青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

生産財の青草新吾1はリタイア。シニアの青草新吾2は複業で貢献を目指す。

144-1/2. 漢民族のトラウマでモンゴル人

シナ大陸(Mainland China)を支配する漢民族の歴史的トラウマに係わるモンゴル人の国民性を知っておくことは、日本人が日本人自身を「近隣諸国と相対化」して理解するために役にたちます。

前頁152で、漢民族歴史的トラウマに”モンゴル(大元モンゴル国)による漢民族支配”が係わっていること、シナ大陸で、中国という国名が初めて登場したのは、中華民国が建国されてからであること、を記述しました。中華民国を建国した孫文と日本人の交流を89[2007.5]で前述しました。孫文は、革命までは満州民族(清朝)からの“漢民族独立”を目指し“滅満・興漢”を唱えていました。「漢民族の民族独立」を目指していた孫文ですが、革命後には「シナ大陸における五族共和」を唱えだしています。五族とは、“(ウイグル)・(チベット)”です。満州人王朝だった清朝支配下では、漢民族チベット民族も同格で対等でしたが、五族共和というスローガン以降は「漢民族が(満州人の王朝だった)清朝の支配受け継ぐ」ということとなり、「漢民族による他民族支配の源流」が作られました。毛沢東によるチベット侵略チベット虐殺については133[2008.5]で記述しました。これらは前頁152で前述した漢民族歴史的トラウマの裏返しかもしれません。中国の漢民族の歴史的トラウマとは、満州人に圧迫されモンゴル人に占領され植民地にされた12世紀から13世紀の出来事に起因することを前頁で記述しました。シナ大陸を植民地にして支配したモンゴル帝国については140[2008.8]で前述しました。当時のモンゴル人はユーラシア大陸全体に広がり混血が進みましたが、イスラム教を信仰した人々が中央アジアカザフスタンなどを建国し、シナ大陸では明朝が勃興したことで、植民地を手放しモンゴル草原に撤退した人々がモンゴル草原に残って暮らしていた人々と合流して今日のモンゴル国を建国しました。
中国モンゴルの関係に関し台湾出身の黄文雄氏は著書*1で「中国が恐れる北方の脅威がある。モンゴル人民共和国(今はモンゴル国)とカザフスタン共和国がそれで、軍事的というより民族的な脅威、いわゆる分離主義の問題なのである。中国とモンゴル国(中国は外蒙古という)の国境線は長い。そして中国の中にあって中国が支配する内蒙古自治区のモンゴル人たちの祖国は北のモンゴルにある。・・・そもそもチンギス・ハーン中国とは無関係の人物だ。それなのに中国人はチンギス・ハーンを[元太祖]に祭り上げた。そうすることで、チンギス・ハーンが征服した遺産すべて中国のものとみなしたのだ。もともと農耕民の漢人遊牧民のモンゴル人は、もっとも敵対する民族だった。そこには文化、政治、経済などあらゆる対立があった。・・・1968年、文化大革命の最中に起こった“内人党事件”(内モンゴル人民党事件)は文革最大の冤罪事件といわれる。モンゴル人の犠牲は逮捕者40万人、殺害5万人に及ぶといわれる。たいへんな血の粛清だった。」と述べています。
モンゴル研究家の宮脇淳子氏(東京外国語大学国士舘大学)は著書「日本人のためのモンゴル学」*2で、モンゴル文明中国文明との対比について「草原の遊牧民には、(中国文明からの身内の)長幼の序はない。相続は、財産については均分相続で、年長の息子から順番に家を出て行き、最後に残った末子両親と同居して親の面倒をみる。“財産権は女に”ある。沈寿が編纂した三国志の烏丸・鮮卑東夷伝にも[財産がすべて妻の家から出ているために、日常のことは女に相談しなければ何も決まらず、戦争のことだけは男が決められた]という記述が残っています。」と述べておられます。またモンゴル人日本人思考メカニズムの対比で、日本の農耕文化モンゴルの遊牧文化違いとして「モンゴル国の平均の海抜高度16百メートル、年平均降水量は2-3百ミリ。たいへん乾燥している大陸性気候。・・・・・たくさんの家畜を悪天候や狼から守るのは、年齢や男女を問わず人間の仕事である。モンゴル人にとって、もっとも大切な人間たるべき条件は、“自分自身で判断できる”ことと“独立心”であって、他人に頼るような人間は動物以下ということになる。モンゴルでは男も女も性格が強くて“独立心が旺盛”であることをよしとする。他人に頼っていれば何とかなるというようなことは、モンゴルの遊牧生活ではありえない。“たくさんの家畜に十分に草を食べさせる”ためには、別の人間がすでに放牧したところに行ってはいけない。つまり、モンゴルの遊牧生活では、“他人とはつねに違うこと”をしなければ生きていけなかった。日本の隣百姓とは正反対の生き方である。人間は動物よりも賢いから動物たちの主人と認められている。たとえ“子供といえどもたくさんの羊や山羊の群れを一人でまかされ”て家から離れた草原に放牧にいけば、自分一人で判断しなければならない。天気がいつ変わるか、どちらの方角にいったらいいか、間違った判断を下したら全部が死んでしまうかもしれないのだ。」と説明しておられます。日本人が日本人を理解するためにも、近隣諸国の漢民族やモンゴル民族を理解することは役に立ちます。次頁では、漢人の死生観について記述します。

*1:「中国 魔性国家の正体」黄文雄著 ISBN:9784880862262

*2:「日本人のためのモンゴル学/朝青龍はなぜ強いのか」宮脇淳子ISBN:9784898315774