青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

生産財の青草新吾1はリタイア。シニアの青草新吾2は複業で貢献を目指す。

2007-12-22 111-1/2 組織デザインと生産性/ ミスミや松下電器など

企業とは営業(事業を営むこと)を推進する組織ですが、組織の生産性は組織デザインの出来不出来によって向上したり低下したりします。

組織デザインの秀逸事例に関し、例えば生産財商社ミスミは「小さな組織で、創って作って売る、のサイクルを回すのが当社の強みです」と事業チーム制と修羅場で鍛えられた気骨のある人材こそが競争力の源泉である旨を説明してくれています。ミスミ社長の三枝匡氏は著書*1などで、事業の原点は「創って作って売る」のサイクルをいかに回すかであり、顧客ニーズ迅速に対応するためには小さい組織である方が良い、と述べておられます。事業付加価値を生み出す主要プロセスの「創って作って売る」を最小単位で編成するというのは、顧客対応の上ではとても理に適っています。一方でグローバル製造業では松下電器が秀逸な事例を提供しています。グローバル製造業の場合には、より小さな組織へのニーズとより大きな組織へのニーズという相矛盾したニーズが並存しています。市場対応と顧客対応の上ではミスミと同様に小さな組織を、しかし巨額の設備投資や研究開発を負担していくためには大きな組織が必要です。松下電器は、2003年の機構改革で[事業ドメイン・ビジネスユニット制]へと基本骨格を仕上げました。経営資源の単位を事業部よりも大きな事業ドメインとし、市場・顧客対応の単位を事業部よりも小さなビジネスユニット(BU}としたことで組織の変化対応力がぐんと高まりました。組織の束の括りのイメージは、松下電器>4分野>14事業ドメイン>事業部>BU(ビジネスユニット)>グループです。20世紀型の事業部の機能を資源配分市場・顧客対応とに分解してそれぞれの括りの規模を再編し、21世紀型の事業組織にスパイラル展開したといえます。
組織デザインの失敗事例に関し、筆者/青草新吾の記憶に残る一つが1980年代の浜松の優良企業です。経営コンサルタントマッキンゼーは、多角化された事業を夫々細かな事業部に編成するように進言し、件の浜松の優良企業は推奨されるがままに事業部制導入を決行し、失速してしまいました。当時の失速の主要因の一つには、零細事業部の乱立、つまりあまりにも細かく小さな事業部に分割し過ぎたために各々の事業で等しく経営資源と組織能力が薄まってしまったからだったようです。急成長で大企業になった企業を含めて中小企業は事業化精神旺盛なオーナーが社員の実力以上にあれこれと手を出しすぎて衰退するといわれます。反対に優等生組織や減点主義組織になり易い大企業は現状維持に甘んじて何もしないことで衰退します。
組織目的実現のための業務執行の観点からは組織とは、責任と権限の体系です。生産性訴求の観点からは組織とは生産性を高めるための分業と統合の体系です。生産性を高めるためにルーティー水平分業が編成されますが、現実には水平分業の標準から乖離した異例事項が多々発生します。異例事項を放置しないために上司と部下といった垂直分業が組まれます。因みに上司への負荷は異例事項の件数やボリュームであって、ルーティーンに従事する部下の数ではありません。例えば、開発部で5人の上司の方が、工場で100人の工場長よりも負荷が高いことも十分にあり得ます。組織デザインとは、この[分業統合]、[水平分業垂直分業]の組み合わせを設計することです。この組織デザインが形式化して、組織デザインと実際の責任と権限の齟齬が大きくなると組織能力は衰退します。
組織デザインに関し、筆者/青草新吾の上述の視点からは、数多くの書物の中からは113や119で前述の一橋大学大学院教授/沼上幹氏の組織デザイン*2の有効性が高いと考えてます。以下、同書から引用ですが「組織デザインは、(副次的な)効果を生み出してしまう。組織デザインは人材育成効果とか、戦略創発の効果をもつのである。例えば組織デザインの工夫次第で人が育ったり育たなかったりする。現場から優れた戦略生み出されたり生み出されなかったりする。・・組織形態の基本は、機能別(functional)組織、事業部制組織(multi-divisional form)、マトリクス組織(matrix organization form)の三つである。これを分業の程度を高めたり、各ユニットの連携性を高めたり、逆に独立性を高めたり、あるいは逆にといった加工・修正を施していくのが通常の組織デザインの作業になる。」といえます。次頁以降では、分業による生産性の向上、マネジメントの限界による生産性低下並びに組織の適正規模と生産性の関係、組織の基本型である機能別組織と事業部制、上述の松下電器の機構改革事例について記述します。

*1:経営パワーの危機」三枝匡isbn:4532191653 

*2:「組織デザイン」沼上幹ISBN:4532110238