青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

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131-1/2.モンゴル帝国のユーラシア・アジア連邦

アジアの地政学的特徴は、モンゴル帝国の歴史を再考・再調査すると理解しやすくなります。アジアとヨーロッパには16百万人ものチンギス・カン(汗=ハン、遊牧君主の称号)の子孫がいるそうです。

モンゴル国レアメタル鉱山を対象にした下術の投資ファンドが登場しました。現在のモンゴル国は「国土の75%が未開拓で、有望な鉱物資源国」です。モンゴル研究家の宮脇淳子氏(東京外国語大学国士舘大学) の著書「日本人のためのモンゴル学」*1によると、現在のモンゴル国に関し「ロシアと中国に挟まれたモンゴル国親日であることは、日本の国益にかなう。モンゴルの地下にある豊富な天然資源は遊牧民であるモンゴル人が地下を掘ることを嫌ってきたのでそのまま手つかずで残っている。ソ連時代には北朝鮮と兄弟関係にあったので、実はいまでも北朝鮮の内情に詳しい。」と、また現在のモンゴル民族とは「今のモンゴル人とは、元朝植民地の中国を失ってモンゴル草原に退却した後で、モンゴル草原に残った遊牧民たちが連合して新しく生まれた民族である。チベット仏教になった遊牧民今のモンゴル人となり、イスラム教徒になった遊牧民カザフ人と呼ばれるようになった。」とのことです。
モンゴル高原(モンゴリア)を統一したチンギス・ハン1206年に建国した大モンゴル国は、首都のカラコルム(ウランバートルから西に4百キロとあります)から発進して世界人口の半分を支配するモンゴル帝国へと拡大しました。モンゴル帝国はチンギス・ハンの孫の時代に、四男/トルイの次男であるフビライ(クビライ)が中国全土を征服し大元大モンゴル国を建国したことで、中国を植民地とする大元大モンゴル国四つの王国(ハン)で構成される連邦帝国となり、更に四つの王国が独自性を強めて分裂しながら、ますます栄えていきました。長男/ジョチの子孫がロシアで建国したキプチャク・ハン国、次男/チャガタイの子孫が中央アジアで建国したチャガタイ・ハン国、四男/トルイの子孫がイラン高原で建国したイル・ハン国・・。ロシアのモスクワは16世紀まで、チンギス・ハンの後裔が支配するクリミアに税を納め続けたそうです。モンゴル軍出身のオスマンが建国したオスマン帝国は、1922年のトルコ革命まで続いています。宮脇淳子氏によると「トルコ人が[チンギス・ハーンは自分たちの祖先でトルコ人だ]と主張しているように、モンゴル帝国時代のモンゴル人は、世界中に散らばって混血がすすんだ。ロシア、トルコ、イラン、インド、中央アジア混血していった。日本人だけが、モンゴル帝国時代にモンゴル人と混血しなかった稀有の例だ。・・・モンゴル帝国時代のモンゴル人たちは、旧大陸の世界各地に広がって、その地の住民たちとさらに混血し、別の名前でよばれるようになった。ロシア語でモンゴル人を意味するロシアのタタールカザフ人ウズベクペルシャ風発音でモンゴル人を意味するインドのムガール、カザフということばの語源はトルコ語で、ロシア語ではカザークといい、英語のコサックもポーランド語なまりの同じ言葉からきている。コサック人とは黄金のオルド(キプチャク・ハン国)が分解した後、ロシア皇帝に忠誠を誓い、キリスト教に改宗した人々である。・・・」とのことです。これらは13世紀のチンギス・ハンの子供の代からの流れです。「チンギス・カンは歴史上で最も多くの遺伝子を残した人物で、欧州とアジアに16百万人もの子孫を残している。」とのオクスフォード大学の遺伝学研究チームの報告にも頷けます。
モンゴルと中国の歴史については注意が必要です。日本の歴史学者の多くが創作混じり中国の歴史書(歴史解釈)を主な資料として研究していることに加えて、中国共産党が流す歴史プロパガンダの影響で、中華思想が混ざったような歴史観汚染されやすいからです。上述の宮脇淳子氏によると「中国などモンゴル帝国時代に征服された側の人々が歴史を書いた。[支配された者後から解釈しなおした歴史]だけが残って今日に至ってしまった。彼らは自分たちが、実は軍事力に優れた遊牧民支配下で、君主におもねって暮らしていたことをなかったことにしたかった。一方、モンゴル帝国の後裔である遊牧民のほうでは、自分たちを正当化するための歴史を書こうともしなかった。だから遊牧民の記録は、系譜以外ほとんど残っていない。」ということです。モンゴルによる中国支配は、上述のチンギス・ハンの孫の時代に、フビライが実現しました。フビライは、中国支配の拠点として夏の都である上都(じょうと、今の中国内蒙古)に加えて冬の都である大都(だいと、今の北京)の整備を進め、大モンゴル国の第五代ハーンに即位してからは1271年に[大元大モンゴル国](元というのは漢人の中国史の呼称)に国号を変更しています。その後、中国では1368年朱元璋を建国したことで大元大モンゴル国明国南北朝状態となり、大元(漢人は北元と呼ぶ)は南半分の支配に見切りをつけ、大都(今の北京)からカラコルムに撤退します。大元は1636年まで、モンゴル諸部族が満州人のホンタイジ(清の皇帝)をモンゴルのハーンに推戴(すいたい)するまで続いています。尚、ホンタイジ満州族モンゴル族、そして漢族からの推戴を受け、王から皇帝となり清国を建国し、明と争い、朝鮮を属国とした御仁とのことです。国史(中国の歴史)とは、戦争に弱かった漢族が、人口は少ないものの戦争に強かった北方民族出身の王朝に支配された時代大半です。鮮卑族出身モンゴル人大元満州などです。反面で面白いのは支配した側の北方民族が逆に漢化されて中華に飲み込まれて中華文明の伝統である官僚腐敗で崩壊していった歴史の繰り返しだということです。漢化と官僚腐敗という中華に飲み込まれなかった例外モンゴルです。人口が少ないモンゴル人が形成したモンゴル帝国とは人種や宗教で差別されない多人種他民族国家だったようです。
モンゴル帝国米国に共通するコンセプト特徴に関し堺屋太一氏は著書*2で「地球上無敵無限のスーパーパワーということでは、13世紀末のモンゴル21世紀の米国共通している。これは決して偶然ではない。両者には共通のコンセプトがあったからである。モンゴル帝国は、1.厳格な軍隊組織2.自由な商業活動3.信仰の自由、の三つ基本コンセプトとして拡大していった。・・(衰退はこの逆でもたらされた。)・・ チンギス・ハンは、人種や信仰風俗による差別のない文化不介入と経済重視の世の中を目指したが、子孫の時代には、各地の信仰深い女性が皇室に入った影響で宗教や文化への介入が始まり、宗教や文化の違いから発生した内部対立から軍事力が分散していった。・・世界帝国の何よりの敵は、主観的な価値観のおしつけである。押し付ける本人は正義と感じ、相手も幸せにすると信じているから始末が悪い。米国もスーパーパワーであるためには、自らの正義と美意識を他国に押し付けるべきでない。例えそれが民主主義や市場経済であっても。」と、また上述のコンセプトを追求した結果、もたらされたモンゴル帝国特徴に関し「一つは、人類史上空前の強大な軍事力を持つ多人種多文化世界国家だったこと。異民族からもモンゴル軍の大将軍が輩出した。・・二つは、近代的な信用取引の原理資本主義経の萌芽がみられること。世界初の不換紙幣が発行された。東西の交易が安全な産業となり、出資事業組合オルトクが大成長、モンゴルの皇族や将軍もこれに投資した。不換紙幣を大量に発行し、唯一の基軸通貨としたのは、人類史上モンゴル帝国が最初である。・・・・三つは、安価な政府(小さな政府)だったことである。文化不介入宗教の自由を保障し、広大な土地は住民自治とする一方で、叛乱・裏切りに凄まじい報復を行うことで、統治コストを抑えた。残虐凶暴が大袈裟に伝わるのをチンギス・ハン自らが大袈裟に吹聴した形跡さえある。この残虐凶暴な報復で統治コストを抑える戦略は、20世紀の米国によって大規模に行われた。市民への絨毯爆撃原爆投下である。・・四つは、行政機構ウイグル文字印璽(いんじ)を使用した。チンギス・ハンの言葉は書き写されたヤサと呼ばれる法令となり、法令執行のために、最高裁判所検事総長にタタル族出身のシギ・クトクを、文化行政官契丹人の耶津楚材、財政金融官僚にイラン・ウイグル系人材を配置した。・・」と論稿しています。モンゴル帝国が設計開発した行政機構は、明以降から現在の中国に至るまで引き継がれていったそうです。
アジア近世史から現代史を考察する上では 、イスラム仏教圏多大な影響を及ぼしたモンゴルからの視点が役に立ちます。2008年7月5日の司馬遼太郎記念学術講演会の対談で平田オリザ氏「司馬遼太郎さんは、若いときにモンゴル語を学んだことが出発点になっている。多くの人がヨーロッパの言語を学んで作家になるのとは違っていた。」、辻井喬氏「モンゴル語を学んだことは、司馬文学とほかの作家の大きな差になっている。アジアの視点が抜け落ちるのが、近現代の日本文学の大きな欠点だ。」との発言が産経新聞7月25日付で紹介されていましたが同感です。現在のモンゴルを対象とした冒頭のモンゴル・レアメタル・ファンドに関し日刊産業新聞2008年8月20日付は「イニシア・スター証券は、モンゴルのレアメタル鉱山の鉱業権を対象とした個人投資家向け[モンゴル・レアメタル・ファンド]を9月から本格販売する。鉱業権から得られるキャピタルゲインを期待する先行投資型のもので、国内の証券会社では初となる。地質学者の実施調査に基づいたファンドを実現するとしている。」と紹介していました。次頁では、139で前述したビル・エモット氏の著作から「知日英国人がみた中国」、同氏が提案する「東京裁判におけるパール判事の意見書の銘記」について記述します。

*1:「日本人のためのモンゴル学/朝青龍はなぜ強いのか」宮脇淳子ISBN:9784898315774

*2:「チンギス・ハンの世界」堺屋太一ISBN:4062128500