青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

エコシステム型の生産財営業でイノベーション共創と好社会を目指す。

132-1/2. 親日英国人による歴史問題への提言

日本政府が失敗続きの歴史問題に関し、ビル・エモット氏は著書アジア三国志の中で「もっとも賢明な措置は東京裁判でパール判事が意見書で述べた反対意見を銘記することだ。」と提言しています。

日本政府中韓から提起され続けてきた歴史問題を過去のものとすることに失敗続きであることに関し、139で前述した知日英国人のビルエモット氏はアジア三国志*1で「パール判事は(極東軍事裁判への意見書で)、旧日本軍の残虐行為については日本は有罪だが、戦争を国家政策の道具に使ったという全体の告発については、偽善的であり、法的に不合理で(日本は無罪)であるとした。・・日本政府がやる必要のある行動そのものは、そう多くはない。もっとも賢明な措置は、東京裁判でパール判事が意見書で述べた反対意見を銘記することだ。・・・・日本政府から動かないと決着しない。中国韓国にとっては、歴史問題そのまま残すことが政治的に有利であるし、歴史問題を飯のタネにしている市民運動などの低レベルの組織もそうなのだから。・・・・日本は歴史問題のために親密な同盟国支援者失う恐れがあり、歴史問題による外交コストは高く、そのつけを日本は毎年払わされている」と残念な実情を指摘しています。また「米国にも悪いところがある。そもそも問題の核心は、1946年5月から31ヵ月間にわたってひらかれた極東軍事裁判なのである。日本の謝罪の多くに真剣味が欠けているのは、この裁判が公正ではなかったからだ。・・・米国国務省高官のジョージケナンは、東京裁判は[最初から深刻な謬見に基づいていた。]と評している。裁判官が誰で、どのように起訴事実でっちあげられたかを読めば、東京裁判の問題点は即座に判る。・・・東京裁判はダナー教授のいう[白人による裁判だった。] 東京裁判偽の正義であり、誘引の大部分はまっとうな法的根拠に欠けていて、恐るべき偽善の厚い衣で覆われているというパール判事の非難は正当だろう。」と東京裁判の不公正を指摘しています。
歴史的事実正誤に関し、ビルエモット氏は「中韓は、歴史問題でそれぞれの世論を煽ったり、世論に反応して、国内政治に利用している。」と指摘しています。日本を加害者とする戦争中の中国人死傷者総数に関しては「共産主義国は、さまざまな話をでっち上げるものだが、だからといって、すべてがでっちあげというわけではない。決して日本びいきの学者ではないハワイ大学のR・J・ランメル名誉教授によると中国人死傷者数は約6百万人である。しかし盧溝橋博物館には35百万人とある。・・・東京裁判では、中国の公式推定数は3.2百万人だった。1985年には早くも21.7百万人へと膨れ上がっている。・・国民党軍共産党も殺しあっていたし、どちらも一般市民への残虐行為を犯していた。・・江沢民(Jiang Zemin)のいう35百万人という数字が、共産党が1949年に政権を奪って以来、度重なる粛清飢饉や突発的な武力衝突によって共産党が殺したとおぼしい中国人の数と一致することは、指摘しておかなければならない。共産党が殺した人数についての統計が存在するとすれば、その分も日本のせいにするのは、まことに都合がよい。中国と日本の場合、時は歴史認識のギャップを広げるばかりなのである。」と、南京事件についても「東京裁判当時ですら、証拠の信憑性には問題があった。パール判事の意見書によれば、殺された人数が26-30万人という起訴事実の数字をそっくり認めるには無理がある、と述べている。今現在では、中国の歴史家たちもオフレコでは30万人という数字には首をかしげている。南京の博物館陳列そのものにも問題がある。・・・南京の博物館の横には1997年に[ザ・レイプ・オブ・南京]を著してこの事件に米欧の注目を喚起した若い中国系米国人作家のアイリス・チャンの像がある。不偏不党の歴史家たちからは、事実が不正確であると批判された。そういった反応のためか、悲惨な事実ばかりを書いてきたためか、あるいはべつの人知れぬ理由のために、アイリス・チャンは2004年に36歳で自殺した。」と英国知識人の見解を示しています。
[法の下の平等]と[事実に基づく判断]という立場からは、東京裁判直後の国際法学会の決議にみられるように、専門家の殆どがパール判事の判断を支持しています。東京裁判パール判事が提出した意見書の方が、戦勝国による法的公正さを装った野蛮な行為よりも妥当性が高いからです。経営品質であれトヨタ生産方式であれ[事実に基づく判断]が出発点です。科学学問の基本は真理追求です。真理とは事実全体に貫かれる普遍的な道理であり、文脈を伴っています。しかるにイデオロギー論戦では、事実全体の文脈を無視した事実一部切り取りでもっともらしく装うことが行われます。日本の学者朝日新聞などの大手新聞では、事実よりもイデオロギー優先の傾向があります。筆者/青草新吾が歴史問題を思考するに際して参考にしているのが127と139で前述した日本研究者の故山本七平氏の著書「日本人と組織」*2です。原典にあたって史実できるだけ客観的に追う手法に関し、山本七平氏は「本文を書き換えたりすることなく、本文はそのまま欄外注釈(トサフォト)で注釈だけを連綿と蓄積していく」西洋社会のトサフィスト的発想と伝統を[歴史や組織の索引化]であるとして紹介しています。西洋のトサフィスト文化とは、曰く「歴史も一つの組織と捉えた場合に、これも索引化できる。・・西欧ではあらゆる面の索引が完備している。例えば、西欧古典のある問題について、今から二千年ぐらい前のアレクサンドリアで、何がどのように論じられていたかは、それぞれの専門索引をひけば、五分で分る。」とし、この歴史や知識の索引化は、そのまま保存された本文とその本文に対する欄外注記を連綿と蓄積することによって可能なのであり「この欄外注は、時代の変化・経済情勢の変化により、絶えず書き込まれて当然なわけである。そうした基本を動かさないことによって、われわれは社会の変化と自らの変化をつかみうる」と記述しておられます。
パール判事が東京裁判で提出した意見書という事実は一つです。ところが何故か、日本ではまるで中国共産党の解釈プロパガンダのようなことを行う勢力が存在してます。パール博士の言葉をそのまま伝えず、博士の生の言葉よりも、自分たちのイデオロギーに合致した解釈を広めようとする勢力が根強いのが現実のようです。このことが政府の対応を制約し、国益歴史学への貢献も損なっているのが実情です。次頁ではパール判事の東京裁判「意見書」に係る論争について記述してみます。

*1:「アジア三国志」ビル・エモット著 ISBN:9784532353131

*2:「日本人と組織」山本七平著 ISBN:9784047100916