青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

生産財の青草新吾1はリタイア。シニアの青草新吾2は複業で貢献を目指す。

2016-10-01 202 自動車産業の1百年に一度の大変化

日本の自動車産業が大きく飛躍してくれたお蔭で、日本経済の20年間にも及ぶ経済停滞も緩和されました。1百年に一度ともいわれる自動車産業の変化とこれからの日本経済を俯瞰してみます。

筆者/青草新吾は、トヨタプリウスが販売開始された1997年に大阪インテックスの電気自動車シンポジウムでお聞きした豊田章一郎会長(当時)の「自動車の歴史は、電気モーターで始まり、内燃機関で発達し、そして今、トルクコンスタントの内燃機関とパワーコンスタントのモーターを組み合わせたハイブリッド車を販売開始します。」とのメッセージが強烈な印象で残っています。
今、世界の自動車業界は、次世代自動車に向かって激しい競争の真っただ中にあります。次世代自動車は、EV(電気自動車)、HEV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)で、これらすべては電動モータで駆動します。長期的にはFCV(燃料電池車)が有望とされますが、目先はEV(電気自動車)とHEV/PHV(ハイブリッド車)が主役となります。
米国や中国では、トヨタが独走するハイブリッド車を避けてPHV(プラグインハイブリッド車)とEV(電気自動車)を押し立てた政策を推進しているようです。欧州ではフォルクスワーゲンに代表されたエコディーゼル戦略が行き詰まり、ハイブリッドよりも難易度が低いマイルドハイブリッドを押し立てた政策を推進しているようです。米国では電気自動車のテスラが快走しています。中国は、エコカーの生産台数で米国を凌駕するようになってきています。パワートレインの電動化に加えて、自動運転技術まで出てきました。さらに都市部では所有から利用のカーシェアリングの普及が進んでいます。クルマは正に1百年に一度の大変化・動乱期に入っています。
日本の自動車産業は、日本自動車工業会(JAMA)の2015年度実績発表によると、総務省調査で日本の就業人口の8.3%の5.29百万人(内製造部門で0.8百万人)、経産省工業統計で製品出荷額の17.5%の53.3兆円、財務相外国貿易概況で商品別輸出額の21%、15.89兆円、日本政策投資銀行調査で設備投資の20%の1.4兆円、総務省科学技術研究調査で研究開発費の23.4%、2.7兆円を占めています。今や世界生産27.38百万台、生産の内外内訳は、34%が国内の9.28百万台、66%が国外で18.10百万台です。・・・日本の自動車生産は、東京オリンピックの翌年、1965年頃に2百万台を突破し、日本社会のモータりーぜーションで伸び続け、1990年に過去最高の14百万台近くまで増えました。1990年は国内販売も過去最高でした。がしかし、1985年のプラザ合意以降の猛烈な円高で輸出採算の悪化が著しく、1994年頃には完成車輸出と国外生産が逆転し、以降、猛烈な勢いで国外生産が増え続けました。2007年には、国内生産と国外生産が逆転し、以降は、国内生産が10百万台を割り込むようになり、国外生産は伸び続けています。・・・しかしながら、各社ともに国内生産の一定規模を死守するとしていることを銘記しておかねばなりません。
日本の場合は、産業集積の点でも、個別企業の生産性の点においても「日本国内の生産性が諸外国よりも図抜けて高い」という特徴があって、マザー工場の役割が高いのです。国際競争力を維持していくための国内生産の規模に関し、トヨタは国内生産台数「3百万台」、日産は国内生産「1百万台」を掲げています。
日本の自動車メーカーの生産性に関し、東大教授/新宅純二郎氏が日経新聞2016.9.29で「日米の生産性比較[1台当工数(人・時間)]。1989年時点から2000年にかけて、日本企業の母国工場が16.8から12.3へ、対する米国企業の母国工場が24.9から16.8へと日米ともに生産性が向上した。米国は1989年時点の日本企業母国工場並みに追いついたが、日本もよくなったので格差はそのまま残った。・・・日本のマザー工場とアジア拠点との比較。日本国内の自動車10工場の1台当り工数は、00年の12.3から10.7へとさらに改善されている。一方で泰国の日系5工場は25.2、日本の賃金水準5.4倍を加味した1台当り労務費となると、日本100に対し泰国44、中国工場28.4に日本の14倍の労務費を加味すると中国19へと、図抜けた日本の生産性も製造コストでは逆転してしまう。日本の工場単独では稼ぐ力は劣っているが、国外の工場を良くし収益力を向上させる発信基地としての日本のマザー工場の機能はまだまだ健在である。」と寄稿していました。
世界の自動車生産は、新興国での需要拡大で1億台までには届きそうで、まだまだ伸びます。一方で、米欧日と中国では次世代自動車の普及が加速していく方向です。2020年以降は生産のピークアウトを迎えるかもしれません。また自動車の構造も大きく変わり、ネットワーク化が進んでいくことで、生産財の最大市場の自動車産業がどのように変わっていくか・・・。生産財営業の視点からは、まだまだ10年くらいはクルマ向け割合を高めていく方向でしょうが、ピークアウトに備えて非自動車分野の種まきもしていく必要があります。
政治にお願いしたいのは、構造改革を急げということです。大阪府や東京都で明らかになってきたように地方政治の改革を進めていく必要があります。中央政府レベルでは、外交・安全保障や通貨などに集中し、地方政府でできることは地方で進めていく地方分権の方が時代に会っています。道州制くらいの単位で、各々の地方政府が経済振興のエンジンとなって産業振興を競い合うようになって欲しいものです。
スタンフォード大学教授の星岳雄氏が日経新聞2016.9,30で「日本経済の20年間もの停滞は、需要不足のみならず、供給側の潜在成長率低下で引き起こされた。緩やかなデフレに止まり、デフレスパイラルにまで陥らなかったのは、需要側に加えて供給側も停滞していたからだ。・・21年前の95年9月。日銀は兆しが見えていたデフレを防ぐために公定歩合0.5%引き下げを行い、同時に思い切った構造改革の必要性を訴えた。思い切った規制緩和など構造改革が必要だと発表した。以後20年間訴え続けてきている。構造改革を今こそ本格的に進めないと、日本経済は再び復活の機会を失ってしまう。」と寄稿していましたが同感です。増税よりもできるだけまずは減税と補助金などの歳出見直し、起業と雇用増促進や、労働スタイル(働き方)改革、子育て支援、親子近住やコンパクトシティの推進などなど・・・政治の役割がますます高まっています。特に、国政をスリム化して、住民から近い地方政治の改革と充実に期待したいし、そのための投票行動を呼びかけていきましょう。