青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

生産財の青草新吾1はリタイア。シニアの青草新吾2は複業で貢献を目指す。

130-1/2. アジア三国志

アジア三国志の著者/ビル・エモット氏は「明日のアジアのバランス・オブ・パワーを形作るのは経済よりも政治だろう」といいます。

欧州人が抱く日本人のイメージに関し、欧州生活の達人/デュラン・れい子氏は著書「一度も植民地になったことがない日本」*1で「米国人、オランダ人、アフリカ人、日本人が戸外で食事をしていました。ハエが飛んできて皿にとまりました。米国人は叩いて殺してしまいました。アフリカ人はムシャムシャ食べてしまいました。それをみたオランダ人は、捕まえたハエをアフリカ人に差し出して[さぁ、いくらで買いますか?]と聞きました。・・・日本人は、ケイタイを持って席を外し、東京本社に国際電話をかけて[モシモシ、アフリカにおける食糧としてのハエの需要を調べてくれませんか?有望な輸出商品になるかもしれません。]と伝えました。・・」という言いえて妙の小話を紹介しています。経済とビジネスに偏った日本人のイメージが良く出ています。戦後日本は、地政学的にとても幸運でした。軍事と政治・経済で世界最強の米国との同盟で自国の安全保障を得ていましたから、弱体国家のままでも民間企業ビジネスに邁進できました。しかし、米国のパワーダウンとともに、日本は、国家としての地政学的なパワー不足から経済面での制約条件増加していく方向にあります。筆者/青草新吾は、国力長期予測で大切な要素は、故山本七平氏が注目した口伝律法*2などの歴史的に蓄積されてきた国民の規範文化、これらを国力として実現していく政治のリーダーシップだろうと考えています。長期予測でよく出てくる金融業界発の単純マクロ計算による成長予測はその時点の計算ごっこに過ぎません。
英「エコノミスト」元編集長のビル・エモット氏は今年2008年に上梓した[アジア三国志(中国・インド・日本)]*3で「明日のアジアを形作るのは政治だろう」といいます。同氏は、1989年のベストセラー「日はまた沈む」で日本のバブル崩壊を予測し、2006年には「日はまた昇る」で日本の復活を発表した御仁です。そのビル・エモット氏がアジア三国志で「アジアとは西洋の地図上の区分けの都合で生まれた([その他]のような)概念にすぎない。歴史的にはモンゴル(蒙古)がアジア全体を結ぶ一本の糸だったといえる。チンギス・ハーンとその後継者が、13世紀に占領した中国のみならず、中国の西のグルジアペルシャロシア東部の領土を維持していたおかげである。しかしそのモンゴルですら、日本を支配下に収めることはできなかった。16世紀に、チンギス・ハーンの子孫イスラム教徒がインド亜大陸を支配し、モンゴルアジア一貫した流れを残した。このムガル帝国は三世紀続いた。ムガルとは、ペルシャ語モンゴルを意味する。とはいえ、アジアにははっきりとした境界線も、はじまりと終りもない。ヨーロッパと違ってアジアには、一体化を促すような唯一の宗教というものがなかった。・・・・・・・・・・・1880年には、日本が西洋諸国以外では最初の近代化を実現した。日本を中心に隆盛となった当時の汎アジア主義には、西洋の植民地主義と対立するという特徴があった。岡倉天心1903年にロンドンで出版した[東洋の理想]の書き出しでアジアはひとつであると述べた。1913年にアジア人としてはじめてノーベル賞を受賞したベンガル詩人タゴールは、1901年にインドを訪れた岡倉天心と親交を深めた。タゴールは1916年に東京帝国大学で講演を行った。タゴールは、西洋諸国の画一的な都会的物質主義が日本に根づきかけているのをみて憂慮した。西洋をしのぐのではなく、西洋の帝国主義や物質主義をまねるのではないかと、天心と同じ懸念を抱いた。孫文1924年神戸での講演で、やはり汎アジア主義を唱えた。アジアの人々の多くと同じように、孫文もまた、1904年から1905年の日露戦争日本がロシアを破ったことに鼓舞されていた。孫文は西洋の文明の本質について、欧州は科学的な物質主義から力の崇拝が生まれ[力の統治]がもたらされた。欧米の植民地主義者は、文明の影響力を広め[白人の重荷]を担うと公言しているが、それは偽善であると言い当てていた。その孫文もまた日本が力の統治を踏襲する西洋風の抑圧者になるのではないか、と懸念していた。」と1百年前に盛り上がった汎アジア主義から書き出しています。そして1百年を経た21世紀初頭現状認識について、まず日本については「日本は歴史問題を過去のものとするのに失敗している。中国韓国、そして歴史的な恨みを飯のタネにしている低レベル組織市民団体にとっては歴史問題をそのまま残しておくほうが都合がよいから解決しようとはしない。」とし、次にインドに関し「インドの最大の弱みは、インドが国境を接するパキスタンバングラデシュ、ネパールと仲が悪く、中国がつけいり、機会あるごとに、そうした国とねんごろになる努力をするということがある。隣接する南アジア諸国との貿易はインドの貿易全体の3%以下でしかない。・・」と、最後に中国について「中国は、新しいアジアで最大の要素である。共産党一党独裁の政権は、思いのままに戦略的な決断を下して経済支援や武器売買を行える。しかしそれは恐怖不信をつのらせる原因でもある。アジア第一の問題は、中国に対する不信だということになる。」と分析しています。ビルエモット氏は、数多くの発火点を持つこのアジアで生まれている新しいバランス・オブ・パワー政治において、武力衝突国境紛争を回避するための九つの提案を進言してくれています。この進言の中で日本に対しては「日本の最大の弱みは歴史と、歴史を過去のものにするのに何度となく失敗していることだ。(日本が歴史問題を終止する)もっとも懸命な措置は、東京裁判パール判事意見書で述べた反対意見を銘記するということだ。パール判事は、旧日本軍の残虐行為については日本は有罪だが、戦争を国家政策の道具に使ったという全体の告発については、偽善的であり、法的に不合理であるとした。靖国神社にしても国営に戻して政教分離の例外とすればよい。もっとも賢明な措置は、歴史的事実の正誤や改悛の念という全体をひっくるめた抽象的な問題を、特定の出来事や苦情の責任、謝罪、悔恨と切り離す作業だろう。」と提案してくれています。次頁では、上述のビルエモット氏が「アジアで作った一貫した流れをモンゴルが作った」と紹介したモンゴルについての記述を行い、中国やインドに偏った視点の矯正を図った上で、次々頁でビル・エモット氏の著書からの引用で西欧ではアジア通の賢人が中国をどうみているのかについて記述してみます。

*1:「一度も植民地になったことがない日本」デュラン・れい子著 ISBN:9784062724487

*2:「日本人と組織」山本七平ISBN:9784047100916

*3:「アジア三国志(中国・インド・日本」 ISBN:9784532353131