青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

生産財の青草新吾1はリタイア。シニアの青草新吾2は複業で貢献を目指す。

133-1/2. 歴史問題でパール判決書/ビルエモット氏の提案

ビル・エモット氏による「歴史問題を過去のものとするには[東京裁判のパール判事意見書(パル判決書)]を銘記すること」は事実に基づく知的判断の薦めでもあります。しかるに日本国内ではせっかくの知的論争(事実と検証)に対して、イデオロギー論争(良いか悪いか)に中身をすり替えてしまおうとする動きが根強くあります。

パール判事意見書(パル判決書)が世界で尊重されているのは、パール判事が職業倫理に忠実に「当時の国際法(常識)に基づき」「当時として公正な判断」を主張していたからです。パル判決書を銘記する上ではパル判決書そのものの内容を議論すべきであって、パル博士個人の思想信条についてまでの言及は不要です。プロの業績本業の成果で判断されます。本業とは無関係の資質や個人的思想を云々するのは判決書を銘記することとは別の意図があるからです。かってフランス大統領だったミッテラン氏の女性スキャンダルが表面化した際に、フランスメディアの殆どが軽々しく大騒ぎしないとの態度だったそうです。「プライバシー政治手腕とは無関係。選挙民が政治家期待するのは政治のプロフェッショナルとしての仕事である。」との現実的な知的判断からです。国際競争力が高いフランスのメディアと、国際競争力を欠いた内向き世界オンチの日本のメディアとの知的判断力の格差を示す好事例です。東京裁判では「法に基づく公正な判断」というスタイルがとられました。だからこそ「法に基づく公正な裁判であったか否か」「法の下で公正な判決であったか否か」が争点となります。戦勝国戦争犯罪人として裁いた内容が「法的に正しかったか正しくなかったか」が議論の中心であるべきです。にもかかわらず日本国内では、事実に基づく知的論争ではなくて、パール判事の個人的な思想信条まで取り上げて勝手解釈を行うイデオロギー優先の論考が跋扈しています。「パル判決書そのもの」と、パール判事が東京裁判とは「別の場所で後に語ったこと」は切り分けて議論すべきです。139と141でも記述しましたが、英国人/ビルエモット氏がアジア三国志*1で示した「日本が歴史問題過去のものとするためには東京裁判におけるパール判事の意見書(パル判決書)を銘記することであり、東京裁判におけるパール判事の意見書(パル判決書)とは「旧日本軍の残虐行為は有罪だが、戦争を国家政策の道具に使ったという(戦勝国の告発)は偽善であり、法的に不合理である(から無罪である)」との認識は、不変不党の欧米知識人一般的な認識と思われます。
パール博士が「東京裁判とは別の場所後に語ったこと」の参考では、故田中正明氏が多くの記録を残してくれています。故田中正明氏はパール博士から「自分を代弁しての出版を一任する」と任せられた御仁で、パール判事を代弁する出版を行っています。一部に記載誤りや自分の想いもついでに書き加えてしまった部分もあるようですが、全体としてはパール判事の信条がよく伝わってくる内容です。田中正明氏は著書「パール判事の日本無罪論*2で「1948年11月に東京裁判結審してから二年半後米国政府自身が[”東京裁判誤りだった”とマッカーサーからトルーマン大統領に対する報告があった。]と発表した。裁判が終わってわずか五年後には、東京裁判キーナン首席判事までが新聞記者に対して[重光葵起訴し処罰した誤りを反省し、”東京裁判が感情論にすぎた”ことの告白]を発表したのである。・・・ヨーロッパ諸国では、このパール判決ビッグニュースとして紙面のトップを飾り、大々的にその内容が発表され、論争が紙面を賑わした。国際法学会は圧倒的多数で東京裁判でのパール判決正しいと評価を下した。パール博士の言葉を借りていえば[極東軍事裁判は、法律的外貌をまとってはいたものの、実は、占領政策宣伝効果をねらった興行以外の何者でもなかった] のである。・・・・ところがどうしたものか、当時の日本の新聞には、ほんの数行をもって[インド代表判事のみが、少数意見として全被告に無罪の判決を下し、異色あるところをみせた]程度の記事しかのらなかった。・・・・・この裁判の最中に、毎日流された法廷記事なるものは、半分は嘘であった。司令部が新聞を指導し、いかにも日本が悪かったのだ、日本軍人残虐行為ばかりをしておったのだと、日本国内はむろんのこと、世界のすみずみにまで宣伝した。しかもわが方(日本人)は反論など対抗手段を封ぜられていた。判決は下されても、判決批判はいっさい禁じられていた。・・・悪いことに、日本国内の事大主義的ジャーナリズムが、これを日夜煽り立てた。戦時中は軍閥の意のままに操縦されたと同じように。真相はああだこうだと放送が毎夜続いた。・・・」と記述しておられます。
GHQ占領下の日本では軍国主義一掃に続いてレッドパージ(共産勢力弱体化)も実施されています。戦後日本無力化を推進したマッカーサーさえもが「そこまでいくと行きすぎだ」と感じていたであろうくらいに、共産勢力の勢いがあったということでしょうが、一方的に宣伝される自虐史観も同時進行で広がりました。自虐史観を煽る反日日本人の勢力が大学教育界官公労などとこれらを主要購読者層とする朝日新聞などのメディアに浸透しました。反日日本人とは、とにもかくにも戦前の日本を全否定する自虐史観を最優先することから、結果的に世界益と国益の両方を毀損し、日本の精神文化の良いところまでも破壊してしまう勢力です。[曲学阿世の徒]とは吉田茂首相が用いた表現だそうですが、今でも反日日本人の多くは大学や教育界、官公労朝日新聞NHKなどの大手メディアなどで一大勢力を形成しています。世界の多くの国々と異なり、自分が恩恵を受けている日本国そのものを否定し攻撃してしまう自虐史観が蔓延しているところに、戦後日本の難しさがあります。海外で活躍する日本人が歴史問題で不愉快な思いをしたり、歴史問題でビジネスの足を引っ張られるようなことは減らしていきたいものです。日本の歴史を冷静に客観的にみていこうとする場合には「パール判事の意見書(パル判決書)を銘記すべし」との英国知識人の提言はとても有難い。そしてパル判決書は判決分とその内容そのものの銘記が重要なのであって、パール博士の「個人的な思想信条がこうだから判決もこうなのだ」という勝手解釈やイデオロギー誘導事実を歪める行為に他なりません。民主主義の土台は「事実に基づく判断」と「法の下の平等」ですから、思想信条は自由であるべきといえども、民主主義社会では、言論の自由を濫用してまで「事実を歪める行為」は許されません。次頁では、パル判決をめぐっての北海道大学/中島岳志氏と社会派漫画家/小林よしのり氏の論争について記述します。

*1:「アジア三国志」ビル・エモット著 ISBN:9784532353131

*2:「パール判事の日本無罪論」田中正明ISBN:4094025065