青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

エコシステム型の生産財営業でイノベーション共創と好社会を目指す。

2013-05-26 189-2/2 電子基板産業の今昔と東アジア

電子回路基板(プリント配線板)の産業では台湾企業が大きく伸びました。勢いが際立っています。

筆者/青草新吾は、5月連休明けに、TPCA(台湾電子回路協会)が、蘇州で開催した“TPCA SUZHOU 2013”を訪問しました。電子部品を表面に固定して配線し電子回路を構成するための電子回路基板の分野で起こった日台逆転については、30[2006.6 電子基板で台湾と中国]や138[2008.8 電子基板で生産間接財]などで寄稿しました。今回得た知見の詳細は下術します。
電子部品産業は、統計上も業界団体も、大きくは電子回路基板(プリント配線板)の業界と、電子基板の上に実装する電子部品4品目、具体的には、コンデンサやコイルなどの受動部品、スイッチやコネクタなどの接続部品(かっては機構部品とも)、スピーカーやモーターなどの変換部品、電源や高周波などのその他電子部品、の業界に大別できます。
村田製作所社長の村田恒夫氏は、電子回路基板の上に実装する上述の電子部品4品目の日系企業比率について、電波新聞2013.5.24付で「JEITA推計の13年の電子部品世界生産見通しは、12年比0.6%増の17.8兆円。内訳で日系企業の世界生産は6.5兆円で世界全体の38.5%を占める。世界の電子部品生産に占める日系企業比率はここ数年は4割程度で推移している。汎用品は新興国企業の追い上げで競争が激化しているが、日系は高品質や信頼性が要求されるカスタム品強みを発揮している」と述べておられます。汎用品とカスタム品という分類で考えると、カスタム製品の比率が高い受動部品などの電子部品4品目では、日系企業が強みを維持し、今でも4割近くの日系比率を維持できています。日系比率が高い電子部品は、例えばスマートフォンや携帯電話に使われる精密スイッチブラシレスモーターなど、日系比率は7割くらい、セラミックコンデンサなども日系比率6割くらいを維持しているようです。・・・・一方で、汎用製品の比率が高い電子基板業界では、企業国籍で日台逆転生産地国籍で日中逆転が起こりました。
電子基板業界における日本企業の実績を「プリント回路メーカー総覧2012年度版」(isbn:9784883532001)から拾うと、日本国内の電子回路基板の生産額は、リーマンショック直前の2007年が、1.379兆円でしたが、2011年80.81百億円2012年計画ベース82.09百億円へと3割強、4割近い縮小が起こっています。企業別には2012年度予想で、イビデンが17.65百億円、NOKが25.00百億円、日本CMKが8.20百億円、メイコー7.00百億円、フジクラ2.73百億円、住友電工プリントサーキット11.50百億円、日東電工4.73百億円、日本特殊陶業3.46百億円、トッパンNECサーキット3.36百億円、キョウデン3.15百億円、シライ電子2.45百億円、エルナー2.20百億円、大昌電子2.30百億円、京写1.67百億円、エヌビーシー1.60百億円、・・・。大手で記載されていないのが、新光電気日立化成パナソニック京セラSLCテクノロジー三和電子サーキット、などです。ここで台湾のTPCA(台湾電子回路協会)に話を戻します。
TPCA(台湾電子回路協会)が会場で掲示していた統計によると、台湾企業のPCB(電子回路基板)生産は、2001年の47.63億米ドルから、2012年の174.04億米ドルへと実に3.7倍に拡大しています。台湾と大陸の生産地別台商両岸PCB暦年産値成長趨勢)では、2001年は38.17億米ドルの台湾生産に対し、陸中国での生産は9.47億米ドルと両岸合計47.63億米ドルの19%に過ぎなかったのが、2012年には80.90億米ドルの台湾生産を上回る93.14億米ドルへと、両岸合計174.04億米ドルの54%へと大陸での生産が急増しています。面積などの数量ベースでは恐らく7割が大陸での生産にシフトしたものと推定できます。
電子基板世界生産に占める「生産地」統計では、2001年は、日本が87.80億米ドル米国75.21億米ドル欧州52.85億米ドル台湾39.25億米ドル、大陸中国35.95億米ドル、韓国20.42億米ドルでした。これが2012年には様変わりとなり、陸中国257.30億米ドル日本86.72億米ドル韓国80.95億米ドル台湾80.92億米ドル、アジア36.10億米ドル、欧州28.11億米ドル、米国28.00億米ドルへと大きく変わっています。上述通り、国籍別では台湾企業が大陸での生産を大きく伸ばし、ボリュームでは日系企業を大きく引き離しています。国籍で台湾企業が、生産地としては大陸中国が世界ナンバーワンになっています。
半導体産業新聞2013.5.15付は「CPCA(中国印刷電路行業協会)によると、陸中国プリント配線板生産は、2012年には前年比約6%増の197.8百万平方m、ボリュームでは世界需要の約40%となった。・・・・上位20工場売上高は459.7億元全体の56%を占める。トップ100工場813.9億元(約1兆円)寡占化が進行中。・・・中国配線板上位10工場半数は台湾メーカー。1位のハンスターボー(江陰市)の売上高は46.47億元、以下2位ビアシステム(廣州市)が43.53億元、3位が日本メクトロン(珠海市)で39.99元、4位が台湾WUS(昆山市)の31.28億元、5位が墺AT&S(重慶市)で25.79億元、6位が台湾NYPCB(南亜電路板)の昆山工場で25.76億元、7位が台湾COMPEQ(恵州市)で23.03億元、8位がユニマイクロン(深セン市)22.83億元、9位が中国国営のフォンダーPCB(方正印刷電路板)で21.85億元、10位が中国国営のSCC(深南電路)で21.81億元。」と報道していました。
陸中国輸出企業トップ10の内訳では、華人国家の台湾企業が6社を占めています。台湾企業約80千社が台湾から大陸へと行った累計投資額12百億米ドル(約10兆円)とのことです。台湾企業の伸びはやはりリーダー人材の質の高さによるところが大きい感じがします。台湾の華人経営者の方々の多くは、米国も日本も両方を理解し、しかも大陸の中国人を相手にうまく立ち回れる方々です。日本企業の停滞理由の一つに“ボトムアップの弊害”が言われます。“キャッチアップ型経済では威力を発揮したボトムアップ”ですが、ソ連と東側共産主義圏が崩壊して以降の手荒なグローバル化では、日本企業の変化の手かせ足かせとなってきました。ボトムアップでは大きな判断はまとまりません。様子見や小手先の対策の小出しの繰り返しでは消耗していくだけです。先行き不透明で不確実性が高い今の時代には、トップダウン型意思決定が重要です。しかしここで多くの日本人がトップダウン経営をワンマン経営と混同したりの勘違いをしているようです。北朝鮮のような世襲でしかも専制的、労働党(共産党)がイデオロギー(事実に基づかない判断)で独裁、といった状況とは異なります。トップのリーダーシップと組織としての機関決定の関係ということでは、瀕死の日産を立て直した日産ルノーゴーンさんが好事例です。
東京大学ものづくり経営研究センターの吉川良三氏が日経ものづくり2013.5号で「サムスングループイ・ゴンヒ(李健熙)会長リーダーシップは上意下達ではなくて下意上達」とし「会長は、自身の持つビジョンに照らして、起案内容が同じ方向であるかどうかを判断し、ゴーサインを出す。起案内容について、会長がたまに直接に指示をするのは、スタッフの起案が自分のビジョンとズレている場合のみ。これは全体の1割くらい。これはDecisionの決定ではなくて、Judgementの判断。会長が一人ですべてを決めるわけではない。会長が投げかけた問題をスタッフが考え抜いて起案し、会長は判断に徹する。これがSamusung Electronics社の意思決定が速い理由の一つだ。・・・今の日本企業権限委譲中央集権化不十分で十分でない。多くの日本企業の意思決定の遅さはここに起因するのではないか」と寄稿しておられましたが、筆者/青草新吾も概ね同感です。決断よりも何よりも「合理的な判断力」が知見と教養で研ぎ澄まされています。合理的な判断とは、日本語でいえば「順理即裕」つまり「論理的・合理的に考え、道理や倫理と照らし合わせ、人間としての基本姿勢を尊重すれば、豊かな結果を生み出す」です。ISO9000シリーズの思想だと合理的判断とは「適切性(Suitability)妥当性(Adequancy/Validation)効果性(Validity/Effectiveness)」に分解できます。北朝鮮世襲専制の強権指揮や、公私混同ワンマン経営者の勝手判断とは全く違うものです。
4月中旬に香港・華南、月末に 曼谷、連休明けに上述の上海・蘇州と、小刻みな三回の入出国を繰り返しました。アセアンの経済は絶好調に入りました。一方で陸中国高度成長が終焉したことはほぼ間違いありません。巡航速度で普通の成長を維持していけるのか、1987年の韓国民主化、1989年6月の天安門事件、同11月のベルリンの壁崩壊、1991年12月のソビエト連邦解体のようなことになっていくのか・・・。日本企業も大陸での生産投資がピークアウトしました。一方で世界最大の製造業大国/米国は、シェールガス革命復活著しく、少なからぬ米国企業が、陸中国から米国へ母国回帰の生産シフトを進めています。この余波に乗ったアベノミクス日本経済も復活の兆しがでてきました。第三の矢である規制緩和構造改革を実行していければ、自民党内部・既得権守旧派や、守旧派官僚官公労が邪魔しなければ、規制緩和構造改革で日本経済が本当に復活できるかもしれません。米国に加えて日本が復活していけば、上向く一方の環太平洋諸国の経済活動への更なる支援材料となります。こうなってくると、東アジアの地政学位的変化が起こって、台湾香港・華南フィリピン(比国)ベトナム(越国)など、大陸チャイナ(支那)とアセアン(東南アジア)の中間地帯に位置する東アジア中央(Central East Asia)での生産活動が一層活発化していくものと思われます。