊のバイク/ドゥカティもグループ入りしているようです。・・・米国勢は、GMがスバル、いすゞ、スズキ、スエーデンのサーブといったグループ会社の株をすべて売却、6位のフォードも、マツダ、英ジャガーと英ランドローバー、スエーデンのボルボを株を手放し、経営破たんしたクライスラーは、ランチアアルファロメオフェラーリ、マセラッティを傘下に持つフィアット経営統合し、フィアットクライスラーとして上位進出を目指しているようです。
よくEVハイブリッドかという議論がみられますが、単純な素人メディアの二分法では間違うので、以下で整理してみます。・・・バッテリー重たいコストも高いので長距離に不向きです。バッテリーとモーターだけのピュアEVは通勤用や近距離向きです。長距離だと、日産ノートのようなエンジンで発電してEV走行するシリーズハイブリッドプラグインハイブリッドは近距離をEV走行しバッテリー容量を超えるような長距離を内燃機関走行できます。プリウスのようなハイブリッドEV内燃機関電動モーター適宜で使い分けして長距離走行できます。
  燃料電池はバッテリーではなくて発電機ですから、発電機を搭載した電動車ということでは日産ノートと同じです。発電機がガソリンエンジンでなく燃料電池ですから、ガソリンの代わりに燃料の水素を充填する必要があります。・・・中国でも「2030頃燃料電池が本命」といわれています。電波新聞2018.9.27で「チャイナデイリーは“2030に全販売台数の30%が電動車両。電動車両普及の課題はその時点の燃料電池の耐久性能次第”との専門家の説明を紹介」と報道していました。
  続いて日本型組織の脆弱性に話を戻します。「日本社会は、尊敬するサムライと、その反対の愚か者に、どうしてこうも両極端に分かれてしまうのか」との元英国人社長の嘆きを上で紹介しました。筆者/青草新吾は、英国人ならではの実に的を得た嘆きだと感じ入ります。・・・筆者/青草新吾は、土井健朗(たけお)さんの名著「甘えの構造*2と、東大初の女性教授/中根千枝さんの「タテ社会の人間関係*3で多くが分析されていると感じます。
  日本社会は「組織トップ甘えている人が多い」という特徴があります。欧米社会や大陸チャイナ(支那/中国)の社会との違いです。精神科医土井健郎さんは1971年に出版された「甘えの構造」で、「日本では、他者依存社会規範に取り入れられている。家族や地縁への甘え潤滑剤ともなっている。」と適格な分析を行っています。しかし「政治家や経営者などエリートの甘え国や会社を滅ぼす」との憂慮も示しておられました。
  日本社会には、下克上の戦国時代に続く江戸時代には「閉鎖的な身分社会」と「序列偏重のタテ社会」が形作られました。「嘘も方便」は江戸時代に登場した成句だそうです。これらに敗戦後の戦後日本の「個人主義や民主主義のはき違えとその帰結である極端な悪平等」が重なってできた「日本特有の閉鎖的で序列偏重のタテ社会」を、中根千枝さんが1967年の「タテ社会の人間関係」で分析し記述してくれました。・・・更に高度成長期安定成長期に多くの日本人に染みついた「戦後型雇用システム(一括採用・年功序列・終身雇用)で会社の役所化・官僚化も進み、世界中どこにでもある「官僚制の逆機能」と重なったのが「戦後日本型の大企業病」です。
  オリンパス事件の場合には、会社法金融商品取引法(有価証券の虚偽記載)など、法律違反で会社の「執行組織の頭6人逮捕された」ことで、ガバナンスの軌道修正が図られていきました。・・・反社会勢力に浸食されたイトマン・住銀事件の場合は、会社法の特別背任でオリンパス事件と同じく会社の執行組織の6人が逮捕されています。・・・イトマン・住銀事件の場合には「内部に、膿をだしたいという少なからぬ改革派」が存在していたので、「ガバナンス正常化の速度が速かった」ように記憶しています。営利法人の会社では、ガバナンスの最後の砦内部告発法律所管官庁です。・・・相撲協会の場合には、これら外部の最後の砦がないのが致命的です。本来相撲協会の収益源であるNHKが、ガバナンスの常識国民目線から牽制の圧力でもかければよいのですが、悪いことにNHKそのものが税金のように徴収する受信料を収益源にしてますから、NHKそのもの役所と同じ相撲協会へのガバナンス利きません。・・・先週2018.10.19に発表された相撲協会の第三者委員会/但木(ただき)委員長の「暴力問題但木報告書」からは、昨年末2018.12.22の「相撲協会・危機管理委員会・高野報告書」が「嘘とねつ造の報告書」だったことが分ります。・・・江戸時代に登場した嘘も方便そのものです。相撲協会の事件では、事実に基づかない政治的な嘘が「癒着メディア経由」で大量に流布されたのもどうかと思います。・・・昨年末の事実でない発表(相撲協会・高野報告書)を取り消すとか、訂正する動きもみられません。高野利雄委員長名古屋高裁検事長だそうです。正義も何もあったものではありません。これが相撲協会の寂(さみ)しい現実です。正義も公正さも欠いている、そして内閣府などの行政もガバナンスの最後の砦として機能できないのが、実情です。
  科学民主主義自由主義もISOも「事実に基づく判断」が世界共通の普遍的な規範です。中国共産党や韓国や日本国内の反日活動家の問題は「事実に基づかない性奴隷などの政治的な嘘を世界に流布」することです。政治的な嘘の流布(プロパガンダ)は、民主主義や自由主義、人権尊重とは相いれません
  今の本の学校教育や社会に欠けているもの、今の日本人に足らないものは「欧米の個人主義への正しい理解」ではないでしょうか。個人主義孤立主義と似て非なるものです。個人主義とは「相互理解に基づいて個人を尊重する」ことですから、「他人を理解する努力」を前提した社会です。個人主義社会とは、相手とは違って当然という相互理解と、自分から人間関係を開拓していくためのコミュニケーションが前提された社会です。
  同志社大学教授の太田肇さんが「なぜ日本企業は勝てなくなったのか-個を活かす分化」*4で主張していたように「自律したプロフェッショナルな個人とチーム」が増えていくことで、公正公平を損なう立場あるものの権限の悪用や、取り入ろうとする者」を告発しやすい社会へ、民主主義が成熟した社会へと発展していくものと期待します。

*1:住友銀行秘史」 ISBN:9784062201308

*2:「甘えの構造」ISBN:9784335651298

*3:「タテ社会の人間関係」ISBN:9784062919562

*4: 「なぜ日本企業は勝てなくなったのか」ISBN:9784106037986

2018-09-15 214.変化に強い会社と働き方とは

大変化が進みます。衰退していく会社もあれば、AIで機械化される仕事も増えていきます。日本が強みとする産業で、より付加価値が高い仕事と働き方を工夫していくことで、危機に強い個人や組織が作られていきます。

大転換の時代を乗り切っていくために、仕事で関わる事業のイノベーション働き方をアウトプット中心の柔軟な働き方にしていくことで求められます。まずは日本が強い産業分野に注目します。国際競争力の一つの指標で、購買力平価ですが、数年前の調査で生産財・産業財などの企業物価が99円消費財が129円ということでした。日本の生産財競争力が強いといえます。生産財の中には食品原料調製品も含まれます。・・・・岡山駅の一角か隣のビルの入り口で“海の魚川の魚の両方が同じ水の中で泳いでいる”のをみたことがあります。岡山理科大学太古水(好適環境水)を使えば、海水がないところでも海の魚の養殖ができます。山村の小学校廃舎でのサカナ養殖がリアルに想像できます。また近大マグロ完全養殖は「近代のお蔭でマグロが食えなくなることはない。有難う。」と感じます。近大はほぼ絶滅危惧種のうなぎでも「うなぎ代わり琵琶湖なまず」の養殖に成功し、複数の民間会社が本格事業化を狙っているとのことですから、待ち遠しくてなりません。
   ロボットの世界需要の伸びについて、204[ 2017.1.21 ロボット産業 ]で全体を俯瞰しました。産業ロボットを含めたロボット5種世界需要は15年実績の1.7兆円から25年には38.5兆円へと、年平均36.6%で成長が続くというものでした。スマホと同様に、高級部材バイスに日本の産業集積の強みがあります。・・・・「精密減速機」では日系のハーモニックナプテスコ住友重機械3社ほぼ世界シェア100%を維持しているようですが、ここに日本電産が勢いよく参入中です。・・・・電子デバイス産業新聞2018.8.30付は「 自動車分野に加えて近年はEMS電機電子分野における小型産業用ロボットの需要が増加し、ハーモニック社の2017年度売上高は前年度比81%増の543億円を記録し更に今も拡大中。生産面でも増強を進めるが、供給が追い付かない。そこへ、日本電産グループと日本電産シンポが減速機の展開を急速に強化している。」と報道しています。・・・・要素技術大国の日本は、このような中規模・小規模の分野では図抜けた存在です、
   早大招聘研究教授の木村秀紀さんは日経2017,0.7付で「付加価値の源泉システムに移りつつある。日本が強い要素技術もシステム化に結びつけていかないと付加価値がとれなくなっていく。・・・日本は、“内視鏡、ロボットの腕、これらの操作技術”で世界トップを走りながら、要素技術が揃っているのに、それらのシステム化製品である手術ロボットは日本で現れず、米国で製品実現された。システム技術の弱さが日本の技術の足腰を弱めている。欧米には数多いシステム科学技術の研究所が、日本には一つもない。」との警鐘を寄稿されておられましたが、とても印象強く記憶に焼き付いています。一般的な日本の会社は、現場力が強い反面で、システム的思考が弱くなりがちです。ISOやTSなどマネジメントシステムでも、会社の中で表面的で断片的な作業レベルに終始してしまいがちな風土があるように感じます。
   例外的日本が強いシステム製品自動車です。その自動車も、「常時インターネット接続(C)自動運転(A)シェアリング(S)電動化(E)」が進行中です。従来とは異次元の競争が始まります。トヨタのような自動車メーカーと同じ土俵でGoogleなどが開発を進めています。クルマのインターネット端末化ともいえます。スマホよりは複雑で大きな製品ではありますが・・・・・・。
   筆者/青草新吾は、自宅の購入後14年のプラズマテレビ液晶テレビに新旧入れ替えました。やはりプラズマの画像というか色彩は図抜けていたのだな・・と実感します。このプラズマと液晶の競争については、FPD(薄型テレビ)を重点テーマとして、51(2006.8)から91(2007,5)にかけて追いかけた時期もありました。液晶テレビ(LCD-TV)をリーしたかに見えていたシャープが韓国勢に逆転され、パナソニックも2013年12月末にプラズマテレビ(PDP-TV)を終息しました。その後、韓国勢は、中国勢の勢いに押され気味になってきています。・・・・それにしてもシャープが台湾のHon Hai(鴻海)に買収されたのは、実に幸運な出来事だったように感じます。当事者でないので外見と外部情報だけからの印象ですが見事な再建を果たし、しかもシャープのテレビの売れ行き中国で好調と聞くと、日本企業にありがちな管理職の延長線上の序列と肩書きの経営者に対し、事業家魂に溢れた投資家とその投資家から委任された専門経営者という株式会社の基本がいかに大切か、を感じます。会社のマーケティングというか、経営者格差というか、リーダー格差を感じてしまいます。
   D.アトキンソンさんが「新・生産性立国論」*1で、「日本の経営者は、世界4位の優秀な人材を使って、先進国最低の生産性(世界28位)しか生み出せていない。しかも、人材ランキング世界32位の韓国よりも低い最低賃金で、世界4位の人材を使えるというおまけまで得てのことです。・・・他の先進国ではとうの昔に時代遅れになった“感覚と経験による経営いまだしがみついている”実態が見透かされています。」と述べているのは、耳痛ながらも有難い指摘ともいえます。
   スポーツの世界では、相撲日大アメフト女子レスリンボクシング女子体操日体大駅伝と不祥事が続きますが、民間の会社よりは半世紀くらい遅れているようです。例えば、良い見本として、前214で引用した東福岡高校や、青学の原監督のような、今の時代のリーダーもおられるにもかかわらず、正反対のリーダーというか、世の変化を無視したような、まさにアトキンソンさんが指摘する「時代遅れの感覚と経験の経営」そのものです。
   前稿213でも記述しましたが、江戸時代以降閉鎖的タテ序列社会に、戦後の人事システム(一括採用年功序列悪平等)が組み合わさった、中根千枝さんが「タテ社会の人間関係*2で研究発表してくれた、戦後の右肩上がりの時代に日本社会で特徴的にみられた雰囲気に、世界どこにでもある組織病(学問的には”組織の逆機能”)が混じって出来上がった戦後日本型・大企業病そのものです。
   女子体操界では、被害者からパワハラの加害者として訴えられた塚原さんは、これまたご自身の優位な立場を総動員して、見苦しい言動を繰り返していました。スポーツの世界でもマネジメントの常識が要ると感じました。その幇助をしていたのが、バラエティの坂上忍さんなどで、塚原さん寄りの発言を煽っていたと聞きましたが、ここまでくると有害メディアです。・・・・パワハラの意味そのもの理解してもいないのに、ルール違反の無責任な言動を繰り返していたようですが、テレビ局のガバナンスの問題ともいえます。安心してコメントを聞ける木村太郎さんあたりとの常識や知的レベルの格差が大きすぎます。
   パワハラ現場で起きたことがすべてですから、その事実関係の検証に集中すべきです。ここでは道理をわきまえた論理的な思考力も必要です。被害者と加害者を同等に扱って、無関係な話へと次々と脱線していくのでは、バラエティといえども悪質きわまりない行為です。判断に必要な客観的な知識ももたずに無責任すぎます。加害行為の上乗せ・上書きになりかねません。・・・・女子児童が犠牲になられた高槻市寿永(じゅえい)小学校のブロック塀事故について212で前述しました。この事故は、高槻市教育委員会が「専門家の危険性指摘を、素人判断で結論づけて放置した」ことで起こった人災ともいえます。体操のパワハラ問題と同様、素人の第三者の無責任な口出し、戦後日本型組織ぐちゃぐちゃ責任分担そのもの、「悪平等で専門家を軽視」する典型事例と通底します。
   大変化の時代を乗り切っていくためにも、会社組織は「先進国型の働き方」へと、そしてスポーツ組織も「合理的で効果的な運営」へのシフトを加速していくことが期待されます。

*1:「新・生産性立国論ISBN:9784492396407

*2:「タテ社会の人間関係」 ISBN:9784061155053

2018-08-24 213.合理的なリーダーがもたらす やる気と生産性

相撲協会、日大アメフト、ボクシング連盟や、"内向き大企業病"が蔓延して沈滞ムードの会社等々・・"戦後日本型組織”のニホンザル的な威圧恫喝型リーダーの旧弊が目につきます。日本を低迷させる主要な原因の一つです。"人材が価値を生み出す時代"に求められているのは、ゴリラ的な後押し支援型リーダーです。


   高校スポーツ界の強豪/東福岡高校のスポーツ監督を閑テレ"Mr.サンデー"が紹介していましたが、選手に自分で考えさせるリーダーシップでとても合理的な姿勢でした。女子柔道の金メダリストの溝口紀子さんが読テレ"そこまで言って委員会NP"で「スポーツのリーダーも今はスポーツ科学やスポーツマネジメントを学んで合理的に鍛える時代。練習量が少ない仏国の選手に負けたりするのも無駄な練習が多いから。世界のリーダーを相手に渡り合うコミュニケーション力も要る」と述べておられました。・・・・リーダーシップに求められているのは、スポーツ界も、会社の経営者や管理職でも同じです。目的に向かって無駄のない合理的な鍛錬と、計画性のPDCAや実行力が要ります。モチベーションを高めて目的に向かって合理的な努力をするチームに、旧弊管理職統制主義的威圧と恫喝で動く集団は勝てません。
    京大総長の山極寿一さんは「霊長類の中で人間に最も近く約1千万年前に分岐したヒト科(類人猿 )のチンパンジーやゴリラは、例えばゴリラ序列がない仲間並列社会で、フォロワーに推されたリーダーが存在する。・・・約2-3千万年前に分岐したオナガザル科のニホンザル序列タテ社会で"恫喝やえこひいきで自分の力を誇示"することで群れを押さえつけておかないと、自分の地位を保てないパワーシステムが存在するボス型支配。」と説明していましたが、冒頭の相撲協会、日大アメフト、ボクシング連盟や内向き大企業病が蔓延して沈滞ムードの会社等々・・"戦後日本型組織”はニホンザルの社会に近そうです。
    日本は、1945の敗戦でGDPが戦前の半分に落ちましたが、敗戦後10年間の戦後復興で倍増し、1955年頃には開戦直前の3千ドルくらいにまで回復できました。明治・大正と昭和一桁の方々モーレツな働きのお蔭です。1955年からは高度成長が始まり、1973年のオイルショック以降は安定成長へと35年もの右肩上がりの時代謳歌できました。しかし1991年からのバブル崩壊以降大きく衰退し、一人当りGDPは、1993年に世界トップとなってから年々落ちて、今は25位です。しかも一人当たりGDPで日本に近い独仏英と比べても最低賃金の低さが際立ってます。日本の最低賃金は「労働時間一時間当たりGDPの28%」で、独仏英のほぼ半分です。
     日本の就業者数67百万人の内訳で雇用者数は約59百万人で、その勤務先は7割が中小企業、大会社は3割です。日本社会を良くしていく上では7割が勤務する中小企業の職場環境と経営状態が極めて重要です。ちなみに統計上の中小企業とは、資本金が、製造業で3億円以下、卸売業で1億円以下、サービス業で5千万円以下です。中小企業庁の発表では、売上高485兆円、経常利益18.5兆円。小規模な会社ほど雇用の多様性が広がっているようです。
     非上場でもサントリー竹中工務店のような大会社もありますが、殆どが資本金5億円以下の中小企業です。この非上場企業の株式に関し、日経新聞2018.1.13付は「日銀資金循環統計によると家計の金融資産1,845兆円の内訳で、非上場株84兆円(2017.9時点)と上場株107兆円」と報道していました。この家計部門の非上場株84兆円は、GDPで言えば、オランダやトルコ、関西2府5県に相当します。家庭部門が持つが上場株の8割相当非上場株84億円の多くが会社法の不備などもあって、塩漬けとなっているものと危惧します。家庭で塩漬けの非上場株の資金流動化して活かされるようになると、家庭も日本経済もベターになると期待できます。
     上場会社大会社の場合には、株主代表訴訟や、世間の牽制も働くのでそれなりにガバナンスもあるレベル以上には整う条件と環境があります。資本金5億円以下でも、規模が小さな零細の部類ほど雇用の多様性が広がっているのは、働き手を確保するための必要性からの牽制が働くからです。・・・会社法も大会社となる資本金5億円以上には適正のための内部統制を求めているので多少の改善が期待できます。・・・問題なのは資本金5億円以下の規模が大きな会社ほど私物化などガバナンスが不適正な会社が多くなりがちということです。・・・このガバナンスが不適正なままの非公開会社の中には、支配株主の私益のために犠牲にされた一般株式がかなり含まれるものと推定できます。上場を目指したり、株価上昇のチャンスもないのに従業員持ち株会があったり、お付き合いの政策株で法人持株があったりで、株主権が希薄化の恐れもあります。・・・。「大株主や役員の専横を防ぐ」ために「一定以上の株数を持つ株主には議決権割合に応じた少数株主権」が与えられているのですが、上場会社よりも活かされる機会が少ないものと推察します。
     働き方改革とは、生産性向上を実現し、生まれた成果の付加価値会社と従業員で分け合うというのが本来の目的ですから、株主経営者に対する牽制や監督が極めて重要です。・・・・株式とは会社の所有権を均一に分割したものですから、株主は「持株数に応じた支配権」を持ちます。・・・世間一般で言われる会社オーナーとは「株主総会で決議できる支配株主」のことです。持株67%以上の「特別決議権オーナー」や持株51%以上の「普通決議権オーナー」、上場会社の「持株20%以上の持分法適用オーナー」などはオーナー自身のリスクも明確ですが、「同族持株30%以上の同族オーナー」の中心的な株主や、「持株20%未満の大株主ではあるが、基本的な立場は雇われ経営者」が、オーナーほどの支配権を持つわけでもないのに、オーナーのようにふるまうと、株式会社の制度会社法歪めてしまう可能性が高くなります。例えば東芝のような大会社では雇われ経営者が社長引退後も利権を持ち続けようとして不祥事も起こっているようですが、非上場の場合には、目立たない分だけ色々なことが起こると歯止めが利きにくいというか、自浄作用が働かないということもあるように思います。
    欧米は、株主の権利が強くなりすぎたので、次の発展段階としてESG投資などの推奨が高まっていますが、日本は周回遅れまずは株主総会株主権の役割を高めていく必要があります。そのことで民主主義と法の支配にふさわしい、自由主義的な経営、従業員の内発的動機をエンジンにしたエンパワメントされた事業展開と組織運営が広がっていくものと期待します。

2018-07-07 212.戦後日本型から「先進国型の働き方」へ

*トランプ政権による「対中制裁発動(知的財産侵害)2018.7.6付」は、戦後世界の秩序を米国第一(America First)で軌道修正をしていくための号砲のようです。 耐久消費財の自動車も、生産財半導体や電子部品も、大きな構造変化が始まっています。戦後日本型組織に過剰適応した「個を押しつぶした働き方と人生」を払拭し、日本経済の生産性と個人・家族・共同体の幸福度を高めて、継往開来で次世代につないでいきたいものです。

   日経2018.7.5付で「農業はオランダに学べといわれるが、漁業はノルウェーに学ぶべきだ」と訴えていましたが、全く同感です。マーケティングと顧客接点を含めた働き方や仕事の組み立て方が参考になります。オランダは、九州ほどの国土で米国に次ぐ農産物輸出大国です。ノルウェーは、漁船一隻あたりの漁獲量日本の20倍漁業者一人当り生産量が8倍弱で「漁船に水揚げされた時点からオンラインで国内外の顧客と取引が始まるシステムを構築」できているそうです。日本は官僚主導の指導的行政で、官僚が規制に基づく管理の中心にいて、農業や漁業の方々を作業者で動員しているような側面があるのですが、民間の現場の方々の知恵を活かすような環境整備のためのサポート行政に回るべきではないでしょうか。
   今の働き方改革も実際は「上から目線の働かせ方改革」のようで、本来の「多様な一人一人の事情に応じた働き方で、一人一人の生産性を高めていく」という目的からはずれているような気がします。「クリエイティブな仕事ができる人材の層より分厚く」していくには、戦後日本型の「一括採用・年功序列・終身雇用」を変えていく必要があります。・・・日米の人事制度に詳しい有賀誠氏(ミスミグループ本社)なるお方が「日本ホワイトカラー年功的色彩が強い。反対に工場や店舗のブルーワーカー能力主義。この点で日米は真逆。」しかも「現在の日本の人事制度では世界に通用するリーダー育てることが難しい。日本では、会社が社員のキャリアパスを決め、社員会社の指示によって働いているように感じます。・・・自分自身のキャリアプランすら作れない人間に、企業戦略など作れるわけがありません。米国では社員がキャリアパスを選択し、社員が自らキャリアを構築することが推奨されます。」と世界に通用するリーダーを育成していく上で米国のやり方がベターと述べておられましたが、このあたりは筆者/青草新吾も同じことを感じています。
   自動車の大変化を最近ではCASE( 接続 Connecting/ 自動運転 Autonomous / 共有貸借 Sharing / Electrification )と表現する方が増えていますが、所有よりもシェアリングでの利用が増えていけば、クルマの販売では、法人の購入比率が高まる一方で、台数はいずれピークアウトして減じていくことになります。・・・自動運転に向けては先進運転支援システム(ADAS)で、ミリ波レーダーや、レーザーレーダー(LIDAR)、高精細カメラと人口知能(AI)の開発が進んでいますが、電子回路基板では高周波対応基板の開発が活発です。フッ素樹脂LCP(液晶ポリマ)などの機能性樹脂が採用されています。村田製作所はLCPベースのメトロサークなる画期的な基板の量産を開始しています。自動車に先行してアップルのスマホで採用されたようです。・・・電動化では、電力変換のパワーモジュールインバータが日進月歩です。電子基板では放熱基板が使われます。日本電産は、モーターとギアボックスとインバータを含めたトラクションもたーシステムを開発中と発表しています。自動車の大変化では材料やデバイスも連動して大変化が進みます。・・・車載用リチウムイオン電池では、2011年創業のCATL( 寧徳時代新能源科技 ning2 de2 shi2 dai4 xin1 neng2 yuan2 ke1 ji4 )が17年の出荷量で首位に立ち、3位のBYD( 比亜迪 bi3 ya4 di2 )など中国勢で世界シェア6割だそうです。米テスラと組んで世界首位だったパナソニックは2位に後退したそうです。
   日本のお家芸だった二次電池でも、165[ 2008.9,6 高性能2次電池 ]の頃からは様変わりしてきています。TDKは、2005年に買収した香港ATLリチウムイオン電池を製造し、iPhoneなどに供給しているようですが、これからは電動二輪車向けへの供給も開始する準備に入っているようです。またセラミック全固体電池の量産開始も発表済みです。高周波部品の王者ともいえる村田製作所も電池に参入しました。リチウムイオン電池を世界最初に市場投入したソニーは同事業を村田製作所に託し、2017.9に譲渡しました。村田もTDK同様に全固体電池を市場投入(2019予定)すると発表しています。村田は電子基板にも参入しました。上述のメトロサークは、12層多層樹脂基板でありながらFPC並の屈曲性を持つそうです。詳しくはウエブサイト「iPhoneX 分解して理解する」 *1で見れます。
日本はものづくりが強いといわれてきましたが環境激変で、必ずしもそうはいえなくなってきています。藤原敬之なるお方が「日本が強いのは目に見えるモノの連続的な変化。象徴が自動車やゲームなどの世界的競争力の強さ。一方で、苦手で弱いのが不連続な製品をゼロから作り出すこと。象徴的なのが90年代以降のグローバリゼーションの波に乗れなかったこと。」と述べておられましたが筆者/青草新吾も全くの同感です。・・・歴史的に蓄積されてきた強みと弱みですが、敗戦後のGHQ統治(例えばWGP War Guilt Information Program など)と日教組教育で増幅されてしまったのが「戦後日本型の悪平等や序列優先組織」です。
    東大初の女性教授で現名誉教授の中根千枝さん(今年87才だとか)が半世紀前の1967(昭和42)に上梓した名著「タテ社会の人間関係 単一社会の理論」*2は今でも輝きを放っています。日本社会には元々から、1.その人の属性よりも所属する場を重視する偏り。(例えば自己紹介では「営業です。今はこの会社でやってます。」ではなくて「○△一流会社に勤務してます」と答えてしまうなど。)・・・ 2.横の関係が希薄なままの閉鎖的なタテ社会での序列を偏重する嫌い。(西欧の階層社会のような、各階層の横のつながりはあまりない。)・・・ 3.能力差や個人差を認めたがらない悪平等信仰。(高度成長時代の年功序列や職能人事制度がこれを助長した。)・・・4.論理性と国際性の欠如。感情を優先した議論が許されてしまう土壌。・・・これら元々から日本社会にあって、戦後に助長されてしまった悪弊が「会社依存」や「戦後日本型組織のごちゃごちゃ責任分担や悪平等」です。筆者/青草新吾は、先々週の北大阪地震(2018.6)の「高槻市の塀倒壊・女児死亡」で重なって見えました。
    この高槻市寿永(じゅえい)小学校のブロック塀については、2015.11に専門家が危険性を指摘していたそうです。ところが高槻市教育委員会の対応はといえば、無資格の素人職員に簡易点検をさせて「安全性に問題はない」と結論づけていたそうです。ここに戦後日本の増幅された「悪平等=専門家軽視」と、誰が責任者で、誰が専門家なのか、ぐちゃぐちゃなままで色んな人が色んな口を出す「戦後日本型組織ぐちゃぐちゃ責任分担」が見てとれます。最後は素人が専門家の意見を軽く無視したという点では、戦後日本型の働き方の典型事例ではないでしょうか。ウエブサイトから「戦後日本型の働き方を止めて、先進国型の働き方働き方改革しよう。日本サラリーマンの奴隷化は責任分担の明確化で改めよ」*3と、「戦後の働き方 いつからおかしくなった? 勝負できる人材になろう」*4をピックアップしてみました。参考になれば幸甚です。
    日本の生産性は先進国最低レベルです。工場での生産性は高いのに、オフィスの生産性が低いのです。何でこんなことになっているかといえば、工場の働き方をそのままオフィスに持ち込んでしまったからです。戦後日本型の働き方を改革して一人一人の生産性を高めていかねばなりません。「働き甲斐がある会社」の上位人気会社/半導体ウエハー精密切断と精密研磨で世界ナンバーワンのディスコ http://www.nikkei.com/video/5668429900001/ の関家一馬社長が日経ビジネス2018.6.11で「世の流れは、”内発的動機をエンジンにした自由主義型経営”の時代。命令と統制の統制経済型経営は時代遅れ。”命令と恫喝で人を動かそう”とする人は、官僚的なやり方で上がってきた人に多い。当社ではポジションの高い人はほぼやめました。」と述べておられましたがその通りだと感じ入ります。・・・「おおたとしまさ」さんといわれるお方が「多様な人々が同じビジョンに向かって少しずつ主体的に変わっていくことで、結果的に社会もじわじわと変わるそのような変化のモデルをイメージして、これからの時代においては、社会の変え方も変えなければいけないのかもしれない」と投稿しておられましたが、その通りだと思います。人生80年から100年時代と言われます。健康寿命、職業寿命、資産寿命を延ばしていく上でも「先進国型の働き方」へと皆で変えていくことで、幸福度が高い世の中を目指していきましょう。 

*1: 「iPhoneX 分解して理解する」http://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/1712/11/news037.html

*2: 「タテ社会の人間関係」 ISBN:9784061155053

*3: 「先進国型の働き方へ改めよう」 http://agora-web.jp/archives/1565803.html

*4: 「戦後日本型働き方を改めて、勝負できる人材になろう」 https://shuchi.php.co.jp/the21/detail/4990

2018-05-02 211 会社の役目は営利とイノベーション

会社は公正な稼ぎを従業員や社会に分配し、公正な競争を通してイノベーションを育む社会の公器であり制度です。勤労者の幸福度と民主主義を支えます。日本電産ユニクロのように「創業社長が身に着けている事業家としての製品と市場への深い知見に基づく決断とリーダーシップ」こそが発展のプラットフォームです。経営危機から復活したシャープも「台湾の鴻海(Hon Hai)が買収してくれてハッピーだった。事業家よりも管理者に偏った日本人経営者に弄(いじ)り回されるだけだったら今の復活はなかった」とみている方も少なからずおられるようです。

 日本電産永守重信創業者は「日本の経営者には管理職が多い。」と感想を述べたことが多々あるようですが、経営者の仕事未来を切り開いていく継往開来です。そのための仕組づくり販路調達ソース獲得」です。トップは付加価値を生み続けるのが仕事です。付加価値を生み続けるトップの仕事を補佐する有能なお方が、トップに登り詰めて、やることなすことが管理職そのままでは、トップの機能不全ですからうまくありません。
  ビジネスマンが職業人生をより豊かにしていく上で、会社に自分の人生を委ねてしまわない創造的なプロフェッショナルな職業人として生きていく上では、前頁(210)で触れた日本社会や日本的組織の弱点を理解しておくのが役にたちます。曰く、堺屋太一*1の「日本的組織を死に至らせる三つの病」や、小城武彦氏の*2の「環境変化で衰退が始まる会社の共通点は、日本型組織が持つ衰退惹起サイクルへの歯止めを持たないままの、政治的な風土の会社」、野中郁次郎氏など*3の「(日本型組織の)失敗の本質は、学習能力や自己革新能力に乏しく合理的な判断よりも空気に支配される政治的な風土」等は、とても参考になります。イノベーションを貴ぶ価値観が日本社会に広まれば、これらの「日本型組織の弱点」も改善されやすくなると期待します。・・・ イノベーションは、経済発展の原動力となり、国民経済を豊かにしていく主要なエンジンです。
  日本的なものづくりとイノベーションについて「日本人にはディズニーランドは作れない。だが米国人には旭山動物園は作れない。天才経営者の発想を具現化する力は米国が上だが、旭山動物園は個々の動物をいかに生き生きと見せるかという現場の実践知の積み重ねで成功した。日本の製造業に必要なのは日本型ものづくりのアップグレード。」と遠藤功なる経営コンサルタントのお方がNewsweek 2017.12.19に寄稿しておられましたが、大賛成です。・・・・米国でMRIコイル製造QED社を起業した藤田浩之氏は、大統領の一般教書演説賓客として招かれた初めての日本人イノベーターですが「ベンチャー在籍時に驚いたことは、同じ製品を販売しているのに、東芝メディカル向けだけは数年後には品質がダントツに良くなった。これは東芝メディカルからベンチャーの品質部門や技術部門に毎週フォローをかけて改善していったからで、このような頻度で製品の品質を追求するのは日本メーカーだけ。一方で、独連邦や米合衆国のメーカーが優れているのは”従来の固定観念に縛られないThink outside the box ”という自由で柔軟な考え方がより根付いていること。日本企業はリスクを取って失敗したらもう昇進できないような空気を取り除かなければいけない。早く失敗し、そこから学び、教訓をみんなと共有することがイノベーションを育む環境を作っていく。」とWedge 2018.1月号に寄稿しておられました。
  産業集積レベルでのイノベーションということでは、シリコンバレーの後を追って深セントップランナーに飛び出てきました。ここに至るまでの20数年の流れを簡単に振り返ってみます。新しいビジネスモデルとしてのEMS(電子機器受託製造 Electronics manufacturing Service)の登場から始まるプロセスイノベーションの歴史でもあります。・・・・シリコンバレー深センで起こったものづくりのイノベーションをみると、多くの日本企業の競争力が劣後していった理由がよく分ります。「新しい価値を創造するプロセス」が欠落するか弱かったということです。日本の会社も個人も「新しい価値を創造するプロセス」を強化していく活動を強化する必要があります。それでは振り返ってみましょう。
  EMSは、日系人のニシムラさんなるお方が、IBMの製造部門からソレクトロン(Solectron)なる会社に移り、1990年代にIBMからの受託製造を開始したことから始まります。ここで「構築した仕組みとプロセス」が新しいビジネスモデルとして拡散し、台湾で発展し、設計も行うODM(Original Design Manufacturing)が生まれ、大陸に進出したことで更に発展しました。・・・携帯電話の時代に、台湾の半導体メーカーのメディアテックが推奨設計書とソフトをつけてのレファレンス付販売を開始したことで、深センでは、山賊会社と呼ばれた政府の管轄から逃れた業者が作る携帯電話の電子基板の設計を担うIDH(設計専門会社 Independent Design House )が数多く生まれました。筆者/青草新吾が89[ 2007.5.7 テレビで中国]で、華南の広州や深センに出張した際にあれこれ思索に触れていた頃のことです。・・・・携帯に続くスマホの時代は米クアルコムSoC(System on Chip 一個の半導体チップに殆どあるいはすべての機能を実装してしまった製品)が中心になったことから、物凄い淘汰が起こり、生き残ったパワフルなIDHが、販売台数を増やし続けるスマホメーカーとの地場産業としての好循環を形成するに至った、というものです。・・・Yahooへの寄稿で高口康太なるお方(BUSINESS INSIDER 2018.4.30)によると「ZTE(中興通訊 Zhong Xing Telecommunication Equipment )からのスピンアウト組みが台頭」したそうです。・・・・シリコンバレー深センでは、産業のプロセスイノベーションで、「発明や商品化」と「量産のモノづくり」が「完全に分離」され、しかもスタートアップの起業インフラでも、従来からのベンチャーキャピタル(Venture Capital)やインキュベータ(起業支援 incubator)に加えて、アクセラレータ(成長加速短期支援会社 Accelarator)なる役目を引き受ける機能が充実したようです。今や、「ブランド力販売手法・サービス競争力がある」とみなされたスタートアップの会社が、物凄いスピードで起業から事業化を進めてしまう仕組みとプロセスができているそうです。Wedge 2018.2ではハードウエアスタートアップの会社が、製品の製造に漕ぎつけるまでの量産化プロセスを支援して加速させるアクセラレータと呼ばれる事業者や、長期間関わりプロダクトマーケットフィットを支援するインキュベータを紹介していました。「新しい価値を生む才能あふれた人材とそのチーム」を前面に押し出して経済全体を底上げしていく仕組みが強化される一方です。・・・・NEWSWEEK 2017.12.19は「日本を置き去りにする(米中の)作らない製造業」という特集を組んでいましたが、今や、世界のスマホ市場のトップ10は、アップル韓国2社(サムスン・LG電子)を除く7社が中国勢になりました。香港に隣接する深センを中心に発展した珠江デルタは、1%未満の領土、5%未満の人口で、GDPの1割以上、輸出の25%を生み出すまでになっています。・・・・中国共産党は「Made in China 2025」に向かって「Designed in California からDesigned in China」の標榜を始めました。米国シリコンバレーが開発する商品の製造部門を深セン・華南が分業で引き受けることで大きく経済発展した中国ですが、その中国が今度は、Designed in Chinaで商品開発と設計もできるようになろうとしています。
  ソフトブレーンを起業した宋文洲氏が「日本政府の働き方改革・法案失礼千万だ」とメルマガで批判していました。曰く「先日深センの飲食業で社員が楽になって顧客が満足する風景を見ました。 二次元バーコードを携帯でスキャンして写真付きのメニューから食事を注文し、 食事後にそのまま携帯で支払うのです。注文取りなし、レジなしです。 社員がやることはクレーム処理や老人や子供の手伝いです。・・・今の中国役所も銀行も土日営業。勤労者は仕事時間外の土日行政サービス金融サービスを受けるのが当たり前の社会になっている。・・・規制緩和を通じて金融改革をした上、経営者が 技術投資と経営改革を敢行しない限り、上述のようなサービスは出現しません。・・・与党と経営者団体がやるべきは「社員が働き方を決める権利を尊重すること。自由な労働市場に基づきより良いサービス規制緩和経営改革を通じて 実現すること」ではないのか?と政治家や経営者が自分がまずやるべきことをやるべきでないか、上から目線で押しつけがましいのではないか?と批判していました。もっともです。・・・・日本の勤労者7割が非上場企業で働いています。ですから非上場企業の改革も必要です。
  会社私物化の極端な例として、韓進グループ大韓航空創業家世襲ファミリー経営者として会社を私物化する様が報道されています。世襲3代目の事件ですが、2014年に「激高して離陸する飛行機をリターンさせた長女のナッツ姫」が、今年2018年には、先週あたりから「激高して取引先の男に水をかけた次女の水かけ姫」の報道を時々見聞きします。凶暴な面が目立つのでメディアも報道しやすいのでしょうが・・・。凶暴さを除けば、日本でも、同様のことが、さすがに上場会社では少ないようですが、非上場会社では少なからずみられるようです。・・・・日本の場合には、非上場会社については会社法の整備の遅れや、税制の歪みが大きいからか、私物化事例も多いようです。
>http://www.eurekapu.com/difference-shop-company 「個人商店」と「株式会社」は、なにが違い、会計処理がどう変わるのか? > 個人商店の資産はすべて商店主のものです。株式会社の資産はすべて法人である会社のものです。会社は、株主が持株比率に応じて支配権を持ちます。よく人材は会社の財産といいますが誤りです。人材は奴隷ではありませんから、会社の財産などということはあり得ません。法的人格においては「法人と対等な個人」です。

*1:ISBN:9784569539416「組織の盛衰」

*2: ISBN:9784492533901「衰退の法則」

*3:ISBN:9784122018334「失敗の本質」

2018-04-13 210.会社員もフリーランスも 「稼ぐ力」で乗り切る大変化の時代

バブル崩壊以降、自動車産業が大きく伸びて日本経済を支えてくれました。その自動車産業もピークアウトに向かっています。環境規制への対応と電動化(Electrification)・インターネット常時接続化(Connected)・自動運転化(Autonomous)の流れで「非連続的イノベーション」が加速します。大企業の正社員であることが安定を意味しない、個人が稼ぐ力をつけて家族と地域、世の中を盛り上げていく時代への大変化です。

今の日本の足元の景気の良さも、外需の自動車産業への依存が高いという側面があります。電子デバイス産業新聞2018.4.5付が「国際ロボット連盟(IFR)が産業ロボットの需要が強い、16年対比で17年は118%の347千台、20年は177%の521千台と発表している。中国で19年から開始されるNEV規制EVへの補助で、中国では工場建設設備調達が活発。日本の産業ロボット各社では、減速機や直動部品のロボットメーカーどうしの取り合いが激しくなっている。」と伝えていました。

また世界のエコカー販売動向について、電子デバイス新聞2018.3.29付は「IHSマークイットの予測では、20年の約13百万台が29年に約53百万台。20年以降は、トヨタプリウスのようなフルHVよりも、より簡素で低価格のスズキのハスラーのようなマイルドHV(エンジン中心でモーターがアシスト)が急増してエコカーの過半を超える。・・・EVはフル充電に10時間もかかり、もし30年に日本の新車販売の半分がEVになると原発3基分2.7ギガワット(2.7百万KW)分の電力が新規に要るから簡単ではない。・・・中国はそれでもエコカーEV優先でいく。20年までにエコカー1台に充電設備1台を普及させ、太陽光などの再生可能エネルギー原子力発電を大幅に増やしていく政策をとっている。世界の自動車市場の3分の1を占める中国のインパクトは大きい。」と、エコカーは欧米日の主流がマイルドHV、中国の主流がEVというトレンドを報道していました。・・・今後の自動車需要の拡大地域であるアフリカを含む新興国では、既存のガソリン車やディーゼル車がさらに進化したモデルの販売拡大が続くでしょうから、グローバルでは自動車需要が増え続け、既存技術が一挙に消滅するわけではないでしょうが、米欧日と中国で起こる非連続イノベーションがもたらす大変化は避けられません。
本日2018.4.13の朝刊で、トヨタ系の日野自動車トヨタとつばぜり合いの独VW商用車部門での提携が報道されています。「自動運転などでは商用車の方が変化が速い。先頭を走るダイムラーの後は中国勢がひしめく。トヨタグループの中だけでは対応できない。トヨタと独VWは乗車車ではライバルだが、商用車だとこれまた別の話」ということのようです。

米GMの幹部が「自動車産業は、過去50年で経験した変化を、これからの5年くらいで経験していくことになる」と覚悟を示していたそうですが、産業社会で最大規模の産業である自動車産業の変化は社会変動へのインパクトも大きいでしょう。・・・日本の組織の多くが持続的(sustainable)な連続的イノベーションで強みを発揮してGDP世界3位の経済大国を作ってきました。その典型事例が自動車産業です。その自動車産業がこれから立ち向かうのはビッグバン的(disruptive)な非連続的イノベーションです。内燃機関がモーターへ、独立空間のキャビンがインターネットに常時接続するコネクテッドカーへ、所有から利用のシェアリング・・等々。

日本社会は、底から這いあがる力連続的イノベーションは世界有数ですが、大変化に対応する力非連続的イノベーションは必ずしも強くありません。どちらかというと日本は弱い。日本社会が弱い分野では、社会や組織に頼りたくとも頼れませんから、個人が力量と付加価値を高めていく必要があります。・・・個人が価値を高めていこうとすれば、会社で働く場合であれ、フリーランスで会社を取引先として働く場合であれ、環境変化に弱い会社と強い会社、環境変化に負けて衰退する会社と、環境変化を乗り越えて発展が続く会社、の違いを知っておくのがベターです。
産業再生機構カネボウ丸善の社長を務め、今は都市部から地方に経営人材を送り込むのが仕事の日本人材機構の社長の小城武彦(おぎたけひこ)氏は、ご自身の調査研究を上梓*1されました。内容は経験的に言われてきたこと膨大な調査データで立証したことに意義があります。・・・環境変化に適応できずに衰退が始まる会社とは、日本型組織の弱点(衰退惹起サイクル=サイレントキラー)に歯止めがかからない会社です。・・・そのまま引用しますと「破綻企業における経営幹部の最大の特徴は、社内政治力がとても強いことです。役職・立場・人間関係をてこに仕事をします。そこにロジックはありません、経営リテラシー実務能力低いのも特徴です。議論の大半が経験談と持論であり、ロジック・理論・データは存在しません。事実に基づく戦略論が苦手で勉強してません、だからスタッフへの丸投げが多いです。彼らの指示に特徴があって手続きに偏重します。調整しろ、頑張れ、とは言いますが、どうすればいいかは言えません、数字も後講釈で「営業利益がなぜこれだけ」とは言いますがどうしたらいいかは言えません。」ということです。環境変化で衰退が始まる会社とは、「極めて政治的な企業風土」で「社員の話題も人事の噂など内向きなことが中心だった」というのは頷(うなづ)けます。・・・反対に環境変化を乗り越えて発展が続く会社とは、サイレントキラーの日本型組織の弱点に歯止めがかかっている会社です。そのまま引用しますと「優良企業も意外と破綻企業と似ていることに驚きましたが、決定的な差異が見つかりました。”事実をベースにした議論尊重する規範の存在”と”人事において公正な登用プロセスが機能していること”の二点です。」ということです。事実に基づく判断、知的で公正な仕事の進め方が規範として確立されているような会社風土は、歴代のリーダーの真摯な姿勢によって醸成されていくものです。・・・ミスミグループの元会長の三枝匡(さえぐさただし)氏*2は「熱き心と論理性こそがリーダーの条件」といい、一方では多くの日本企業の宿痾(しゅくあ、持病)は「日本企業にはびこる政治性」と指摘をしてきています。・・・・日本的組織の弱点については、堺屋太一氏の著書の組織の盛衰で訴えた「日本的組織死に至らせる三つの病](環境への過剰適応・成功体験埋没・機能組織の共同体化))*3などがとても参考になりました。野中郁次郎氏などの共著「失敗の本質」*4も含め、日本型組織の弱点を知っておくことは、経営や働き方改革の上でも役に立ちます。
日本社会は未だに敗戦後の高度成長時代の右肩上がりの時代に定着した「均一な効率性に偏った社会」です。画一的で外れ者を排除する社会ですから独創的で図抜けたエリートが育ちにくい社会です。学校教育を変えていく必要があります。・・・他の先進国に比べて日本は産業の新陳代謝が緩やかです。規制やしがらみが多いからです。政治と行政イノベーションを阻害しているような面があります。今の国会をみていると、政局の政争ばかりで、日本が世界の変化のスピードについていけてない状態は残念です。高齢貧困者や、貧困層の子供が増えている状態に危機感を覚えないのでしょうか。残念ながら日本社会の教育・行政・会社組織の多くは頼りになりません。日本社会は時代についていけてない面が多いのですが、時代の流れ世の中の変化どのように変わってきたのか、そしてどのように変わっていくのかを知っておく必要があります。

明治以降のキャッチアップアップ型社会と右肩上がりの社会が終わってパラダイムシフトして世の中は、成熟社会とか脱工業化社会と言われます。筆者/青草新吾は堺屋太一氏の知価社会という表現がイメージし易いと感じてます。堺屋太一氏が著書の知価革命で訴えた規格型大量生産社会から知価社会*5への移行のイメージはとても参考になりました。

1985年のプラザ合意、89年のベルリンの壁崩壊、その後のバブル崩壊と20年デフレを経てもなお、明治維新以降の欧米に追い付き追い越せのキャッチアップ型・規格大量生産型の制度が、あまりにも深く日本社会の各分野に沁(し)み込んでしまっており、一番時代遅れなのが、政治・教育・行政などの世界ではないでしょうか。

メディア報道や国会があまりにも偏っているので、国民主権の立場からも「働いて納税する国民である私どもは、事実に基づいてバランスよく公平に判断することが必要」です。・・・ギリシャ並みの公務員天国と言われてきた大阪市ですが、この2018.4.1付で大阪メトロが誕生しました。市営地下鉄が民営化されてました。関市長や大阪維新の功績です。・・・加計学園は、52年ぶりの獣医学部新設です。地元の愛媛県は農業畜産県です。文部省官僚や既設大学の利権を突き破って新設されたことに意義があります。これは安倍政権の功績です。加計学園が競争相手よりも利益誘導された事実があるとすれば問題ですが、競争相手もなかったのならば何が問題なのでしょうか? TPP11(環太平洋経済連携協定)を放置してまで優先審議するようなこと?なのでしょうか。どちらが国民にとって重要なのでしょうか。自国民が北朝鮮に拉致されたままでよいのでしょうか。立憲民主党社会民主党日本を規制だらけで貧しくするようなことばかり言ってないで、もっと国民生活を豊かにするような日本国の付加価値を高めていくような仕事をすべきではないでしょうか。

立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏は、生保勤務時代には、トップと考えが合わず子会社への異動を発令されて出向。58才でライフネット生命保険を起業し、東証マザーズで上場と売上1百億円の会社を実現。社長退任で「若い世代を前面に立て、後陣から支える役割に回る」と挨拶し会長に就任、さらに2017.11に立命館アジア太平洋大の次期学長に選出されて、最後はライフネット生命の全役職を退任されたお方です。ご本人は「「ガバナンスの点からは最高顧問は良くないし、社長と会長を10年やって、10年ってきれいなのでライフネットの全役職からの退任を決めた。」と述べておられます。・・・その出口治明氏は日経新聞2018.3.5付で”自分が働く会社への信頼度”に関し「米エデルマン社の調査では、日本の勤労者の自分が働く会社への信頼度は主要28カ国中では韓国と並んで最低。理由は企業が高度成長の成功体験から脱却できず、時代の変化に対応できていない肌感覚で知っているからではないか。一方で、社会や組織の未来よりも、自分の立場を守り、逃げ切ることを重視する。日本を覆う閉塞感の正体は、様々な立場で日々繰り返される不作為の累積であるような気がしてならない。」として、日本人勤労者への提言として「世界に目を向け、次世代のためにできることを考えよう。不作為をやめ、今の職場で、家庭で、地域で、できることから行動してみよう。」と寄稿しておられました。まったく同感です。

*1: ISBN:9784492533901「衰退の法則」

*2: ISBN:9784532191450「戦略プロフェッショナル」

*3:ISBN:9784569539416)「組織の盛衰」

*4: ISBN:9784122018334 「失敗の本質」 

*5: ISBN:9784770014429「知価革命」