青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

生産財の青草新吾1はリタイア。シニアの青草新吾2は複業で貢献を目指す。

163-1/2. 太陽光発電の設備と部材

太陽光発電システムに関するニュースが日常的に報道される今日この頃ですが、当産業分野での日本勢の強みは何と言っても“材料・部材の全般”と“一部の製造装置”です。

太陽光発電システムとは、太陽電池(PV)を使った発電システムのことですが、太陽電池を製造するマテリアル系生産財材料・部材の分野では、日本企業が高いシェアを獲得し維持しています。一年ほど遡ると、当時は太陽電池を製造するための材料・部材の発表が相次いでいましたから、これらの企業の多くは今のこの世界的な市場拡大の波に乗って活躍しておられることと推察します。
太陽電池は、セル製造工程でシリコンなどの基板の上に半導体の光電変換層と電極を形成し、続くモジュール製造工程では、複数のセルを一まとめにして接着剤のEVA(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)に埋め込んで、表の太陽側をガラスで、裏の屋根・地面側をバックシートで封止します。
上述のモジュール製造工程では太陽電池を封止するための封止材としてバックシートを使用します。このバックシートの製造原価低減に関し、半導体産業新聞2009年9月30日付は「大日本印刷は、従来より低価格な太陽電池用バックシートを開発した。11年度には売上高約50億円を計画している。最外層に旭硝子製のフッ素樹脂フィルムを採用。新たに独自開発した高耐久性の接着剤を採用し、さらに構造の見直し、製造プロセスの最適化を図ることで、従来よりも大幅に低価格のバックシートを実現し、加えて、一層の長耐久性と信頼性を実現した。」と紹介していました。日経新聞2009年8月13日付は「カネカは東京・葛飾サンビックへの出資比率を49.5%から50.2%に引き上げ、連結子会社とし、樹脂製シート(筆者注:バックシートのこと)の事業に参入する。サンビックは、日本や中国の太陽電池メーカーに供給しており、世界シェア20%程度とみられる。カネカは、サンビックの現在の年間生産能力である太陽電池1.5百万KW分を、20112年度までに3.0百万KW分へと、2012年までに50億円を投資して、生産能力2倍に引き上げる。売上高は数百億円規模。同シートはブリヂストンなども手掛ける。カネカは、シリコンの使用量が少ない“薄膜型の太陽電池”を兵庫県豊岡市で生産し、欧州や国内向けに供給。ベルギーなどで新工場の立地も検討している。 」と報道していました。半導体産業新聞2009年6月24日付では「バックシートはこれまでデュポンテドラーに代表されるフッ素樹脂が主流だったが、フッ素樹脂に比べて安価なPET系樹脂をベースとしたバックシートの普及が進んでいる。バックシートで業界二位のリンテック(米MADICO社含む)は、フッ素コート技術を応用した新型バックシートの国内生産を開始した。凸版印刷は、デュポンと協業してバックシート事業の拡大を図っている。埼玉で数GW相当の能力を有する工場を稼働。三井化学は子会社の東セロを通じて10年にもバックシートを市場投入する予定。三菱樹脂は高い水蒸気バリア性を誇る透明蒸着フィルムを応用したバックシートの販売を計画している。旭硝子はETFEをバックシート用材料として提案。東レフィルム加工は、素材のPETの開発から最終製品のバックシートまでの一貫生産の強みを打ち出している。グンゼは新規高耐熱透明フィルムにガスバリア層(有機/無機の複合材)を重ねたバックシートを新規に開発している。」と封止用シートについて、また封止用接着剤のEVAについては「EVAに代わる新規封止材として提案されているのがPVB(ポリビニルブチラール)。現在は主に自動車などの安全ガラスの中間膜として使用されている。海外のモジュールメーカーで採用実績がある。」とまとめてくれていました。そのEVAに関わる市場環境はここ数年の変化がとても激しいのですが、EVAトップメーカーの三井化学に関し電波新聞2009年7月14日付は「三井化学太陽電池関連材料事業の売上高を09年3月期の60億円から、12年3月期2百億円に拡大する方針。ソーラーEVA世界シェアは約3割。08年の年産9千トンを年内に年産20千トンまで補強する。太陽電池バックシートの製造工程で使用される接着剤では、ウレタン系接着剤を手掛け、現在国内で6-7割のシェアを持っている。」と報道していました。次に太陽電池のセル製造工程で使用される材料・部材についてレビユーします。
太陽電池(PV)用の電極材料となる銀ペーストに関し、日刊産業新聞2009年5月21日付は大阪市山本貴金属地金について「山本貴金属はこのほど電極材料用の2種類の銀ペーストを開発した。銀電極は、電子基板との相性が良く、焼結処理しても割れや剥離が発生しにくい。一つは、“径0.8-6umの球状粉末”を実現した製品。球状化することで電気抵抗のバラつきが少なくなる。太陽電池パネルや、タッチパネル、PDP、ELなどに需要が期待されている。二つは、銀とパラジウムの二層構造の球状ペースト(径1.7-3um)。独自製法で球状ペーストの表面にパラジウムをコーティングし、熱処理後に両成分が均等に拡散するようにした。従来は粉末を混ぜて使っていたが、熱処理後のムラが生じるのがネックだった。山本貴金属は売上高の7割を占める歯科用・貴金属材料の市場ではシェア30%以上の国内最大手。」と紹介していました。同じく電極材料の銀ペーストの製造で使用される銀フレークについて日経新聞2009年4月22日付は「特殊金属線メーカーで兵庫県小野市のトクセン工業は、銀ペーストの材料となる銀ナノフレークを開発した。太陽電池メーカーに試験納入を開始し、2015年には月産能力10トンを目指す。シリコンウエハーの基板上に電極をつくる電子材料として使われる。開発した銀ナノフレークは単結晶型で、表面が滑らかで、電気抵抗は1センチ当たり2.1-3.5マイクロオームと従来品の半分程度。融点も従来品がセ氏300-500度なのに対し、150-250度と、高価格で量産に向かない“銀ナノ粒子並みの低融点を実現”した。従来の多結晶フレークは、銀の粒をプレスでつぶして生産していたため、凹凸があり、大きさもさまざま。融点が高く、電気抵抗も大きかった。“銀ナノフレークは焼結温度が低い”ので太陽電池の結晶シリコンへのダメージが少なく、ポリイミドなどの基板にも使える。焼結させずに“90度程度で乾燥させるだけでも電気特性がある”ので、PETフィルムにも印刷できる。反射率も85-95%と高く、携帯電話の反射フィルムやLEDの反射板など活用範囲が広い。 」と報道していました。
三井金属の機能材料事業本部では、薄膜材料事業部がスパッタリング用ターゲット材の製造販売を、機能粉事業部が電極用金属粉の製造販売を行っていますが、電波新聞2009年6月3日付は「三井金属は、透明電極用ターゲット材と、反応層(変換層)用ターゲット材を手掛けている。透明電極用のターゲット材は、薄膜型およびCIGS向けITO、ZnOベース、SnO2ベースの3種類を用意。透明電極用はすべて焼結法で製造する。反応層用のターゲット材で、反応層用の銅-ガリウムインジウム溶解・鋳造法で製造する。モリブデンなども品ぞろえしている。同社は、インジウムのリサイクルプロセスを社内で構築しており、亜鉛製錬からインジウム精製、ITOターゲットの生産までを自社内で一貫して行える唯一の企業となっている。薄膜材料事業部・営業部長の横塚隆一郎氏によると“太陽電池でも(薄型パネルと同様に)コストダウン目的でガラス基板の大型化”が進み“大きなターゲット材”が求められ、長さ3メートル以上のサイズの製品を量産化した、という。」と報道していました。ターゲット材の大型化については、銀ターゲット材についても上述の山本貴金属地金が“最大600ミリで量産開始”と発表しています。日刊産業新聞2009年9月8日付は「太陽電池パネルの大型化ニーズが高まっている。山本貴金属地金は、最大幅600ミリ、最大厚さ30ミリまで対応。鋳造炉を導入し、連続生産法による量産をめざす。ターゲット材の大型・厚膜化に伴い、気泡除去や加工の技術難易度が上がるが、試作費用は、全国中小企業団体中央会からの経費の3分の2を補助する制度も活用し開発を進め、年明けから本格生産する予定。太陽電池関連市場は、2030年には世界で30兆円規模に達するともいわれる。 」とまた、太陽電池向け透明電極材料に関し電産新報2009年4月6日付は「出光興産は、太陽電池向けに、酸化インジウム酸化亜鉛からなる透明電極材料のIZOの供給を開始した。TFT液晶パネル用途では既にシェア30%を有する。銅、インジウムガリウム、セレンの薄膜材料を用いるCIGS太陽電池では、低い抵抗値と高い透過率を持つ電極材料が変換効率向上の鍵となることに着目し、展開を図ることとした。2015年に50億円の売上を目指す。」と報道していました。
太陽電池セル製造工程で基板としてシリコンウエハーを使用しますが、ウエハーの材料となるシリコンインゴットの製造では、石油会社の参入が見られます。電産新報2009年4月13日付は「新日本石油は、今年09年1月には、三洋電機と薄膜太陽電池を製造する三洋ENEOSソーラーを設立している。三洋ENEOSソーラーは2010年度内に生産能力80MW規模で量産を開始する予定。同じく新日本石油は、太陽電池用の単結晶シリコンウエハのトップメーカーであるスペースエナジーへの出資比率を46.4%に引き上げた。・・・新日鉱ホールディングスは、2008年6月にチッソ及び東邦チタニウムと共同で設立したポリシリコンの製造販売会社であるソーラーシリコンの株式を子会社の日鉱金属に譲渡した。新日本ソーラーシリコンは現在主流のシーメンスに比べて低コスト化が可能な亜鉛還元法(JSS法)と呼ぶ製造技術で太陽電池用ポリシリコンを製造する。」と報道していました。太陽電池用シリコンインゴット製造工程でMRO間接生産財(プロセス資材)の成形断熱材として使われるピッチ系炭素繊維FRでトップシェアのクレハに関し半導体産業新聞2009年4月22日付は「太陽電池の原材料であるシリコンインゴットの製造工程で使用される成形断熱材では、クレハのFRがシェア50%近くを持っている。単結晶型インゴットの引き上げ装置には、いわき事業所で生産している円筒型FRや、ソフトフェルトが断熱材として利用され、多結晶型インゴットの鋳造装置には平板状FRが利用されることが多い。・・・シリコンインゴットは1600度摂氏以上の高温炉で製造される。省エネ効果精密な温度管理をもたらす高い断熱性で、クレハの炭素繊維製品は高いシェアを得てきた。・・・中国は結晶系太陽電池の生産量が世界最大であり、クレハは上海新工場の稼働開始により、今後は中国内販市場を掘り起こし、さらなる市場拡大を目指していく。上海呉羽化学有限公司が、上海中心部から蘇州方向へ高速道路で30分ほどの嘉定区(Jiading District)の新工場で、2009年3月に炭素繊維加工品の生産を開始した。クレハの炭素繊維は、まず炭素糸を生産することから始まる。炭素糸は、石油などの副産物のピッチを紡績して中間原料の加工用原糸(トウ)を造る。トゥからは、より糸(ヤーン)を経てクロス上炭素繊維織物に加工して焼成し、又は、フェルト状に加工して焼成し、FRを製造する。」と上海呉羽の総経理和田淳一氏へのインタビューを紹介していました。
シリコンインゴットはスライス加工されてウエハーとなります。半導体産業新聞2009年6月10日付は「セルメーカーはコストコトロールのために、インゴットを自社で調達し、ウエハー製造をスライスメーカーに委託加工するケースが多い。
スライスメーカーは、業界最大手のTKXは1997年に事業を立ち上げた。虎姫工場、湖北工場、長浜工場で月産14百万枚から15百万枚に能力増強を行った。大阪富士工業は2001年に事業を開始し、尼崎工場、WEST総社、EAST総社の3工場で月産5.5百万枚の能力を8.5百万枚に引き上げる。カサタニは、三田工場で月3百万枚から7百万枚に引き上げる。石井表記は、セルやモジュールメーカーに加えて材料メーカーへの販売も開始する。年産46百万枚から09年には年60百万枚に引き上げる。中村超硬は、6年前にダイヤモンド固定ワイヤーソーを開発し、当初はワイヤーソーの販売を考えていたが、太陽電池用シリコンに加えてサファイヤやSiCも加工できると知ったため、新たなスライス加工技術を確立し、ウエハースライス事業への参入を決めた。コストダウンのために、加工方法も、ワイヤーにスラリー液をかけながらスラリー液に含まれるSiC砥石でインゴットをスライスする“遊離砥粒方式”から、ダイヤモンドを電着したワイヤーでインゴットをスライスする“固定砥粒方式”へと切り替わりつつある。」と報道していました。スライス加工で使用されている炭化ケイ素ワイヤーソーリサイクルに関し、日刊産業新聞2009年5月14日付は「特金スクラップ問屋のティーエムシー(東大阪市)は、国内初となる炭化ケイ素の分離・回収事業太陽電池関連分野で開始する。太陽電池向けシリコンウエハーのスライス加工で使われるワイヤーソーから、シリコンと油分を分離して炭化ケイ素を回収する。来期取扱目標は、25百トン。太陽電池用シリコンウエハーをスライス加工するために使われるワイヤーソーの刃先には、抵抗を少なくするためのシリコンが張られている。」と報道していました。
太陽電池モジュール製造工程で複数のセルを一体化するために使う真空圧着装置(真空ラミネータ)で世界トップ東証マザーズ上場のエヌ・ピー・シーに関し112[2007.10]で前述しましたが、フォーブス日本版2009年9月号によると「エヌ・ピー・シーは、モジュール製造工程で必要なすべての生産設備(セルテスターセル自動配線装置真空ラミネータモジュールテスター)を自社開発する世界唯一の企業として実績を築いてきた。ライバル企業は世界に数社存在するが、モジュール製造機器の一部を単体供給しているにすぎない。・・・ユーザーであるモジュール製造メーカーは、欧州域を筆頭に全世界で約180社。内、160社以上で納入実績があるという。 」とのことです。日経新聞2009年7月7日付は「太陽電池パネルの製造装置で世界シェア4割のNPCは、不況下でも2009年8月期の売上高は前期比5割増の145億円を見込む。もともと食品向け真空包装機が主力。真空技術が太陽電池の製造に生かせると分ると“参入するなら、すべて自力で作り上げる”と決断し、一貫生産システムを完成させた。同社の技術力は国内外の投資家をひきつける。英国の機関投資家10ヶ所近くを訪問すると、リーマン・ショック後にもかかわらず、半数が新規投資に応じた。」とその勢いを紹介していました。