青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

生産財営業でイノベーション共創と社会貢献を目指す。

150-2/2. 排出権という名の金融商品/ 国民負担の環境コスト

京都議定書で日本がはまったワナとは「最大排出国以下の上位5ヶ国の中で日本一国のみが数兆円ものペナルティを払わされ、日本が払うペナルティの還流先は、削減義務を負わない中国や、削減義務ゼロのロシアや旧東欧諸国」という図式です。

そもそも日本は、GDP当りの排出量については最少排出国くであり、一人当たりでみてもEU25ヵ国並み英国同じ約10トン米国の20トンからは半分です。その5%排出国日本が、世界のペナルティ(排出権購入)の20-30%も負担させられるのは明らかに異常な事態です。排出権取引という新手の金融商品の網にかかった獲物になってしまっています。
京都議定書では、2割排出国で最大排出国の米国中国を初め、排出量7割を占める国々が不参加ですから、5%排出国の日本一国だけの苦行では、効果知れたものです。2005年米国の呼びかけで始まったAPP(クリーン開発と機構に関するアジア太平洋パートナーシップ)にはなど二酸化炭素排出量で世界5割強を占める7カ国で、発電鉄鋼などの8分野の専門家がセクター毎省エネ・環境対策を進めているそうです。EUが世界標準を狙う会議よりもこちらの方が、最大排出国の米国と中国が参加しているだけ、実際的で効果が期待できそうな気もします。そもそも京都議定書削減義務国民負担そのものがアンフェアで衡平を欠いています。例えば鉄鋼製品の場合には、世界最大のアルセロール・ミタルの場合、規制対象欧州工場3割のみ、全体の6割規制対象外です。新日鉄JFEスチールと同規模の韓国のPOSCOも中国の宝山も全てが規制対象外です。世界の大手メーカーで京都議定書の排出規制を全面的に受けるのは、日本メーカー欧州メーカーのみが厳しい規制を受けてコストを負担しています。激しいグローバル競争の中でこれだけのハンディを背負わされれば「温暖化対策コストが上昇すれば、“最も効率的な日本での生産”を諦めて、伯国(ブラジル)泰国(タイ)への日本からの移転を検討せざるをえない」というのも当然です。
2005年度の統計だと、世界の二酸化炭素排出量は271億トンで、最大排出国の米国60億トン(21.4%)、2位の中国51億トン(18.8%)、3位のロシア15億トン(5.7%)、4位の日本12億トン(4.5%)、5位のインド11億トン(4.2%)。上位5ヶ国合計149億トンで、世界の55%を占めています。そして上位5ヶ国の中で削減義務を負っているのは日本一国のみです。米国は早々に離脱し、削減義務を負わない中国削減義務ゼロのロシアは、京都議定書排出権という金融商品売る権利獲得し、日本は買う義務を負わされました。かってロシアのプーチン大統領は“ロシアにとって京都議定書とは、経済問題であって地球環境問題ではない。ロシア人にとって温暖化プラスだ。コートも買わなくてよくなるから節約もできるようになる。”と正直に語ったそうです。今も旧東欧の某国は、排出権という名の金融利権国富を獲得する戦略に熱心で、いかに“日本や米国に重い削減義務”を負わせて自国が獲得する排出権を買い取らせるか研究しているといいます。老獪な中国は2009年6月9日に麻生首相が発表した“2005年比15%削減(1990年比8%削減)”に対して“少なすぎる!”と非難しています。中国にしてみれば“日本は排出権でカネをむしりとれる美味しいカモ”そのものです。米国金融界が生み出した住宅向けのサブプライムは破綻しましたが、英国欧州の金融界が生み出した排出権という金融商品はかってのサブプライムのように勢いを増しています。
排出権取引で最大の受益者中国既に10兆円規模売却益を享受しています。中国の排出権の多くは158で前述通り、京都議定書とは無関係に建設された水力発電に由来します。中国は、京都議定書で削減義務が無いばかりか、同時に途上国として排出権獲得したことで、欧州や日本から、資金をむしりとれるわけですから、京都議定書が生み出した排出権取引の利益享受者です。日本国民日本企業は中国への負担者(利益拠出者)です。英国などEU諸国の企業が中国などで排出権を買い漁っているのは、多くが日本企業へ転売狙いといいます。東洋経済2008年7月12日付で「欧州企業の排出権購入の狙いは排出権を大量に欲しい日本に転売すること。われわれはむしりとられているようなものだ。・・・世界の排出権6割中国からで、07年10月までのCDM案件は885件、累計15億トン、中国の売却額は概算5兆円。」との記事が掲載されていました。同誌は「カモられる日本英国中国虎視眈々。中国はしたたかだ。中国はCDMプロジェクトへの51%以上の外資の出資は認めない。実際は15%程度でも認めないので、事実上、プロジェクトへの共同出資はできない。先進国はプロジェクトを整備するコストを負担した上で、さらにカネを払うことで排出権購入をする。しかも排出権の価格は中国政府が管理している。」と伝えていました。
世界銀行の発表では、2005年1月から2006年3月取引量4.5億トン約4割日本による購入です。バルセロナで開かれた排出量取引の見本市“カーボンエキスポ”で世界銀行が直近の2008年度取引実績を明らかにしたそうです。日経新聞2009年6月1日付が伝えるところでは、2008年の世界の排出量取引07年比倍増約12兆円(1,260億ドル)ですから、筆者試算で30-40億トンです。これに加えて京都議定書の約束期間が終わる12年までの需要に対して約16億トンが買い残されているそうで、しかも主要な需要国となる日本は、必要な約8億トンに対してまだ約4億トン(筆者試算:1.6-2.0兆円)を買い残しているそうです。12年までに世界で供給される排出枠は約14億トンしかないので、2億トン不足するということで、京都議定書の排出枠が余っているロシアなどが売却すれば充当できる・・・ということですが、日本国民を貧しくすることにおいては環境省外務省社会保険庁並みといえます。経済ジャーナリストの石井孝明氏によると、1997年京都会議(COP3)では、日本政府は、国民負担への事前の検証作業などが不十分なままで、会議に臨み、1997年9月24日深夜赤坂全日空ホテル一室わずか10名ほど高級官僚数名の政治家の会合で戦後外交で最大の失敗といわれる不平等条約受入が決まったそうです。104[2007.8]で小笠原泰氏が「1997年の京都会議で、共同宣言採択という手段に固執して目的が曖昧だった日本政府の姿勢は、“議長国ならば共同宣言を採択しない選択肢もある”と考える米国人からは明らかな本末転倒に映ったかもしれない・・」を紹介しましたが、全体最適を考えない日本的思考方法の弱点への予防処置が望まれます。
別冊宝島*1によると「きちんとした目的で税金が使われていれば誰も文句は言わないだろう。汗水たらさず国民から税金という名目で集めたお金を、“環境問題を道具”にして無駄使いしたり、税金からお金を吸い上げている人たち”がいることが許されないことなのだ。国が環境問題に関して出している予算がざっと地球温暖化1兆円リサイクル5千億円といわれている。国民一人当たり15千円である。15千円の負担で地球環境がよくなるからと国民の善意で支払われた巨額の税金が、ごく少数の天下り官僚流れている実態こそ問題視すべきである。役人お金の流れを作り出して莫大な報酬を得るために利用する天下りとは、NPO、環境問題で利益を得る民間企業横文字が並ぶ行政法地方自治の4つの組織である。これらの組織に環境を利権化することに成功した“膨大な報酬を得る天下り官僚”が潜んでいる。大手スーパーのライフコーポレーションが、日本容器包装リサイクル協会約6.16億円損害賠償を求める訴訟を起こしたのがその一例である。必要性に疑問を感じる団体が多く設立されていることが判る。」ということだそうです。
世界的なベストセラー「環境問題をあおってはいけない」の著者でコペンハーゲンビジネススクールロンボルグ氏は「今の地球温暖化対策間違いだらけだ。環境問題が悪い情報ばかり誇張され悪い政策判断をもたらしている。例えば熱波による死者が増えるというが、圧倒的に多い寒波による死者も減るので、温暖化によって差引きでは死者は減る。・・・目先のCO2削減のような殆ど効果のないことカネをかけすぎている。2020年という遠い未来よりも各国が毎年成果を点検できるような目標にすべき。そうすれば、コペンハーゲン議定書カネを食うだけ新たな失敗にならずに済む。」と述べておられます。
日本鉄鋼連盟専務理事の市川祐三氏は「日本の鉄鋼製品メーカーは世界一のエネルギー効率実現している。それら鉄鋼製品などの製造業を、日本から途上国に追い出してまで排出権取引進める意味があるのか?新しい商品が欲しい金融業界はそれでいいのかもしれないが。」と述べておられます。
政治家環境省外務省の役人がいい格好をしたり省益拡大を進めるため、金融業界マネーゲームのネタ(金融商品)を獲得するため、マスメディア視聴率稼ぎのネタにするだけ、のために、日本国民財布代わりにされ、世界最高の競争力がある日本メーカー国内生産を規制対象外の途上国に移す炭素リンケージで、国内で十分に競争力があったはずの雇用までもが、失われていくというのも困ったものです。筆者/青草新吾は、日本は普通のドルパワーを目指すぐらいが良いと考えます。“日本は環境大国として世界のリーダーシップをとる”などと、気負わないほうが安全だと思います。今の日本の政治役人システムそしてメディア品質の悪さから見る限り、今の日本では力量不足です。科学を装った政治のパワーゲームの場では、普通のミドルパワーの民主国家として振舞うのが相応しいと考えます。世界経済は、スパイラル進化で、日本が太平洋戦争に追い込まれていった状況に似てきていますから、なおのこと用心が必要です。5%排出国の日本でどれほど排出削減を進めようが世界全体からはあまり効果がありません。日本を無茶な削減率に追い込んで、国富や雇用を流出させるよりは、世界全体で大きな効果を期待できる“技術輸出で途上国のエネルギー効率改善に貢献する”ことに重点をおくべきだと考えます。次頁では、“石油と国益”、“石油と戦争”、“地球温暖化問題とは実は石油問題である”について論考します。

*1:「温暖化を食いものにする人々」 ISBN:9784796661812