青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

エコシステム型の生産財営業でイノベーション共創と好社会を目指す。

176. 台湾とEMS

21世紀に入ってからEMS(電子機器受託製造)が大きな存在になりました。2009年の生産額ベースでは世界の電子機器生産90兆円の3割相当の24兆円を占め、最大手が台湾のHon Hai (鴻海)です。

  筆者/青草新吾は4月第2週に、久しぶりに台湾を訪問しました。1999年9月の921台湾中部大地震では、李登輝総統が、地震発生1時間後軍隊100千人の出動を命じ、夜明けとともに被災地に飛んで、被災地自治体の首長に資金を手渡し「このお金はいかように使っても自分が責任をとる」と明言し、その後も迅速且つ的確な救済命令を発し、日々の救済行動をホームページに掲載するなど、危機管理における国家リーダーモデルの一つ実践躬行(じっせんきゅうこう)して示してくれました。危機管理においては、トップはトップでなければ出来ない仕事に集中し、全体方向性枠組みを示しながら無数の現場の責任者に権限委譲し、無数の現場の知恵迅速に行動していくことが肝要です。福島原発の事故に際し、管政権は「放水車の順番まで官邸が指示した」と聞きました。政治ショーではないのだから、企業経営と同様、国家経営においても、方向性と枠組み、及び責任と権限を示した上で、後は現場のオペレーションでは各々の分野専門家に任せた方がよいのではないでしょうか。あるいは危機管理時に現場で指揮をとれる専門人材が準備されていなかったのでしょうか・・・。
さて今回の台湾訪問では、大阪関空KIXから台北(Taipei)行きの往路はほぼ満席で、着陸後の入国審査前で「放射能検査」を受けました。復路の中部セントレアNGO行きは空席が目立つがらがらでした。復旧と復興に向けて、被災していない地域倍旧で経済を盛り上げていくことが望まれます。直接の被災地でもない名古屋以西の便がこれでは、景気が冷え込まないかと、震災復旧のための雇用や資金需要を考えると心配になりました。台湾新幹線(現地では高鉄)には今回初めて乗りましたが、車両は日本製らしく、グリーン系統の色彩で台湾風味に味付けした新幹線700T型は、桃園(Taoyuan)から高雄の左営(Zuoying)までの339kmが片道NTD1,330(約4千円)。山陽新幹線だと新大阪から広島、東海道新幹線だと京都から静岡くらいの営業距離ですから、料金は日本の四掛けくらいでしょうか。台湾新幹線は、往復とも満席に近く、台湾経済の活気を感じました。また高雄駅の北側、地下鉄(MRT)でいえば後澤(Houyi)駅の2番出口から徒歩2分の大連街入り口にある客家料理店で「紅厝瓦小館(ホンツオウァーシャオグアン)」はとても美味しかったのですが、中に入ると「中国人売国台湾人お断り(拒絶招待中国人及台奸)」と書いてあり、「私たちは台湾人だ。中国人ではない。」との台湾人の心からの叫びをリアルに理解できた気がしました。以上、数日前に久方の訪台で印象的だったことを書き連ねてしまいました。本題に入ります。
台湾は日本と同様に、天然資源に乏しいので加工貿易立国です。台湾は、米国を理解し、日本のこともよく知っており、中国についてもよく判っている、という意味では、日本よりもはるかに国際的な視点を持った人材に恵まれているのかもしれません。1970年代に日本からの投資を呼び込み、80年代には日本からの部材調達にも便利な地の利も活かし、日本企業との交流や、米国帰りの優秀な人材をかき集め、米国パソコン業界からの製造受託OEM企業が急成長し、この流れがEMS (Electronics Manufacturing Serveice)へと進化発展を続けていくのですが、90年代には中国本土での生産を拡大したこと56[2006.9]で前述の通りです。21世紀に入ると、上述99年の台湾大震災からの力強い復興を経て、成長が回復し、昨年2010年には「一人当たりGDP日本を追い抜き逆転」を実現しています。ちなみに台湾338百ドル、日本334百ドルと僅差ではありましたが・・・。成長の代表株は半導体ファウンドリーのTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company )や、EMSのHon Hai (鴻海精密工業、以下ホンハイ)などです。パナソニック ファクトリーソリューションズの武本社長は電波新聞2010年11月3日付で「SMT装置を中心とした電子部品実装システムでグローバルビジネスを展開する当社の主要顧客であるノートパソコン、薄型テレビ、携帯電話などの市場全体を見ても、世界生産6割が中国で、ブランドメーカーがOEM/ODMに生産委託するケースが急増してきた。6割は生産委託に代わってきたとみている。」と述べておられました。ちなみに中国の輸出企業トップ10の内、6社が台湾企業です。
ホンハイは昨年2010年3月に、液晶パネルでは世界4強の一角で本稿49[2006.8]と64[2006.10.28]でも記載した奇美電子を買収し、グループ売上高が6-7兆円規模となりました。また日立からは、中小型液晶の日立ディスプレーを譲受しています。中国大陸では、ホンハイの中国子会社であるFOXCONN(富士康)が1百万人規模で雇用を行い、深センではiPhoineiPad、上海ではノートパソコンのバイオ、煙台ではプレイステーションWiiニンテンドーDS、などを受託しているそうです。台湾Hon Hai (鴻海精密)の郭台銘薫事長(会長)は、米シリコンバレーベンチャーキャピタル3社との提携発表の場のスピーチ「中国と台湾がECFA(経済協力枠組み協定)を締結したことで、事業機会が広がった。台湾の研究開発及び生産機能に米国の技術力を融合させることで、台湾は北東アジアに対する競争力を高めることができる」を電波新聞2010.11.22が紹介していました。
フィリピン(比国)のEMSであるIMIについて電波新聞2011/3.3付は「比IMI、2010年度売上4%増で4.1億ドルだった。中国事業が好調に推移し、同時に昨年10月に買収した地場企業PSiテクノロジーズの業績も加わった。中国とシンガポール(星国)の合計売上高は、2.4億ドルで全売上高の6割を占める。アーサー・タン社長兼CEOは“日本からの業務受託が減少したが、堅調な業績を達成した”と話している」と報道していました。また同じく電波新聞2010年4月14日付は「IMIが12日に、中国の四川省(Sichuan Sheng)/成都(Chengdu)で工場をオープンした。J.A.ゾベル・アヤラ会長以下、同社幹部が出席して開所式が行われた。A・タン社長は、同地域に新工場を構えた重要顧客の求めに応じて進出したと説明した。IMIが中国で展開する工場は、深セン(Shenzhen)に3工場、嘉興(Jiaxing)と重慶(Chongqing)に各1工場、合計6工場となった。IMIの成都工場の広さは75百m2、プリント配線板から製品組み立てまで幅広い電子製品ソリューションを提供。深セン(Shenzhen)、星国(シンガポール)、比国、米国にある同社デザイン・エンジニアリングセンターと協力したデザインサービスも提供する。」と紹介していました。
日本のEMSで、東証大証の両方で一部上場したシークスの村井会長は電波新聞2010年12月3日付で「台湾系のEMSが巨大化しているが、大規模EMSだけでは市場の要求を満たすことはできない。当社は生産のボリュームを追いかけるタイプの企業ではない。電子部品の販売からスタートし、基板実装や部品調達に並行してEMSの工場を設けた。受託先企業との信頼関係を深めて、分工場のように長く活用してもらうことを基本に置いている。製造業にとって、多数の部品を複数のベンダーから調達するのは納期管理などで手間がかかる。部材は受託先からの指定支給約8割を占める。国内製造業各社が設備投資に慎重となる中で、EMSの優位さが認められ、追い風を受けている。・・・10数%に過ぎなかった非日系の比率が、最近は欧米企業などで高まっている。価格よりも品質を優先する日本のものづくりが世界的に認識されてきた。中国や泰国などで展開する工場のいずれもが同じ傾向にある。インドネシア(尼国)のジャカルタ近効に新たなEMS製造拠点を開設する。これまで日本国内自社製造拠点がなかったが、今年(2010)1月、相模原市に製造と技術開発を行うシークスエレクトロニクスを設立、稼動させた。高度な技術は日本に残す。」と述べておられました。EMSビジネスを展開するさいたま市ユー・エム・シー・エレクトロニクスの社長/内山茂樹氏は、半導体産業新聞2010年6月16日付で「売上高としては20百億円を目指している。現在、当社の顧客アカウント数は180以上。分野別構成比は、車載25%OA機器25%デジタル家電20-30%産業機器10-20%アミューズメントなどのその他数%、とバランスがとれた構成を実現している。日本の工場では、小ロット多品種ラインの構築を完了した。ベトナム(越南国)工場では、SMDラインの増強を進めており、10年度には20本にまで拡充する。中国工場でも10年度にSMTラインを10数本増設する。 」と述べておられました。
液晶テレビ分野で、日本ビクターが北米トップで台湾企業のブランドであるビジオと協業を開始するとの報道には、筆者/青草新吾も万感胸に迫る思いがしました。半導体産業新聞2010年9月8日付は「台湾のAMTRAN(瑞軒科技台北市)は1994年に設立された企業。ODM事業と自社ブランド事業の双方を展開しており、ブランド事業では“Visio”を展開している。09年はテレビ4.3百万台を出荷し、20億米ドルの売上を達成した。10年は30億米ドルの売上を見込んでいる。一方の日本ビクターは、AMTRANとの提携で、北米市場でのトップブランドを目指し、3年後にはJVCブランドのテレビ販売を、年間1百万台に拡大することを目指す。日本ビクターは、10年5月に発表した中期経営計画に基づき、ホーム&モバイルエレクトロニクス事業において、外部委託生産によるファブレス化の推進や、パートナーシップ戦略などビジネスモデルの転換を進めていた。 」と報道しています。
EMS企業世界ランキングについて半導体産業新聞2010年8月25日付は「アイサプライ・ジャパンによると、台湾のフォックスコンが世界のEMS市場の50%のシェアを確保する見通しだ。10年1Q(1~3月期)の売上高は、171.4億ドルで、2番手のフレクストロニクス(星国)の59.4億ドルとは3倍近い規模。以下、3位ジェイビルが3.0億ドル、4位と5位でセレスティカ15.1億ドル 米サンミナ15.2億ドル 6位カルコンプ8.4億ドル、 7位ベンチマーク5.7億ドル、8位プレクサス4.9億ドル、9位ベンチャー4.5億ドル、10位エルコテック2.9億ドル。アイサプライ社によると、09年のEMS業界の市場が12%減少した中で、FOXCONN(富士康)は3%台の成長を維持するなど、リーマンショックで低迷した業界の中でも唯一増収を記録した会社だ。 」と、また半導体産業新聞2010年6月23日付がEMSの全体動向をまとめてくれていたので以下引用記載します。以下引用「EMSビジネスは、1960年頃から始まったOEM(単純製造委託)をルーツとしており、90年代に入り戦略的パートナーという位置づけに進化、EMSというスタイルを確立し、台頭してきた。さらに2000年代に入ると設計部門までを取り込む“丸投げ”に近いODM( Original Design Manufacturing )も浸透し、水平分業化の象徴といわれるまでになった。・・・最近は“部品内製化”で垂直統合も進行している。部品内製化で最も積極的な企業は台湾のHon Hai (鴻海精密工業)グループ。成形部品リジッド基板FPC、さらには傘下のイノラックスと奇美電子(CMO)の合併を機に、大型液晶パネルの本格内製にも乗り出している。業界5番手のサンミナ-SCIも強みとする高多層プリント配線板に加え、モリーモジュールなども手がける。さらに今後、台風の目になりそうなのが、中国のBYD社2次電池で大きなシェアを持つ同社は、昨今、EMS事業の拡大を進めており、FPC内製化も図っていく考えだ。・・・Hon Hai (鴻海)や2番手のフレクストロニクスが対象製品を絞った大量生産を得意とするのに対し、業界3位の米ジェイビル・サーキットや4位のセレスティカ、5位の米サンミナSCIは、非コンシューマー少量多品種をベースとし、明確な差異化を打ち出している。・・・今後はEVなどの環境対応車も対象製品として浮上してくる。現に米フォードは、EMSの積極活用を表明している。・・・日本の国内勢は、少量多品種製品の受注に照準を合わせて、事業規模は年間1千億円を下回る企業が多く、国外のEMSとは明らかに一線を画している。国内は大きく、シークスUMCエレクトロニクスのような独立系を筆頭に、加賀電子大丸興業のような商社系と、OKIグループのような自社ブランド系に3分類できる。UMCエレクトロニクスは、操業2年目ベトナム工場黒字転換するなど、国外業績が好調。製品別には車載OA機器の分野で大手新規顧客の獲得に成功した。従来手がけていなかった白物家電関連の需要増が業績に寄与。シークスは、国外に製造拠点11カ所を有している。主力の泰国では50近いSMTラインを所有する。商社系の大丸興業は、中国に進出した日系メーカーが主要顧客で、特徴は多層板からの一貫生産を行うなど、重要部品の内作にも注力する。自社ブランド系では、東芝ディーエムエスのように、東芝の医療機器や鉄道関連を手がける部門などを集約する形で事業規模を拡大しているところもある。高多層板を内作している。  」以上引用。
米Sanmina-SCIは、2001年に日本IBMのHDD生産拠点だった滋賀県野洲事業所を買収してNPI(New Product Introduction)Yasu を設立しましたが、米Sanmina-SCIシステムズ・ジャパンの代表取締役社長/若下秀雄氏は、Electronio Journal 2010年5月号で「当社は世界18カ国に約60カ所の生産拠点を万遍なく展開し、合計300以上の量産ラインで共通の生産プラットフォーム“COPY-EXACT Concept ”を構築している。野洲のNPIが試作ラインで問題点をつぶしてから、中国や泰国などの量産拠点でそのデータに基づいた量産ラインを迅速に立ち上げられる。当社は少量多品種生産を得意にしている。例えば日本の医療機器メーカーは、当社の強みを十分に提供できる顧客だ。日本メーカーの場合、PCや薄型TV、DSCといった特定の民生機器ではEMSの活用が進んでいるが、産業機器では依然出遅れている。・・・日本では、従来の組み立てのみを委託するCM(Contract Manufacturing)と比較されてしまう傾向が強く、TCO(総所有コスト)の思想が普及していない点も課題だろう。・・当社は顧客が基本設計を行うOEMが基本。ODMは、2008年にPC事業を台湾Hon Haiグループと中国Lenovo Groupに売却した。自社ブランドは持たないという信念がある。 」と述べておられました。
米国フロリダ州に本社を構えるEMS(受託製造サービス)のジェイビルサーキットに関し、半導体産業新聞2010年4月28日付は「09年8月期実績で年間売上高117億ドル。現在22カ国59カ所の製造拠点を構える。最近では初めてロシアに進出した。チャイナ(支那)では無錫に最新のプラスチック加工が可能な新棟を建設するなど、常に世界レベルで最適生産、最適配置を行っている。わずか15年前までは従業員も約3千人だったのが、今では85千人の陣容を誇り、日本国内にも製造拠点を持つ。09年の実績が他のメガEMS企業と異なり、落ち込み幅が比較的少なかった。これは、金融危機に際しての欧米勢の早いリストラ策の受け皿になったこと、に加えて主要アプリケーションが全般的に均等で、特定ユーザーや顧客に特化していないといった特徴も泰功した。新規受注の分野では、エネルギー関連が増えており、太陽光発電ではサンパワーやBPソーラーなど数社から受託して、パネルの組み立てやモジュール供給を行っている。スイス(瑞国)のランディス・ギア社からスマートメーターの受託製造も開始した。新エネルギー分野の売上高も10億ドル規模に達している。手掛ける製品の3分の2メキシコ(墨国)、ブラジル(伯国)、東欧に加え、の諸国といったローコスト地域で製造している。1ロット当り50個以下の混流生産を行いながらも、高効率な生産を持続できている。全売上高の6%が(7億ドル)が修理や保守の受託。・・・日本国内では御殿場工場を擁しており、NEC向けなど5社の顧客向け受託製造サービスを展開している。 」と報道していました。
上術通り、EMSの部材内製化の動きは、部材メーカーとの競争になります。部材メーカーの立場から、EMSとの競合に関し、日本メクトロンの社長/小林俊文氏は半導体産業新聞2010年4月28日付で「リーマンショック以前から大手EMS企業FPC(フレキシブル配線板)内製化の動きがある。景気後退で一時的に設備投資をストップしていたが、再びここにきてアクセルを踏み出した印象だ。もはや内製化を打ち出すEMS企業との競合は避けては通れない。規模を追求し、圧倒的なスケールメリットを打ち出してくることは確実だが、当社としても‘FPCのこの部分はメクトロンには敵わないと言わせるぐらいの強さが必要だ。そのためには、モジュールベースでの提案力を磨いていきたい。部品内臓についても09年度から電子部品メーカーとの協業をスタートさせた。日本国内には、優れた電子部品メーカーや半導体メーカーが数多く存在する。EMSとの競合が今はないLEDについては‘自動車のデイライト用ならばFPC採用で照明器具のデザイン性が高まる利点があるので、この特徴を打ち出せば、市場に入っていける可能性はある。’  」と述べておられました。