2007-11-25 107-2/3 HDD業界の再編/ランチェスター戦略
ハードディスクドライブ(HDD)の業界再編をみるにつけ、米国流ランチェスター戦略の強者の戦略(ワンランク下のライバルを食う)みたいな思考を感じます。
筆者/青草新吾は1985年前後にHDD向けの案件開発と顧客企業の量産立ち上げに関わったことがあります。当時の顧客企業の開発目標は3.5インチ/ハーフハイト/40MBでした。垂直磁気記録は当時も研究されていましたが実現までには至りませんでした。1985年前後に数十社あったHDDメーカーも30年後の今は6社ほどに集約されました。垂直磁気記録も実現し、記憶容量も数十ギガバイトと百倍近くも能力が高くなっています。用途もパソコン以外の車載やデジタル情報家電向けが増えています。鉄鋼業界やFPDパネルでみられたグローバル大企業の熾烈な競争と寡占化・・水平分業モデルと垂直統合モデルのせめぎ合いがここでもみられます。
HDD専業トップのシーゲート(Seagate)は2005年に世界3位のマックストア(Maxtor)を買収しました。HDD専業世界2位のウエスタンデジタル(WD)は垂直統合モデルを推進し、2003年に経営破綻した磁気ヘッドメーカーのRead Riteを買収し、磁気ヘッドの内製を開始しました。2007年には円盤(メディア)メーカーのコマグ(Komag)を買収し、円盤の内製能力を獲得しました。
磁気ヘッドの供給では、上述2003年のWDのヘッド内製化と2005年のシーゲートによるマックストア買収で、日本のTDKとアルプス電気は主要顧客を失いました。TDKは2001年頃に新規参入してきた韓国の三星電子向けなどでカバーしましたが、アルプス電気は事業売却を余儀なくされてしまいました。今年2007年にはTDKがアルプス電気の磁気ヘッド事業を買収(361.5億円)することが決定しました。一方、磁気ヘッド事業を手放したアルプス電気の穴埋め策については下述します。円盤の供給でも、内製シェアが高まり外販市場のシェアが縮小しました。
これらの一連の流れで感ずるのは、米国企業の狩猟的な奪取思考と日本企業の農耕的な栽培思考の大きなギャップです。モルガンスタンレー証券の村田朋博氏がElectric Journal 2007年8月号で「2003年にWDCが150億円規模でRead Riteを買収したことでTDKとアルプスの両社は2社合計の付加価値で年間400億円規模の限界利益を失った。あるいはSeagateといえども100億円/四半期の赤字企業だったMaxtorの買収は勇気がいることだったろうが、敵の嫌がることをやるという点で戦略的な買収といえる。また2007年のWDCによるコマグ(Komag)買収ではSeagateのCEOから『わたしだったら買っていたのに、何故、円盤(メディア)メーカーの昭和電工もしくは富士電機が買収しなかったのかわからない。』と聞いた。」と記述していました。中国外交の「敵の敵は友」に通ずる発想ですが、3C分析の競合企業(C)・顧客企業(C)・自社組織(C)でいえば、単一事業型の米国企業が顧客企業(Customer)の争奪ゲームと競合企業(Competitor)との関係性に重きをおくのに対して、複合事業型の日本企業は自社(Company)内部のシナジーの視点に重きをおくということでしょうか・・・。
尚、2007年8月28日付電波新聞は「中国企業がシーゲート買収に動いていると、ニューヨークタイムズが米シーゲート幹部の話を伝えた。シーゲートに身売りの考えはないが、株価にプレミアをつけて株主に提示されれば、身売り話を止めるのは困難と語ったらしい。1兆3千億ドル以上の外貨準備を背景に、中国企業による多国籍企業買収は続くことが予想される。」と報道していました。