青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

エコシステム型の生産財営業でイノベーション共創と好社会を目指す。

178.自動車部品産業の部材現地調達

日本の自動車産業の国外展開に関し「自動車部品の現地生産」に連なる「部材の現地調達」が急拡大していますが、本来は十分に国外生産を維持できるアイテムまでもが、低俗政治と低俗報道による六重苦からこれはたまらんとばかりに国外脱出してしまわぬよう・・祈るばかりです。

  雇用付加価値額への乗数効果が高い自動車産業で、「更なる国外シフト」と「現地調達」が加速しています。グローバル化が進む中で現地生産が拡大していくことは当然ですが、未来世代のためにも、行過ぎた輸出の縮小と国内生産の空洞化にならぬよう、祈る気持ちで一杯です。
  2011年7月17日(日本時間18日)に“なでしこジャパン”がフランクフルトで見せてくれた勝戦のプレーに感動し、更に、米国チーム敗戦後に行われた米国人へのインタビューの受け答えでは、“チャレンジを尊ぶ米国人フロンティア精神”を垣間見て、二度感動しました。負けた米国のゴールキーパーの女性選手は“勝ちたかったけど、負けた相手が日本ならば納得できるわ”となでしこジャパンの実力を認めていたし、米国チームを応援し、敗戦を知って泣き出した米国の女子小学生も、インタビューに対しては“なでしこは完全プレーを見せてくれた。私もそのような選手を目指したい”と応じていました。モトローラ創業家二代目のロバート・ガルビンが、著書の「日本人に学び、日本に挑む」ISBN:4532190185で「優れた顧客であり、尊敬すべき競争相手である日本の素晴らしい友人たちと研鑽しあったからこそ、私自身、そしてモトローラ社は成長できたのだと思います。」で述べていたこと、を思い出しました。あのころよりも今はもっとグローバル化が進展し、外部環境も大きく変化しています。
  日本経済は、震災から予想以上早く立ち直りつつあります。その中で、自動車業界の今後について様々な思いがめぐっています。自動車業界の特長は、何と言っても「雇用」と「付加価値額」の創出における「乗数効果がとても高い」ことです。給与水準も高いから地域経済の消費にも大きな影響を及ぼします。自動車の国内生産1兆円減ると、日本全体の生産としては3.1兆円減るし、1百万台の国内生産を国外シフトすると、国内雇用120千人減るそうです。膨大な雇用と付加価値額を生み続けてきた自動車産業の現在の規模について、超大雑把なイメージで言えば、例えばトヨタの場合、「輸出KD部品3百万台」と国内組立の「完成車の約3百万台」の「合計約6百万台」を国内生産し、付加価値額と雇用を創出しています。完成車メーカーによる自動車部品メーカーからの部品調達は、自動車部品メーカーによる部材メーカーからの部材調達へと連なっていきます。上述の完成車約3百万台の凡そ半分が輸出ですから、輸出KD部品3百万台と合計すると、輸出KD部品を含む国内生産6百万台の「7-8割、約4百万台強が輸出」です。この輸出(完成車+輸出KD部品)の4百万台強すべて国外で部材調達からの完全な現地生産になってしまえば、国内雇用約500千人規模蒸発し、大変なことになってしまいます。トヨタ1社でこれだけの影響を及ぼします。このあたりの危機感を欠いているのが、永田町界隈の政治と、低俗報道を繰り返す朝日新聞NHKなどの東京一極集中型の大手メディア霞ヶ関既得権益に安住する官僚です。鯛は頭から腐るといいますが、永田町霞ヶ関東京一極集中型メディア・・・これらは、まさに頭から腐った鯛の脳みそのようです。世界の投資家の多くが「日本企業への投資では、政治が最大のリスク」と口をそろえています。英エコノミスト誌が日本政治家について「見掛け倒し」「役に立たない」「驚くほど自分のことばかり考えている」とコメントしていたと、日経新聞2011.5.21付が紹介していました。永田町や霞ヶ関では、少数なのかもしれませんが、国を保守するためにも改革を志す政治家や保守のための改革を志す官僚が、もっとパワーを持てるように応援していかねば、と考えます。今は“企業が国境を超えて自らのビジネスにとって最適な国選ぶ時代”です。雇用や付加価値額への乗数効果が高い製造業が、政治の悪さに悲観して国外脱出していくのはとても惜しいことだし、未来世代に対してはあまりにも申し訳ないことです。
日産自動車COOの志賀俊之氏は、日経新聞2011.7.4付で「日本企業六重苦のハンディを背負っている。特に問題なのは電力円高だ。・・・日本車メーカーバブル崩壊以降も合わせて国内生産1千万台を守ってきた。失業率が1桁台でこられたのはそれらの効果が大きい。だが今後も出ていくはずはないと楽観されては困る。」と述べていました。
  その日産自動車も国内生産1百万台を何とか維持しようともがいているようです。同社の世界販売そのものはとても好調で、1999年の世界販売2.6百万台が、2010年度には過去最高4.2百万台へと飛躍的に伸びています。(頭が痛いのは、日本国内での生産を残していくための苦労です。)その日産は、下術の通り、マーチ国内生産打ち切り泰国での現地生産を日本に逆輸入し始めました。2010年度上半期の世界生産の内外比率は、国内0.55百万台国外1.38百万台ですから、国外生産比率72%です。注目したいのは国外生産比率72%の中身の変化です。部品調達の側面からみると今までの国外生産は「日本からの部品調達」も多かったのですが、これから現地生産された現地供給部品の現地部品調達が主となり、現地供給を行う自動車部品メーカーは、さらに現地で加工された現地供給部材現地調達の比率を高めていきます。完成車メーカー現地生産比率が高まり、続いて自動車部品メーカー現地生産比率が高まり、更に部材メーカーの現地加工比率が高まっていきます。このような基本トレンドの中での、下劣な日本政治がもたらす六重苦ですから、本来は日本に残せるようなアイテムの生産まで、国外に逃げ出していく可能性が高まり続けています。
  WEDGE July 2011は「日本メーカー各社国外工場での現地調達率8-9割に上るが、内実は、日本から輸入し組み立てている部品が数多くあった。日本でサプライチェーンが滞ると国外工場でも部品不足が発生するという構図なのだ。こうした事態を受け、トヨタ部品調達を、地域と工場毎に完結させるという“部品メーカーに対する新たな調達方針”を打ち出した。車両組立工場のそばで部品生産し部品供給してもらい“他の地域で造られた部品は、原則仕入れない”という考え方だ。三菱電機下村節宏会長も“自動車の調達ネットワークは、これからは国内も国外も独立した地産地消型のビジネスになる”と強調する。・・・自動車産業生産構造が大きく変わる節目にあたって、いま言えることは、日本の自動車メーカーが国外競合他社と同じ土俵で戦えるような環境を政府が用意しなければ、歯止めはかけられないということだ。為替対策も、税制改革も、TPPなどの経済政策も、牛の歩みに止まっている。自動車産業雇用流出日本経済にダメージを与え、そのもとでは震災の復興原資すらまかなえなくなる。もはや待ったなしである。 」と報道していました。
  上述通り、日産自動車が、新型マーチ泰国で生産日本への逆輸入を開始するのは、日本の自動車産業パラダイムシフトを示す象徴的な事例です。日経ものづくり2010.10号は「生産国は10年3月の泰国での生産開始を皮切りに印度チャイナ(支那)メキシコ(墨)へと展開する。日本向けは泰国エンジンと変速機を除く現地調達率は、泰工場原価比で93.7%。すべてのラインアップに対応できるように設計の共通化を進めた。プラットフォーム、ドアやシートの骨格、印す鶴面とパネルなど共通部分の上に、多様なラインアップを構築し、全世界をカバーする要求仕様を実現する構造。共通部分の図面は一つのみ。設備の開発費製造費抑制し、生産コストを削減した。“地域別の数量増減地域別の増減相殺”し、“数量見込み精度を上げる”ことで、調達コストを下げた。」と解説していました。自動車の現地生産も、「完成車メーカーが現地で部品を調達して生産」するだけの段階から、「自動車部品メーカーが現地調達して現地生産する段階」を経て、「現地の自動車部品メーカー現地部材メーカーから調達して現地生産」する段階、更には「部材メーカー現地で材料を調達して部材生産」する段階へと急速に進んでいます。
  繰り返しますが、世界からは「日本は政治リスクが高い国」と判断されています。浜岡原発の事例では、民主党・管内閣は、浜岡原発の二重三重の防御を三重四重の防御へと安全性を高めることもしないままに、発電を止めても原子燃料がある限り、リスクはそのままで何も変わらないのに、しかも法的根拠も定かでないのに、浜岡の発電を突然に停止させ、民間企業として証券市場に上場をしている電力会社に、あたかも国有企業であるかのようにあれこれ指図しています。あるいは福島原発の事故で多大な債務を抱えてしまった東京電力は、資本主義の原理原則に従って、会社更生法の下でコントロールすべきなのではないでしょうか?・・また、デフレ好き財務省官僚日銀官僚は、円高のアクセルを踏み続けています。例えば、円キャリーで、円を売ってドルに転換して米国の財務省証券を購入しますが、せっかく市場に放出した円をまた市場から吸収するようなことをしているそうです。今、日本に必要なのはデフレ脱却であり、とるべき政策はリフレ政策(デフレを脱却し、インフレまでには至らない状態を目指す政策)ではないのでしょうか?・・・自民党政権時代には、自民党に群がった既得権益集団が改革に反対し、今の民主党政権といえば国家観を欠いたままで、バラマキばかりやりたがる組織経営の素人集団ばかりが跋扈する情けない実情です。民間企業あるいはプロフェッショナルのビジネスマンは、政治が悪いからと言って全てを投げ出すわけにはいきませんから、必死で生き残り策を模索して実行していくしかありません。
  今の民主党・管政権が、朝日新聞や反原発の左翼活動家と組んで、電力供給の不安を煽ってしまったことで、それまでの「五重苦」に新たに電力供給不安が付け加えて「六重苦」にしてしまいました。
  六重苦の内訳は、まず第一が、民主党・鳩山政権が国民的議論もなくぶち上げた“日本だけが突出したCO2削減目標”、第二に、同じく鳩山政権が行った多様な働き方に逆行する“派遣規制”、第三に、韓国などに比べて著しく不利な貿易協定、第四に、三に同じく韓国などに比べて著しく高い法人税、第五に、役人が大好きなデフレ政策によってたらされている悪い円高、これらの五重苦に加えて、エネルギー政策に無定見な今の民主党・管政権によって、第六のエネルギー供給への不安が加わり、従来の五重苦が六重苦になりました。ちなみに日本電産永守社長日経新聞2011年7月23日付で「自家発電を導入するくらいなら、電気のある国に移るまで」と憤懣やるかたない思いをぶつけていました。
  日本の自動車メーカーにとって、強いライバルとして現れてきたのが、韓国の現代自動車です。韓国企業の輸出が増え続けていますが、韓国は、法人税日本の6割電力代日本の4割など、インフラコストが安く、しかもウォン安の追い風と比較すると、日本企業に課された六重苦のハンディキャップはかなり過酷です。現代自動車について日経新聞2011.6.6付は「韓国・現代自動車と傘下の起亜自動車世界販売6.5百万台を実現できる見通しとなり、世界4位ルノー・日産(昨年6.7百万台)との差が一気に縮まる。・・・実力浮き彫りになってきた。米JDパワーアンドアソシエイツの11年品質信頼度調査では、一般ブランドの中でトヨタGMビュイック次ぐ位置に付ける。09年には北米カーオブザイヤーも受賞している。 」と着実な実力向上の側面を報道していました。現代自動車は、2010年欧州27カ国販売台数ではトヨタを抜き去りました。韓国EUFTA発効でさらに追い風が吹きます。尤も現代自動車の弱点についても「強烈なリーダーシップを発揮した鄭夢九会長も既に73歳。これまでの手法をいつまで続けられるのかは経営リスクでもある。一昨年夫人を病気で失い“現場の社員と酒を酌み交わす光景が減った”と評される」と、バランスをとって報道していました。
  以上、日本国の国富の主要な源泉の一つである輸出企業の声、なかんずく自動車関連企業悲鳴、「貧困な日本政治による六重苦の重荷背負わされたままでは戦えない」「国外のライバル企業同じ土俵で戦いたい」が聞こえてくるようです。思い起こせば、世界史の節目の出来事は1989年の「ベルリンの壁崩壊(ソ連邦共産主義帝国の崩壊)」、日本国内では1990年バブル崩壊で大きなパラダイムシフトが起こり、1980年代に世界を席巻したニッポン半導体は、衰退し、米国・韓国・台湾の半導体逆転されエレクトロニクス業界地盤沈下が続く中で、自動車産業が世界販売を伸ばして快走し、日本経済の屋台骨を支えてきました。しかしながらその自動車産業も、2008年リーマンショックと今回の2011年東日本震災を節目として、潮目が変わってきています。このピンチをチャンスに変えて日本の自動車産業が、更に強くなってくれることを期待しています。