2015-08-23 199. 経済再生と政治維新
中国のバブル崩壊はかなり深刻です。日本は何よりも経済力(稼ぐ力)の再建を急ぐべしです。大増税しなくてもやっていける社会を次世代に引き継ぐためにも、子育て家庭への支援や貧困層への支援を厚くしていくためにも、乱暴で無法な中国共産党・紅軍への抑止力としての日米同盟を確保しながら、対米従属から徐々に脱却していくためにも、・・・。
国民総所得(Gross National Income、後述)が伸びて、GDPも2%くらいの成長を実現できれば、20年後GDPは122%です。政府支出(歳出)を今以上に増やさず、今のような国債金利であれば、徐々に政府債務(政治家と公務員が国民に返済すべき借金)も対GDP比率で軽減されていきます。国民経済トレンドを把握する目的だと、安倍内閣が成長戦略で採用した実質GNI [実質国民総所得Gross National Income (GDP+所得収支+交易利得又は損失)]がGDPよりはベターです。グローバル化で「国外からの投資リターンや給与純受取額」が増え続けていますし、一方では交易条件(輸出入価格)の変動による実質所得の増減(交易利得)も発生していますから。・・・日本の失われた20年とは、異常な円高による交易条件の悪化で、常に「実質GDP>実質GNI」となり、国内で生まれた富が国外から吸い上げられてきた状態です。ニッセイ基礎研究所2013.6.14によると「過去10年間、交易損失が26.4兆円」(国外への所得移転。国内居住者の実質所得26.4兆円が国外に流出)していたようです。購買力平価だと対ドル円レートは、工業用製品が100円くらい、生活関連製品が130円くらいだそうですから、適正な対ドル円レートは100円から120円の間です。80円だの90円だのは明らかな異常円高であり、交易を通した日本国からの所得移転に他なりません。明らかな政治の失策です。自社さ政権時代による円79.75円(1995.4)、民主党政権時代の円76.25円(2011.3)という歴史的な超円高は、自社さ政権と民主党政権の放置政策の結果だし、日本国内で生み出された富が国外に所得移転されてしまったということです。グローバル化した経済では政治が極めて重要です。
幸いにも日本には世界レベルで図抜けた競争力を維持できている会社(営利法人)やそれらをとりまく企業群(個人事業+会社)が存在しています。地方創生に直結する様々な創意工夫とイノベーション、例えば、岡山理科大学の好適環境水・養殖(淡水魚の金魚と海水で生きるキイロハギが同じ水槽で泳ぐ、産経新聞2009.10.7)や、最近では、近畿大学の完全養殖まぐろやウナギ味なまずも実用化・商業化の域に入ってきました。民間の創意工夫や新しい価値を生み出すイノーベーションを役人や政治家が邪魔しないことを祈るのみです。・・・経済成長を実現していく上では「成長戦略の一部」として「次世代を担(にな)う子供の貧困対策」も重要です。就学前の教育が生涯所得に大きな影響を与えるという仮説が先進国共通の知見になりつつあります。この点に関しては下術で補足します。・・・人口減少や高齢化もイノベーションの源泉に転じていく努力が望まれます。厚労省独占の医療・介護の一律・画一的な官製市場を「ナショナルミニマム(政府の基礎的な保障)」の上で、民間事業者の創意工夫を活かす成長分野に変えていく「政府財政健全化と両立する成長戦略」にして欲しい。日本経済を再生するために何よりも必要なのは津々浦々での全国民的な草の根のイノベーションです。
伝統の保守とは革新の連続です。世界の老舗企業の半分が日本です。老舗企業大国ニッポンを紹介した拓殖大学教授の野村進氏の著書*1によると創業1百年超の会社が100千社以上あるそうです。保守のために自己革新し変わり続けてきた不易流行の企業群です。日々創意工夫で変えるべきは大胆に変え、時代や環境の変化の中で事業継続してきた結果です。過去の成功体験に固執し、上辺(うわべ)だけの伝統継承にこだわりフロンティア開拓のベンチャー精神を忘れた企業は、衰退や消滅していきます。
衰退の中から息を吹き返した企業が多々あります。中堅大企業の領域では森下仁丹の事例。三菱商事出身の駒村純一氏が社長に就任して以降、社内で温存されていたノウハウ(仁丹の被覆技術)のアプリ開発で医療カプセルを商品化し、世界へのマーケティングで大きく成長しました。事業転換ではよく聞く話ですが、新事業へのチャレンジについていけずに退社していった方々も多々おられるそうです。金型部品商社のミスミは、初代の創業1期の田口弘社長の時代に大きく成長しました。この田口さんの凄さは自分の後任に「経営パワーの危機」*2や「戦略プロフェッショナル」*3の著者としても広く知られた三枝匡氏(実務経験は三井石油化学とBCG)を指名したことです。創業1期の田口社長の代に大きく伸びたミスミは、2期の三枝社長の代に更に大きく発展しました。正にスパイラルアップの見本です。
大企業の領域では、富士フィルムの事例。銀塩フィルムの時代には「世界の優良企業だったコダック」が連邦破産法を申請し、コダックを仰ぎ見ていた富士フィルムは銀塩フィルム派生の生産財(TACフィルムなど)へと主力事業転換をやりきって生き残りました。2000年以降の主力事業転換で社長としてのリーダーシップを発揮した古森重隆氏は、入社3年目で産業材料部・営業部員としてこのTACフィルムの市場開拓(アプリ開拓)に取り組みだしたお方とのことです。富士フィルムを救った主要な一つのTACフィルムとは実に30年以上もの商材開発・マーケティングの積み重ねの結果として大きく花開いたことが判ります。・・・東レや日清紡、福井のセーレンなど、日本の繊維産業は、主力アプリの転換(衣料⇒産業素材・生活資材)で大きくスパイラルアップして発展しています。東レは、炭素繊維製品(CFRP)で世界トップですが、実に1970年頃から本格的な事業化に取り組み、航空機分野で一定の需要を得て、とても日本的な用途開発のゴルフシャフトや釣竿を経て、今はEVやハイブリッド車の自動車軽量化で事業規模も大きな拡大が見込まれます。日清紡の事業ポートフォリオは、自動車ブレーキ摩擦材事業が3割、更に2010年に日本無線を子会社化したことでエレクトロニクスが4割へとスパイラルアップしてきています。・・・福井のセーレンは、傍流部署の社員で「課長昇格が一番遅れた川田達男氏」が、社内で大きな反対を受けながらも干された先輩社員と始めた自動車内装材が大きく伸びたことで、ニクソンショックやプラザ合意で巻き起こった繊維不況を乗り越え、イノベーションでリーダーシップを発揮し続けた川田達男氏が社長に就任し、染色加工の受託賃加工から自動車の内装材メーカーへとスパイラルアップして発展し今に至ります。
日本的なイノベーションの多くが守破離です、最初は真似ごとから始まり(守破離の守)ながらも、基礎が固まってきたら独自性を高めて(守破離の破)、最後には独創で世に新しいものを生み出す(守破離の離)というスパイラルアップです。イノベーションとオペレーションとはマネジメント手法が異なります。トップがイノベーションタイプが望ましい。でなければ組織が官僚化し大企業病(行き過ぎた管理主義)になり易い傾向があるのかもしれません。一方で既存事業のムダドリで稼ぐ力を高め続ける努力も必要です。筆者/青草新吾が見てきた様々な優良企業の事例からは「イノベーション2割+オペレーション8割」くらいのバランスが事業内容の新陳代謝を持続しながら発展していく上でベターな気がします。・・・フロンティア精神を尊ぶ米国企業と異なり、日本企業の場合にはイノベーションンに向けてのトップのリーダーシップを欠くと、組織全体がずるずると「イノベーションを阻害する組織へと変性」してしまう傾向があります。イノベーションの天敵害獣となるのは大企業病(行き過ぎた管理主義)です。
事業環境も大きく変化しました。日経ものづくり2015.7で「ものづくりを取り巻く環境も大きく変化した。まず第1には、自動車の電動化や自動化に象徴されるハードウエアとソフトウエアが一体となった制御が求められるようになったこと。第2に、生産のグルーバル化。かってのように日本で製品を立ち上げてから国外移管するプロセスを経ずに、タカタのエアバッグのように“内外のエンジニアが共同開発して、外国で生産する仕組み”が増えた。・・・第3に、持続的なコスト削減圧力の増大。難燃剤が原因の過熱トラブルでは、難燃剤を臭素系から日臭素系に切り替えた際にメーカーがサプライヤーに臭素代替/赤リンの耐水グレードを指示していなかった事例など。・・・第4に、工場における現場力の低下。・・・第5に、流通業のメーカー化。流通企業がメーカー的な高い品質コントロールのノウハウを身に付ける必要がある。」と環境変化を整理していました。また「トヨタ名誉会長の豊田氏は“中国などのアジア勢がプレゼンスを高めている。独連邦国も米合衆国もIoT(Internet of Things)を活用する製造業のイノベーションに取り組んでいる。ものづくり産業の国際競争力が低下して2流国3流国になりかねない。日本に残された時間は少なくラストチャンスという意識で進めないといけない。”と品質管理シンポジウムで警鐘を鳴らした。」との記載もありました。・・・しかし最後は人材です。ますますコミュニケーション能力が必要になっていきます。相手の価値観、習慣、思考や行動のパターンをきちんと理解した上で協働や提携でないとうまく回りません。相手のストーリーや発言の背景を理解して聴く、自分の考えを筋道立てて根拠も示して伝えていく、ことが必要です。国際社会で生きていく力を高める教育が大切です。
上述の「成長戦略の一部としての次世代を担(にな)う“子供の貧困対策”」について。日本では「相対的貧困率(可処分所得の中央値の半分に満たない世帯員の割合)が先進諸国の中では高く」なり続けていて、特に「子供の貧困率は先進国では最も悪化が続く国」になりつつあります。「分配政策の是正改善」が必要です。
失われた20年でGDPが縮小してきた日本と、低成長といえどもGDPが拡大してきた欧米とでは、実情が逆です。ピケティの指摘(欧米における富裕層への富の集中による格差拡大)よりも日本社会では「中流下層の所得が減少し貧困が拡大している」ことの方が深刻な問題です。日本では欧米のような富裕層への富の集中はみられませんが「中下位層が貧しくなることで“国民経済全体も貧しく”なっている」ことが問題です。それでも中流下層が貧困化していくことで、教育の機会均等が保障されず、貧困が親子で世襲化されていくと、ピケティが懸念する「相続財産で格差が固定する社会では再分配しないと人々が働く意欲を持てなくなるのではないか」という点で、日本は欧米と同じ課題を抱えています。・・・1980年代から90年代にかけてのマクロ経済政策の失政の繰り返しや、国会議員の政治の政局ゲームで日本経済は縮小が続き、縮小した部分のシワ寄せが中流下層の貧困化です。90年代後半の就職氷河期の方々も中高年になっています。なぜこうなったか?を振り返ってみます。
プラザ合意(1985.9)の後の長すぎた円高政策継続、その後の性急な円高是正で政策誘導された資産バブルへとつながり、日銀の遅すぎたくせに唐突に性急で執拗なバブル潰しでバブル崩壊、これにソ連崩壊(1991.12末)の後の日本の政治混迷が重なり、1990初頭の資産デフレへの変調を放置、後手に回って、今度は景気刺激策と称して史上空前の国債発行・公共投資を行い、これまた性急な消費税導入で、とりとめようもないデフレの奈落へ。更にはデフレなのに、IMFの助言を聞かずに「性急なゼロ金利解除」だの、「消費税増税」のデフレ政策の繰り返しの駄目押しして深刻なデフレをもたらした。・・・1991.12末のソ連崩壊で、先進国のマルクス主義左翼はほぼ崩壊したのに、なぜか日本だけは、政局優先の「自社さ政権」誕生で、マルクス主義政党の社会党から村山富市首相が出るなど、およそ世界の潮流からかけ離れた政治が行われました。村山政権をもたらした当時の自民党指導層、例えば、河野洋平、加藤紘一、山崎拓、亀井静香といった面々も連座責任は少なくないと思います。・・・当時、日本のマルクス主義左翼はご本尊のソ連が崩壊するのを前にして「格好の勢力維持の手段として歴史問題を中韓に焚き付けて」今に至ります。・・・「失われた20年」の流れでは、先進国の中では日本のみが唯一でGDPが伸びず縮小・横ばいでした。GDPが縮小・横ばいなのに、財政投入の膨張で政府債務が急増してしまいました。小泉政権で歳出が少し圧縮されて正常化に向かったのに、民主党政権でまた膨張させてしまいました。民主党政権の悪夢を思えば、1990年代初頭の「自社さ政権」の再来のようでした。2012年末の第2次安倍内閣登場で、ようやく小泉政権のレベルまでの政策正常化が戻りつつあるところですので、経済再生のためにも、このまま安倍政権が続いてくれることを期待します。でないと中国のバブル崩壊が最悪の事態にでもなれば、乗り切れなくなってしまうのではあるまいか?と危惧しています。“公正な自由競争のメカニズム”が働く限りにおいて、個人事業を含む企業は顧客獲得競争を通して創意工夫を行い、富を生み出して社会貢献を続けることができます。安倍政権には「規制緩和・構造改革」をもう少しパワフルに進めて欲しいところではありますが。