青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

生産財の青草新吾1はリタイア。シニアの青草新吾2は複業で貢献を目指す。

171.ものづくり競争力で日本企業の強み

日本企業の全球化に関し、中国生産は地産地消対応が主となり、輸出拠点としてはタイやベトナムなどのアセアン諸国とインドやブラジルのウエイトが高まっていきそうです。国内の雇用拡大は政府の仕事ですが、手腕を欠いた政治家と朝日新聞NHK国益毀損の捏造報道がリコールもされずに放置される国益軽視社会では、後回しにされていく課題なのかもしれません。

筆者/青草新吾は、滞在するバンコク(曼谷)のホテルで、生産財ビジネスの趨勢がこれからどう発達していくか?を考察しています。慶応大学講師の竹田恒泰氏によると、青森県大平山元(おおだいやまもと)遺跡で出土された土器に付着したサンゴの分析で約1万7千年前に使用されたものと分かり、この日本列島では、世界四大文明の成立以前に文明が興っていたことも分かったという事実、外国から料理を採り入れて見事な料理に進化させる日本人の特質、弥生語から古代日本語を経て現代の日本語に至るまで連綿と保守のための革新を繰り返しながら発達を続けてきた日本語ですが、約2千年にも遡って文書類を読める文化を保守してこれたという事実、100[2007.7]で前述しましたが支那の漢から輸入された原始状態の漢字から日本独自の平仮名片仮名、と漢字仮名混じり文を発明し、自然などの和製漢字(国字)が発明され、中華民国以降の中国に逆輸出され、多くの現代中国語となっていること、148[2008.12]で前述した儒教などでも、血縁エゴイズムの元凶になり易い公を無視した原始状態の“中華儒教”や“半島儒教”を、を重んじる武士道商人道などの“道”に馴染ませた日本儒教に高めた事実・・・等々からは、脈々と革新することで保守されてきた日本文化と今の日本文明は、工業農業などのものづくりに向いており、輸出国外生産をもっと増やすことが、日本に富をもたらす方向性であろうことはほぼ間違いなかろうと考えます。・・・・全球化が進む中で、個々の企業は、地方の事業所から国外の事業所へとグローカルに事業活動を広げていきます。その場合に、国外に切り出していく事業と、国内に残す事業の仕分けは、政治動向に大きく左右されます。今の日本のような手腕なき政治屋と恣意的な情報操作目的の官僚と癒着したメディア報道では、本来は国内でも十分にやっていける事業までもが、国内事業に悲観して国外に出ていくことになります。手腕なき政治屋や情報操作目的の役人と癒着したメディアの罪は大きいといえます。
07年のサブプライム危機から08年のリーマンショックを経ての世界金融危機を経て、米国と欧州諸国の多くが「やはり実体経済を強化しよう。製造業を再興しよう」との政策を強化しています。筆者/青草新吾は、健全な流れと理解します。金融実体経済の黒子で価値を生むものであって、実体経済の裏づけなき金融業など虚業マネーゲームでしかありません。製造業や農業などで新たな実体価値が創造されることで実体経済が豊かになり、実体経済乗数効果周辺のサービス産業も栄えます。・・・・まずはマクロな統計を見てみましょう。日本の製造業各社が売上、生産、投資を増やしている国と地域について、日経ものづくり2010年7月号は「( 統計的に日本企業の市場として ) 売上が伸びている国・地域は、中国インド(印国)、ブラジル(伯国)、インドネシア(尼国)、タイ(泰国)の5カ国。・・・・( これらの国・地域への供給基地として ) 今現在の進行形で生産拡大を進めている国と地域では、中国(85.2%)、泰国(27.9%)、印国(20.1%)、越国(ベトナム8.3%)、台湾(7.4%)、伯国(6.1%)、馬国(マレーシア4.4%)、比国(フィリピン3.9%)、その他(3.9%)。(輸出基地としては)日本のものづくりに慣れた泰国事業所の生産を拡大する企業が多い。これらの国で増産しているのは最終製品が55%で最も多く、続いてユニット/モジュール製品が34.5%樹脂成形品17.0%金属・金型部品が14.0%。・・・・今後5年間設備投資に最も力を入れる国と地域に対する回答では、中国(52.8%)、日本(31.2%)、印国(27.3%)、越国(14.5%)、泰国(13.2%)、伯国(10.5%)、尼国(9.6%)、北米(5.5%)、馬国(5.5%)、(4.8%)、台湾(4.2%)、南ア(3.6%)、欧州(3.1%)、比国(2.3%)、カンボジア(1.3%)。地産地消以上の輸出拠点として設備投資を集めていくのは、越国(14.5%)と泰国(13.2%)など。」と調査結果をレポートしていました。
ものづくり競争力に関し、東大教授でものづくり経営研究センター長の藤本隆宏氏が2010年1月4日付鉄鋼新聞で実に判り易い説明をしてくれています。藤本教授は「日本企業の強みは、インテグラル型(擦り合わせ型)のアーキテクチュア(設計思想)を持つ製品群にある。」とし、成功事例では「“設備の新しさより、レシピの出来”が勝負を分ける。鉄鋼製品でいえば造船向け自動車向け鋼材では、転炉鍋に入って成分調整される段階から“これは某社の某製品の特定場所に使われるもの”というように総合的に一貫管理される。上工程から下工程まで製品ごとにきめ細かい連携制御をやらないと、ねらったスペックがでない。チーム設計チーム生産の力で対処する。・・・ハイテクとかローテクはあまり関係ない。中国の高級ホテル高級便器ではTOTOなどのシェアが圧倒的だが、一つには水の制約が大きな中国で“日本の節水技術”が評価された結果だ。“ハイテクではないが、難しい設計”である。」と。逆の失敗事例では「今から30年前、私は民間シンクタンクの調査員として韓国に滞在し鉄鋼業を調査した。“日本と同様の設備を入れたにもかかわらず、なんで日本と同じ高級鋼がうまく作れないのか”というレポートが韓国の研究機関から出ていた。韓国側の誤算は、2期以降、日本を超える最新鋭設備を世界中から導入した結果、かえって高級鋼に必要な“一貫製品管理が難しくなった”点にある。 」と当時の韓国鉄鋼業の失敗事例を紹介しておられます。一方で最近のアップルのiPod韓国企業の強さについては「資金を集中的に投入し、大型設備をドーンと導入して一気に形勢をひっくり返す。例えばメモリー半導体、液晶、汎用的な鉄鋼製品など。韓国のサムスン、LG、現代自動車ポスコなどの強さは“勝てると思ったときに攻め込む集中力、度胸、戦略判断、スピード決断、オーナー型経営者の圧倒的なリーダーシップ”だが、この主の強みは、“資本集約的モジュラー型産業”でこそ発揮される。・・・良い設備を集めれば良い製品ができるのはモジュラー型工程の製品汎用鋼はその典型。個々の工程にベストの設備を導入すれば、ベストの製品ができやすい。デジタル製品もその例で、日本企業がipodで負けたのもそう考えれば当然で、ハイテク部品の寄せ集めでハイテク製品ができる。この領域では“日本の現場の調整力”は生きない。 」と説明してくれています。日本企業の今後の展開については“産業内貿易の維持拡大”を推奨しておられ「一部の機能性化学品世界の7割以上を日本企業が占めている。そういう競争力のある品目を集計すると、日本には昨年まで長い間、10兆円くらいの貿易黒字があった。今の趨勢は産業内貿易である。例えば同じ自動車鋼板でも、インナーパネルとアウターパネルでは貿易の流れが逆である。内板に使う通常の冷延鋼板は韓国材を中心に日本の輸入が増えているが、自動車の外販に使われる溶融亜鉛めっき鋼板等の一部は、韓国自動車メーカーが今も日本材を輸入している。同じ繊維産業でも“ジーンズ生地”では某日本企業の生地が米国に大量に輸出されている。弱いといわれる産業の中にも強い企業や現場がある。・・・・日本の産業としてどの現場が残り得るかは、既存の標準産業分類で紋切り型に語れるものではない。日本に“良い現場”を残すためには、長期的視点で、現場・現物を虚心坦懐に評価する必要がある。 」と総括した上で、必要以上海外移転雇用喪失について「日本の経営者が、周りの雰囲気に押し流され、パニック的に雪崩をうって、過剰な海外移転に次々とかじを切る動きが強まらなければよいが、と憂慮している。いまだ復元力を持つ国内現場まで短期判断で閉鎖され、海外に過剰移転されてしまう恐れもあり、心配している。トヨタ生産方式を取り入れることで生産性5年間で5倍になった国内の生産ラインもある。マザー工場日本に残してあると説明する企業もあるが、マザー工場とは“自ら戦うトーナメントプロ”でないと駄目で、レッスンプロでは長続きしない。ものづくりの実戦で戦っていない現場生き残れない。」と過剰な海外移転を憂慮しておられます。
日本鉄鋼協会の会長で住友金属工業の社長である友野宏氏は、日本の鉄鋼製品メーカーの競争力について「中国などの新興の鉄鋼メーカー(新興ミル)との違いは“経験の差”に起因する“ものづくり力”の差であって、製鉄設備開発や改良、使いこなして製品を造りこむ力は日本に一日の長がある。しかし優位にあるいう認識は危険だ。・・・次世代を担う若手層のパッションを刺激する場を企業も大学もできる限り多く容易しなければいけない。」といいます。同氏は鉄鋼新聞2010年3月9日付で「 設備・操業技術に加えて、金属元素をうまく組み合わせて材料の中に眠っている特性を引き出すメタラジー冶金学や、品質の高度化も日本の得意分野。・・・戦争で壊滅的な打撃を受けた日本鉄鋼業には“人と技術以外には何もないに等しかった”が、戦後に“平炉から転炉に”、“増塊・分塊法から連続鋳造法へ”と革命的な変化を“独自の技術開発”で乗り越えてきた。韓国中国インドなどの新興ミル最新鋭設備を立ち上げているが、使いこなすには時間が必要だろう。・・・しかるに日本鉄鋼業が優位にあるという認識は危険だ。鉄鋼技術は“学問的な裏づけ”と“現場の経験的な直感”が、どちらが先ともなくせめぎ合い発展していく。産学が、プラットフォームを経由して情報共有などを深める仕組みづくりには長期の視点が欠かせない。長期的な視座に踏みとどまり次世代を切り開く種をまく必要がある。 」と述べておられました。
材料ガス国内シェア30%エア・ウォーター執行役員で情報電子材料事業部長/丸山謙作氏は半導体産業新聞2009年4月22日で「半導体や液晶などの材料ガスは、プロセスが難しくて要求品質も高い。米国のメーカーならやらないだろう。エッチングガスでいえば、本家本元の米国メーカーが止めてしまったのに、日本はひたすら続けてきた。ある意味で、日本という国は“止めないカルチャー”なのだ。生産の合理性よりも、“ものづくりにかける執念”が上回る。」と述べておられました。日本の電子部品メーカーの競争力についてアルプス電気の片岡政隆社長は電波新聞2009年1月19日付で「日本の電子部品産業強い理由は、専門メーカーたくさんあるからだと言い続けてきました。海外の人は、M&Aで統合すればもっと強くなると考えていたでしょうし、日本でも合併などでより大きくなれば、効率がよくなり、もっと強くなると多くの人が考えていました。・・・アルプス電気の場合、七つほどの事業部それぞれが持っていた金型工場をある時期に集約しました。一ヵ所に集めればまとめれば、次々とアイデアが出てくると考えたからです。しかし、現実には必ずしもそうはなっていません。やはり、お互いが競争することで、アグレッシブさが生まれ、アイデアが生まれるということもあるのだと思います。この事例は日本の電子部品産業そのものの縮図ではないかと思っています。」と述べておられました。日本のものづくりの強さについて、コマツの社長兼CEOの野路國夫氏は日経ものづくり2008年10月号で「“擦り合わせの技術”が必要な業界では、結果的に日本ドイツの元気がいい。鋼板熱処理射出成型高品質の溶接用ワイヤ自動溶接ロボット・・・こういうものがすべてそろっているのは日本とドイツぐらいでしょう。だからエンジン油圧装置など“主要コンポーネントの開発”は日本じゃないとできない。・・・金融工学ITも、根本は数学の世界だと思うんですが、私はどうも日本人はそこが弱いのではないかと感じてます。現実を見れば、日本人はやはり、ものづくりが上手なのだと思う。ITそのもので弱い日本人であっても、日本の製造業はITを使いこなすのは上手です。・・・・例えば、建設機械にGPS端末やセンサなどを載せることで、機械の稼働状況を常に把握する仕組みなどがあります。・・・・基本的には長い時間をかけ地道にやる業界です。歯車の油膜についての研究だって、今もずっと続けている。一つのことしつこくです。」と述べておられました。
ICT(情報通信技術)産業日本企業競争力がない理由に関し電波新聞2008年7月30日付でトヨタIT開発センター最高顧問の内海善雄氏は「日本のICT企業の技術が世界から遅れているということではなくて、世界市場への取り組みという“経営の問題”です。電気通信にかかわる三つの大きな“パラダイムシフトに的確に対応できなかった”ためだと考えております。一つは“グローバル戦略が欠如”していたことです。世界より10年早く自由化されたのに国内競争だけで精力を使ってマーケットのグローバル化にうまく対応できなかった。二つ目のパラダイムシフトは“IP化”です。交換機に代わりルーターが使われるようになった。いち早くルーターで売り込んだシスコシステムズは、たった10年でNECシーメンスに匹敵する企業に育ってしまいました。三つ目は“固定から携帯への移行”です。世界中がまず使うようになったのは“単に電話ができるだけの携帯”です。日本が高機能の開発に躍起になっている間に、ノキアは膨大な規模の途上国の需要も獲得して規模を拡大しました。この差が大きい。」と、また海外企業のものづくりとの比較に関し富士通顧問の秋草直之氏は「ものづくりについては海外も日本にかなり追いついています。トヨタ生産方式も必死で学んでいます。さらに日本との違いは、“間接部門に人がいない”ことです。残念ながら“日本人件費のかたまり”です。従って儲かるには組織をスリムな形にして、リソースを世界中に求めないといけません。」と述べておられました。素材型デバイスNECトーキンの社長/岡部政和氏は電波新聞2008年4月7日付で「トーキンは、磁性材料を中心にした材料の産学協同のベンチャー的な企業として生まれた。02年にはNECコンポーネント事業(キャパシタ、電池、リレー)と統合し、材料技術を活かしたデバイス事業へと変ぼうした。当社は引き続き素材型デバイス創造企業を志向し、発展していくことになる。・・事業ポートフォリオでは、当社はタンタルコンデンサへの業績依存度が高い体質だ。今後は圧電セラミック製品を中心としたメカトロでシェアアップを図り、市場をさらに拡大できるEMC、電池といった三つの柱を育成していく。当社のコア技術である素材技術生かした独自の製品を投入していく。」と述べておられました。
日本企業の競争力で、新しい要素技術として、シミュレーション技術の重要性が高まり続けています。目的は品質不良への予防も含めての設計精度の向上開発リードタイム短縮ですが、韓・台・中のアジア企業のトップランナー各社が競争力を高め続けている中で、高度なシミュレーション技術が日系各社、特に電子部品各社の差異化の大きな武器になってきています。・・・・しつこく粘るという点で、DOWAは小坂銅山の黒鉱(複雑鉱)で磨き上げてきた異物除去の技術のスパイラル展開金属リサイクル事業では世界有数の存在に成長しました。野村進氏が著書*1で実に要領よくまとめてくれています。その中に76[2007.2]で前述の吉川会長が「同和鉱業の岡山工場が取引先から廃油処理を頼まれたのが環境事業の最初の仕事。製錬所は焼却する技術を持っていますからうちで処理しましょうということになった。90年代に入ると日本のナンバーワンとナンバーツーの鉱山が一気になくなるという状況においこまれたわけです。地域に仕事を残すために製錬を中心にして事業の多角化を図りました。いろいろやった中に環境事業もあったんです。・・・」と、また渡辺副社長が「“貧者の知恵”ですよ。環境ビジネス失業対策の意味合いやらざるをえなくてやっただけなんですけど、リサイクル社会になって時代にマッチしていなかった工場が一番役に立つ工場になった。」との記述がありました。DOWAは、日本の地方で育んだリサイクル技術を武器に国外への展開を開始しています。
製造業のグローバル化が進めば、サービス産業のグローバル化も進み易くなります。ユニクロのようにサービス業でありながら製造業も内包して、製造と小売の両方を進めていくビジネスモデルも存在します。地方出身の企業グローカルグローバル化の事例には、凄いと思う事例が多い。地方出身企業国外事業を強化していくことは、地方の産業振興にも役立ちます。金融情報中心の東京では見えにくい事例が多いだろうし、同様に霞ヶ関や永田町からは見えてないことが多いのではないでしょうか? この点では、明治維新に始まり戦前の国家総動員法でピークだった“官僚による中央集権”を是正して、政治も報道のメディアなども地方分権を進めていくことがベターと考えます。

*1:「千年働いてきました」野村進著 ISBN:4047100765