112-1/3 組織生産性で集団規模 生態学的集団から認知的集団 大組織へ
企業など機能集団の組織生産性は、例えば営業部門でも単なる並行分業から機能別分業の編成にすることで生産性が高まる場合が多いようです。
英語のcompanyには、会社という意味の他に陸軍の歩兵中隊という意味があります。陸軍中隊は世界共通に概ね150-200人規模とのことです。ちなみに小隊(platoon)は30-40人、分隊(squad)は6-10人とのことです。組織生産性を集団ベクトルという切り口から見ると、小集団パワーをいかに引き出すか、そしてこれら小集団の顔が見えなくなってしまうとマネジメントの限界を超えてしまうことになり易いので、全社レベルでの分業単位(機能部や事業部)を適正規模に保つことが重要になります。経営品質でいうところの個人と組織の能力の形成や発揮に対しては、集団規模(組織の単位)が大きく作用します。
目標実現に向けての人間集団の最適規模を考察する場合には、自然の摂理としての生態学的集団(群れ及び群れの中の小集団)と認知的集団の知見がとても参考になります。人間が形成する集団の規模に関し52[小集団の営業プロセス]で引用した京都大学霊長類研究所教授/正高信男氏の著書*1から生態学的集団と認知的集団の両方をレビユーしてみます。まず人間に特有な認知的集団に関し、上述正高信男氏の著書の記述「認知的集団の適正規模は100-200人で、陸軍の中隊規模(100-200人/間をとって150人)である」には、多くの人が経験的には非常に頷けるものと思います。多くの経営者が自身の経験からも内部コミュニケーションからみたマネジメントの適正規模は200人ぐらいまでであろう、といいます。次に生態学的集団に関し、狩猟民は30-50人の生態学的集団を形成し、(5-10人の)複数のグループに分かれて狩猟に出るそうです。チンパンジーの場合にも、群れは数十頭ですが、行動(遊動)する単位は五頭ぐらいのパーティーに分かれて。この五頭ぐらいのパーティーは定期ローテーションでメンバー入れ替えと離合集散を繰り返す、ということでした。チンパンジーが形成する群れの規模(数十頭)というのは、上述陸軍の小隊(30-40人)と似通った規模です。群れが分かれて行動する行動単位のパーティー(五頭ぐらい)というのは、上述陸軍の分隊(6-10人)と似たような規模です。筆者/青草新吾は、多くの日本企業のパワーの源泉の一つが小集団パワーにあると考えていますが、小集団でベストの規模は5-6人だと思います。日本で盛んなQCサークルやプロジェクトチームなどは5-7人がベストであるというのが定説です。トヨタ生産方式の大野耐一氏は著書*2で「離れ小島(一人だけの仕事)を作るな。5−6人集めてチームワークが発揮できるように・・」と小集団化の効用(多能工化と少人化)について述べておられます。
組織の目標実現に向けての有機的な集団ベクトルが、無機的な組織図(資源配分上の適正規模や責任と権限など)と重なり合うところで組織生産性が最高に発揮されます。企業の組織生産性に多大な影響を及ぼす組織デザインにあたっては、無機質なハコとハコ同士の繋ぎ方としての組織図を工夫することに加えて、有機的な協働や知識共創の熱き人間集団の集団ベクトルとしての組織を工夫すること、この両方の工夫が重要です。無機質なハコから人間的要素も加味するアプローチで参考になるのが113や120で前述の沼上幹氏で、反対に人間的要素から組織論へのアプローチを試みているのが神戸大学経営学部教授/金井嘉宏(かないとしひろ)氏の著書*3です。思考を整理するうえでの組織形態の基本型は職能別組織と事業部制組織の両極モデルです。そして現実には、職能別組織か事業部制組織のどちらかに軸足をおいた上での中間形態が多く存在しています。
自営の一人組織から数名の従業員を使うようになると経営者と従業員の垂直分業と機能分業、従業員同士の並行分業が行われるようになり、職能別組織(functional organization/最近は機能別組織と訳す人も多い)が誕生します。機能別分業には規模の経済(economic of scale)が働きますから、組織が次第に大きくなり、分業規模が拡大することで生産性も高まっていきます。生産性は、機能分業としての最適規模と、人間集団としての最適規模が重なるところで最高となります。集団の規模が大きくなりすぎてマネジメント限界を超えてしまうと、上に凸の放物線や正規分布曲線のように生産性の悪化が始まります。費用はこの逆で、限界点を超えると、下に凸の懸垂曲線や生産性理論の短期平均費用曲線のように費用の増加が始まります。マネジメントの限界とは、集団規模が大きくなりすぎることでコミュニケーションと意思決定が複雑化し過ぎることでもたらされます。
組織の規模拡大が持続する場合は、生物が細胞分裂しながら成長するように、全社レベルの分業単位の分割が行われます。マネジメントの限界を超えないための予防です。事業要素(製品・顧客・営業形態・地域)が多角化していない場合には職能別組織でそのまま規模拡大へと邁進する企業も多々ありますし、事業要素が多角化しているあるいはいこうとしている場合には、多くの企業がこのタイミングで事業部制を導入して組織形態を変更した上で規模拡大へ邁進します。ここで大切なのは職能別組織か事業部制組織かという組織形態の選択は事業の多角化の度合いによって選択されるのであって、企業規模によるものでではない、ということです。
トヨタ自動車は意思決定を早めるために軸足を職能別組織においているそうです。職能別組織とは、経営トップの直下では機能別のフラットな組織であり、経営トップへの集権的な組織といえます。企業規模が巨大であっても事業(製品・顧客・営業形態)の範囲が狭くて同質性が高い場合には職能別組織がベターということでしょう。試しにトヨタ自動車の最近の発表(役員人事及び組織改正)をみても住宅事業などを除けば、組織名称は部や室ばかりです。それにしてもトヨタの部や室はとても大きな集団だと今更ながら感じ入りました。反対に企業規模が小さくとも事業要素(製品・顧客・地域、営業形態)が異質な事業を複数抱えて多角化の度合いが高い場合には、トップからは分権的な事業部制組織がベターです。但し、事業部長の機能(役割)をこなせる人材やチームを欠いたままでの事業部制導入は危険です。数年前までに国内で流行したカンパニー制とは、海外では事業部制そのものに他なりません。それまでがあまりにも中途半端な事業部制だったためか、カンパニー制(=本来の意味の事業部)という造語を用いてそれまでとの質的な違いを強調している、ということのようです。また販売組織のみで経営諸機能もないような単なる営業部を事業部と命名する企業もありますが、これは単なるネーミングであって事業部制とは別物です。機能分業と職務別組織、事業部組織については後日に再度詳述します。
筆者/青草新吾の本年2007年最期の寄稿は、7月にスタートした生産財営業のE(環境)シリーズで少資源や少エネルギーを記述する傍らで、人間集団のエネルギーとの関わりで組織論を記述してきました。2008年の年初再開は、本稿抄録を経て、再び組織論に戻って再開します。生産財に係るビジネス情報に関しては、以下でエネルギー節約に繋がるLED(発光デバイス)に関する下術をもって2007年度の寄稿の最終稿とさせて頂きます。