青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

生産財の青草新吾1はリタイア。シニアの青草新吾2は複業で貢献を目指す。

166. 銅産業のメタルピークアウト /資源ひっ迫

日本のGDPの4割を支える製造業の中でも極めて競争力が高い“素材・部材”の産業の中でも、特に銅産業(鉱山・製錬・圧延)については、資源の希少性が高まることで、国家存亡の戦略的な産業へと重要性が高まっていくものと推察します。

これから起こる未来に影響を及ぼす資源の制約を予測する場合に、160[2009.6]で論じた石油ピークアウトに加えて、メタル・ピークアウトについても考察しておかねばなりません。金属資源鉱石埋蔵量について15[2006.5]で「鉛・亜鉛・錫が約20年、銅が40年、ニッケルが60年、鉄が70年ぐらい」と前述しましたが、その後、中国に代表される新興国の需要爆発と先進国における地球環境問題の高まりから、2010年の今現在で最も懸念されるのが銅の資源不足です。世界的な「省エネ・省資源の流れ」によって、電子制御の増加と電気エネルギーへの動力源シフトが進み、銅の需要が高まる一方です。
九州工大の鉱山工学科卒で資源・環境ジャーナリストの谷口正次氏は著書の「次に不足するのは銅だ」*1で「日本のメディアでは取材の対象にならないが、世界で議論されている重要な潮流と日本がとるべき道について考えたい。・・・枯渇で最も懸念されている資源がである。大規模銅鉱床新たに発見されていないのも問題である。銅の生産量は現在の水準を超えることはないし、早晩落ちるだろう。
・・・21世紀のいま、“成長の限界”で警告された最悪のシナリオが実現しつつある。石油のピークオイルと同じように、ピークメタルの時代が遠からずやってくるだろう。資源収奪型の物質文明の構造そのものがピークを迎えようとしている。いまや、その持続可能性が問われている。・・・世界の銅需要は、中国がエンジンとなり、毎年約580千トン以上増加を続け、さらに加速さえもしている。貪欲な資源獲得競争において、中国は、各種メタル資源の中でも特に銅資源の獲得に熱心である。驚くことに、近年の中国共産党政治局常務委員の学歴とキャリアをみると、殆ど全員が、機械工学、電気工学、電子工学、制御工学、化学工学、資源工学、土木工学と、いった工学系のエンジニア出身であり、政治家個人のレベルでも、資源リテラシー非常に高いのである。・・・・中国共産党人民解放軍チベット進駐と併合が1950年。以降のチベット人犠牲者1百万人超といわれている。中国は、何ゆえそのような強硬手段でチベットを統治しようとするのか。理由の一つが、チベットに眠っている豊富な地下資源である。鉄道建設は、国あるいは地域を実効支配する手段として機能するが、中国政府の地質調査団の炭鉱調査によると、青蔵鉄道沿線の鉱石の価値1,250億ドルと評価されている。これを“盗みだ”というチベット人さえいる。・・・・2004年以降、中国の国家戦略としての資源囲い込み攻勢はすさまじい。 」と力説しておられます。チベットについては、133[2008.5]で前述しましたように、欧州におけるバチカン市国と同様に非武装中立だったチベット教国に、中国共産党軍が侵攻して占領し、今日に至っています。
資源獲得に貪欲な中国ですが、世界有数の規模とされるモンゴル銅・金鉱山へも進出を検討中のようです。鉄鋼新聞2009年7月9日付で「モンゴルの“オユトルゴイ鉱山”を発見したカナダの鉱山会社アイバンホー・マインズが米証券取引委員会(SEC)に報告したところでは、中国のチャイナルコが“オユトルゴイ”開発事業(開発コスト46億ドル)での権益取得を目指している。チャイナルコは、英豪系資源大手のリオ・ティントの最大株主。そのリオ・ティントは、保有するアイバーンホー株を、オユトルゴイ鉱山の直接権益に転換する交渉をアイバーンホーと進めている。 」との報道がありました。気がかりな日本の銅産業ですが、中国共産党に負けじと銅資源の獲得とその加工事業の展開が活発になっています。
7月1日付で“JX日鉱日石金属”(旧社名:日鉱金属)が新発足するにあたって、社長の岡田昌特氏は、鉄鋼新聞2010年7月1日付で「4月に新日鉱ホールディングス新日本石油経営統合し、JXホールディングスが誕生した。売上規模で国内製造業のトップファイブに入るJXグループ(09年度売上高、約9兆円)として、大きな財務基盤を得た。・・・・JXグループの中で、JX日鉱日石金属金属の事業会社として、上流の資源開発中流金属製錬下流電材加工環境リサイクルというバランスのとれた事業を形成している。世界的な銅需要の拡大追い風となる。当社は、国内トップ、世界2位の銅生産グループを形成しているが、自山鉱比率2020年度で80%まで高めていく目標とする。・・・銅の自山鉱比率は現在20%。建設中のチリ・カセロネス鉱山が稼動すれば50%へ、今FS中のペルーケチュア鉱山も稼動すれば2015年度で60%台に乗る。・・・川中製錬法については、日鉱式塩化法を使えば、低品位の銅精鉱から銅・金・銀を回収できるし、ヒ素と硫黄分も残渣の中に残るから環境に影響を及ぼさない。乾式製錬で必要な最低限レベルの25%まで銅品位を引き上げて出荷すると副産物である金が犠牲になってしまう。乾式製錬用の鉱石としては閉山するしかない鉱山でも、日鉱式塩化法を使えば鉱山寿命延ばせる。今、豪州のパースで銅品位15%の銅精鉱から銅・金・銀を回収するテストを実施しているところだ。・・・バクテリアを使って銅を抽出するバイオマイニング技術については、チリでコデルコ(チリ銅公団)とともにバイオシグマ社を設立し、同社を通して本格的なテストを開始した。コデルコ所有のチュキカマタ鉱山1百年の歴史があるが、それだけ大量の残滓アンデス山脈の谷に埋められている。1百年前の技術により銅滓の中に残った成分は、現代では銅鉱床として開発の対象になるほど高いものもある。今は最も量の多い一次硫化鉱の処理が難航しており、まだハードルが高いのが事実だ。・・・見捨てられた資源を生かすのもエコ事業。積極的に推進したい。・・・豪州やカナダには、新製錬法により鉱山寿命を延ばせる鉱山も多く、選択肢を広げることで、原料調達リスクを分散できる。・・・・川下電材事業では、リチウムイオン電池の正極材の本格生産や太陽電池用ポリシリコンの製造に乗り出す。環境・リサイクル事業では、日鉱敦賀リサイクルに、パイロットプラントを建設し、リチウムイオン電池リサイクルの実証化試験を開始した。また都市鉱山から有価金属を効率的に回収するHMC(日立メタル・リサイクリング・コンプレックス)工場を本格稼動させ、環境・リサイクル事業を推進していきたい。」と述べておられました。また上述、川下の精密圧延事業について鉄鋼新聞2010年7月15日付で「足元の生産量不況前と同レベル。09年後半に急激に立ち上がったマーケットに素早く対応したため、りん青銅の市場シェアが不況前の35%から50%近くまで伸びた。・・・神奈川県の倉見工場で生産する精密圧延製品生産能力1割アップして、月間約4千トンに増強した。主力分野は電子機器用のコネクタ材で、りん青銅の他に黄銅チタン銅ステンレスなどの板条を生産している。 」と紹介されていました。
同じく2010年7月1日に新発足したのが三井住友金属鉱山伸銅です。鉄鋼新聞同日付は「三井金属鉱業住友金属鉱山伸銅事業統合折半出資の新会社、三井住友金属鉱山伸銅を本日1日付で発足させた。生産能力月間6千トン伸銅品では三菱伸銅に次ぐ業界2位、主力の黄銅条ではトップメーカーとなる。2011年度には年間10億円の統合効果を見込んでおり、経常利益30億円まで伸ばす計画。・・・三井金属伸銅事業を始めたのは1951年。特殊合金社を買収し、社名変更の王子金属工業を経て、1962年に合併し、三井金属伸銅事業部として新発足。1963年に上尾工場に移転。銅箔事業部や総合研究所と隣接する敷地面積は181千m2、建屋面積が645百m2、従業員330人。最終製品の生産能力は月間4千トン、6割が黄銅条、4割が銅条。向け先は4割が自動車部品で端子コネクタ材など。ファスナーなど銅分85%の丹銅や、鍵・車載バルブで使用される黄銅3種は、国内生産の殆どを上尾工場が担っている。銅に錫とりんを添加して性能を高めたSNDCは収益の柱。最近では鉄を入れて導電率を上げたHISFを開発し、ハイブリッド車での採用を目指している。体制面では、設備の更新を自前でできることが強み。工務課には、機械、電気、設計など幅広い専門分野の社員約30人が在籍し、計画から施工まで一連の流れを自前で行っている。設備面では月間7千トンの加工能力を誇る熱間圧延ラインがあり、上工程の能力が高いことが特長。溶解炉は、黄銅用の電気炉を4基、銅用のガス炉2基。溶解温度は銅が1.2千度、黄銅が1千度。溶解後は2.5-4トンの四角形の鋳塊(ケーク)に加工。8百度に加熱して熱間圧延に入る。熱間圧延ではケークを7百トン圧のロール間に15-20回通す。所要時間は5分間で、厚さ160mmを10mmまで伸ばす。熱延後はシャワーで約1百度まで冷却し、表面の酸化部を削る。続いて冷間の粗圧延で2mm厚まで圧延し、加熱して金属組織を整える焼鈍、酸化した部分を落とす酸洗を経て中間製品の素条となる。・・・・住友金属鉱山伸銅品事業を始めたのは1966年の富士伸銅への資本参加から。1979年に三重県員弁郡に白水伸銅を設立し、2000年に大阪事業所の生産業務を三重に集約するとともに、DOWAグループからの技術導入でめっき加工を開始。昨今では銅箔関連の設備投資を加速。圧延銅箔は携帯電話などで使われるFPC向けが主。設備能力は月間2千トン。銅・黄銅条の向け先は自動車部品が主で、端子コネクタジャンクションボックスなど。黄銅条が月間8百トン、銅条が約25百トン。うち高付加価値のめっき加工品が7.5百トン。設備面では、連続鋳造ラインを有していることが特長。鋳造工程でコイル長に制限がないので、コイルを大型化すれば、工程ごとの取替えなど段取り時間が縮められ、生産コストを低減できる。コイルの大きさ幅1ミリ当り12キロ日本最大。溶解炉では、低周波で1.1千度まで加熱して成分を調整する。その後1千度の保持炉に移して再度成分を整え、クーラーを通し冷却しながら、板状に引き出す。クーラーから出た黄銅はシャワーで2次冷却され、幅650mm、厚さ約20mmで引き出される。スピードは1時間に1トンペース。製造した板は表面の酸化部分を削り取った後にコイラーで巻き取られる。連鋳ラインは銅分65%の黄銅2種の生産に適しており、中間製品の素条を月間3百トン、上尾工場無j家に出荷する。鋳造後は、粗圧延機のロールに11回通し、1.5-2.5mmの厚みに加工。焼鈍炉で4百度まで加熱し、金属組織の柔軟性を高める。現在の操業は月間19百トンでフル稼働。11年度は能力いっぱいの月間2千トンが目標。 」と紹介していました。

*1:「次に不足するのは銅だ」谷口正次著 ISBN:9784048675147