151-1/2. 石油ピークアウトとCO2排出問題その1
日本のエネルギー消費の20%弱が運輸部門で、乗用車と貨物等が半々です。産業用で省エネ化が進められたのとは対照的に、運輸部門や民生部門のウエイトが高まり続けています。
究極の温暖化対策とは「石油を使わないこと」です。次善の策は「石油消費量を減らすこと」です。石油消費量を減らす上では、乗用車や貨物輸送といった運輸部門の石油消費を削減していくことが最重要の施策となります。
エコに優しいクルマについて、日産自動車のCVE(チーフ・ヴィークル・エンジニア)の水野和敏氏は著書*1で「台数を減らすことで工場の排気を含めあらゆるものからの二酸化炭素の排出削減ができる。もちろん人は余る。しかし、その人たちは、技術指導員としてディーラーで、あるいは、中国やアフリカに技術指導員を派遣し、メインテナンス技術のレベルアップを図るということも可能だろう。それが結果的に1台のクルマを長く乗ることにつながっていく。製造そのものに従来以上の資源消費を伴うハイブリッドカーや電気自動車だけでなく、大多数を占める普通のクルマに、日本人が古来より大事にしてきた“ものを丹精込めてつくり、何代にもわたって大切に使う”という思いを投影することを忘れてはならない。極端なことをいえばハイブリッドもモーターも搭載していない、そんな当たり前のものを当たり前に使うという中で、クルマ自体の寿命を従来比で4年延ばす。クルマの寿命を4年延ばすことは、現在の技術とサービス体制をもってすれば可能だ。収益構造も成り立つと思う。販売台数は半減するものの利益は上がりメーカーの収益は一定する。実はここに社会構造を変える答えがある。・・・・3年経って新しい機能がついたから買い換える、ではなく、保証期間をたとえば6年に延ばし、中の旧くなったユニットや回路だけを換えるように最初からつくればいいのである。コンデンサーがひとつ壊れたからといって、200千円のテレビを捨てることはないのだ。」と述べておられました。マツダは30年前から水素自動車を研究していますが、最近では水素ハイブリッド車を発表していました。日経新聞2009年5月27日付は「マツダは26日、独自開発の水素ハイブリッド車“プレマシー・ハイブリッドロジェンREハイブリッド”の第1号車両を岩谷産業に納車したと発表した。月間420千円でリース契約した。水素とガソリンを燃料に使うマツダ独自のハイブリッド方式を採用。運転手はボタン一つで燃料を切り替えられる。同社は独自に開発したロータリーエンジンを活用して水素ハイブリッド車を開発してきた。ガソリン走行時もエンジンは発電用だけに使い、モーターで車輪を回して走行する。」と報道していました。環境に優しいエコカーについては、幾つかのアプローチがありますが、以下、ハイブリッド車について記載します。
トヨタとホンダのハイブリッド車に対する戦略の違いに関し日経ものづくり2009年2月号は「トヨタ自動車は“モータ重視”、ホンダは“エンジン重視”と、両社のハイブリッドシステムの戦略は分かれていたが、新型車の登場で、その違いはますます鮮明になった。単純にモータ出力をエンジン出力で割って“電気率”を計算すると、トヨタのPrius(プリウス)が71%から82%に上がり、Insight(インサイト)は22%から16%に下がった。トヨタのPriusではエンジン出力を従来の56kWから73kWに、モータ出力を同じく40kWから60kWに引き上げた。これに対してホンダのインサイトでは、従来のCivic Hybridと比べて、エンジン出力は67kWから63kWに、モータ出力は15kWから10kWに下げている。・・・・・ハイブリッド車はアイドリング・ストップをしてこそ低燃費という特徴を出せる。ところが暖気運転中はアイドリング・ストップができず、冬には燃費が悪化する。これを解決するため、エンジン冷却水を排ガスで温めるのが排熱回収システムだ。トヨタ自動車のすべてのハイブリッド車に共通した装備になりそうだ。・・・空調では“エジェクタサイクル”を採用した。デンソーが以前から開発し、エコキュートやランドクルーザーの一部に採用している技術と考えられる。」と報道していました。トヨタは自動車に加えてフォークリフトでもハイブリッド型の市場投入を開始するそうです。日経新聞2009年4月18日付は「豊田自動織機はニッケル水素電池とエンジンを動力源として併用したハイブリッドフォークリフトを2009年度中にも発売する。減速時のエネルギーを電気に変換して充電し、エンジン駆動でリフトを上げたり加速する際に補助エネルギーとして放電する。燃費を一般的なエンジン式フォークリフトに比べほぼ半減させた。ハイブリッド式のフォークリフトはコマツ子会社のコマツユーティリティがキャパシタと鉛電池を併用したタイプを07年に発売、豊田自動織機は鉛電池より蓄電量が7割大きいニッケル水素電池を使い、競争激化に対抗する。」と報道していました。
中国でも中国メーカーがハイブリッド車の市場投入を開始しています。中国政府が13都市を対象にEVやHEVの車両購入時に助成金を出す“十城千輌プロジェクト”について153[2009.3]に記載しましたが、半導体産業新聞2009年5月20日付は「深圳(Shenzhen)のBYD(比亜迪)は、米国の著名な投資家ウォーレン・パフェット氏が08年9月にBYDに18億香港ドル(約247億円)を投資して新株の10%を取得したことで一躍脚光を集めるようになった。BYDは09年1月、米デトロイトの北米国際自動車ショーで、家庭用コンセントから充電できるプラグイン式ハイブリッド車とEVを出展した。電池メーカーでもある同社の電池は、正極材料に安価な鉄とリンからなるオリビン構造のオリビン鉄系Li(LiFePO4)が特徴といわれる。BYDのHEV(商品名がF3DM)は、すでに法人向け販売を開始し、09年内に一般販売も始める。EVの“e6”はまず政府公用車として販売することが決まり、09年中期までに2000台規模の量産体制を敷く。安徽省の自動車メーカーのチェリー(奇瑞汽車)は2月、プラグイン式EV(商品名S18)の生産を開始すると発表した。」そうです。
半導体産業新聞2008年8月27日付はハイブリッド車に関し「2009年度はハイブリッド車が世界的に大ブレークする気配だ。先行するトヨタは、日本国内では2010年代のできるだけ早い時期に年間1百万台の販売実現を狙う。09年度発売予定の三代目プリウスでは太陽電池も搭載され、京セラから調達することも考えられる。DC-DCコンバータは豊田自動織機の受注が濃厚だ。その背景にあるのが内製半導体の存在で、部品点数を徹底的に削減できる。」と、また07年9月の105で前述した三菱自動車・三菱商事・GSユアサによる車載用リチウムイオン電池の製造合弁事業に関し「ジーエス・ユアサ パワーサプライ、三菱商事、三菱自動車の三社出資で設立されたリチウムエナジージャパンは、滋賀県草津市内で用地を確保し、量産ラインの整備を開始した。09年度初頭からセル容量50AhのLEV50を年産200千セル(電気自動車2千台相当)を生産する。セル容量50Ahのような大容量リチウムイオン電池は競合メーカーが少ないことから、自動車や一般産業向けで国内外からの引き合いが活発なため、量産開始後早期に五倍程度まで生産能力を引き上げる」と報道していました。
燃費規制に関し、CAFÉ(企業平均燃費規制)の規制強化に関し電波新聞2008年1月23日付は「07年12月半ばにブッシュ大統領の署名で成立した。自動車や軽トラックの燃費を2020年までに1ガロン(3.765リットル)当り35マイル(1リットル当りでは14.9キロメートル)とするもの。1975年にCAFÉが規定されて以来、30年ぶりの基準引き上げとなる。トヨタのプリウスHEVの最新型は、市内と高速道路走行の組合せで、EPA(米国環境保護庁)の予想では1ガロン当り46マイルという燃費を実現。トヨタは、プリウス、カムリ、ハイランダーのサブブランドで、3種類のHEVを展開している。世界初のハイブリッド車、プリウスHEVを97年に発表して以来、同社の累計販売台数は1百万台を突破した。」と報道していました。
ハイブリッド車の第40回東京モーターショー2007への出展に関しレアメタル・ニュース2007年11月1日付が「トヨタ自動車は2003年にプリウス?で投入されたトヨタハイブリッドシステム(THS?)を大型車のLS600hとLS600hLに適用。エンジンの動力分割で走行と充電を同時に行うシリーズ・パラレルハイブリッド技術で開発を進めている。プリウス?以降は、パワーコントロールユニット(PCU)内に、直流を交流に変換してモータを駆動するインバータの他に、電圧を高める昇圧コンバータが加わった。ニッケル水素(Ni-MH)電池システムからの288Vを小型のプリウス?では500Vだったが、大型のLS600hでは600Vまで高めることで、電機式無段変速機と一体化したモータは、165kWの高出力を実現した。このLS600HとLS600HLのPCUは、スイッチング素子でSiCのパワー半導体が採用され、初めてトヨタの内製でないデンソー製のPCUが搭載された。本田技研工業では、ハイブリッドシステムはあくまでも減速時に生じる摩擦力を利用するための搭載で、エンジン主でモーター補助を使用するマイルドハイブリッドとよばれるパラレルハイブリッド方式を採用してきている。マツダは、水素とガソリンをともに使用できるプレマシーハイドロジェREハイブリッドを展示した。シリーズ式のハイブリッドシステムを搭載しており、2008年のリース販売を目指している。バッテリーは、後部座席の下に設置。円筒形リチウムイオン電池(LIB)を直列でつないで346Vまで高めており、今後はラミネート型の搭載も検討している。トラックでは、日野自動車がパラレル式ハイブリッドシステムでニッケル水素電池(6.5Ah,288V)を搭載した日野デュトロハイブリッドを、いすゞがいすゞ独自のPTO(パワー・テイク・オフ)型パラレル駆動方式の採用で万一システムに異常が発生してもディーゼルエンジンのみの走行が可能でリチウムイオン電池(日立製)を搭載したエルフディーゼルハイブリッドを展示した。」とまとめてくれていました。
ハイブリッド車向け関連部品の需要規模に関し、半導体産業新聞2008年3月19日付は野村総合研究所の予測を「06年のハイブリッド車販売台数は約389千台で7割弱が米国での販売。10年には1.4百万台と1百万台の大台を突破し、12年のCO2排出規制の実施でコンパクトなハイブリッドシステムであるマイクロハイブリッドシステムを中心に市場が拡大する。ハイブリッド車向け関連部品(電気モーター、インバーター、電池など)の市場は、06年の実績である14百億円から、10年には33百億円へと約2.5倍増加する。また15年には95百億円にまで拡大する。」と紹介していました。
*1:「プロジェクトGT-R」水野和敏著 ISBN:9784575301076