青草新吾の惺々著考 glocaleigyo

生産財の青草新吾1はリタイア。シニアの青草新吾2は複業で貢献を目指す。

223. ノーベル賞LIBと平成30年間の回顧「↑(香港・深セン)と↓(日本)」

リチウムイオン電池(LIB)は「平成元年(1989)にソニーが世界初の上市」を行い、上市から31年を経て「発明者の一人である旭化成/吉野彰さん」のノーベル賞受賞が決定しました。・・平成元年とは、中国の八九六四(天安門事件1989.6.4)の年でもありました。民主化運動で行き場を失った「天安門世代」の方々の中にBYDやCATLを起業した方々がおられました。・・日本の平成30年間は「高度成長エスカレータ世代」( 1935-1949生まれの「焼け跡世代」と「団塊世代 」、戦後復興世代の子供たち ) が担う時代でしたが、会社単位ではユニクロ日本電産などの成長企業は少数事例で、会社の多数事例と日本の政治や行政は「凋落と低迷の時代」でもありました。

  2次電池ともいわれる蓄電池の平成30年間の進化」を振り返りながら、蓄電池産業を通して日本の稼ぐ力の在り方を考察してみます。LIBの進化では、液体LIBに続いてゲルLIB (リチウムポリマー電池)が登場し、今は全個体LIBの実用化が始まっています。ノーベル賞とは40年前の発展の起点となった発見者や発明者への表彰ですが、現実は絶え間なく進化が続き、グローバルな競争が続いています。

  慶大教授の井出栄策氏によると、日本は先進国で「母子家庭の貧困率1位(最悪)」です。生活保護を使わずに働く、母子家庭のお母さんが働く割合がトップであるにもかかわらずです。明らかに「稼ぐ力が薄い会社」ばかりが多くて「賃金が低い会社多い」のです。なのに一方では「税金を扱う統治構造行政仕組み是正改善すべき点があるからです。個人の稼ぐ力会社の稼ぐ力を高め、産業の稼ぐ力も高め、行政の仕組みを改善していかねばなりません。以下、蓄電池を産業として稼ぐ力の潜在力を考察していきます。

  まず二次電池ともいわれる蓄電池ですが、富士経済の調査では、2016年度の世界の蓄電池需要7.88兆円。内、7割LIB2割その他1割25年14.4兆円へと倍増と予測しています。

  次に、車載や産業用の大型電池と、スマホやPCで使われる小型電池に大別すると、矢野経済の調査では、2016年の時点で、自動車・産機用の大型と、スマホなどの小型の需要が、ほぼ半々となり、2017年以降は、大型が小型を上回るようになったそうです。

  大型電池を代表する車載電池(主にニッケル水素電池とLIB)の産業規模をみてみます。2018年度世界生産は 92.5 GWhです。 CATLパナソニック世界の半分を生産しています。出荷量では、首位がCATLで世界生産の1/4、ほぼ同規模での2位がパナソニ ックで世界の1/4、3位 BYD 13%、4位 韓 LG化学 8%、5位 中 AESC 4%、6位 サムスンSDI 3.7%、・・です。5位のAESC( Automotive Energy Supply )は、元々はNECと日産の合弁会社でスタートしましたが、エンビジョン( Envision ) なる中国の再生可能エネルギー会社に80%が譲渡され、今は主要顧客で株主でもある日産の持株20%NECの持株ゼロだそうです。

   リチウムイオン電池(LIB)を発明したのは、今回ノーベル賞を受賞した三名に、米グッドイナフ氏の下にいた東芝の現エグゼクティブフェローの水島公一さんです。今回のノーベル賞受賞と東芝の水島さんによってベースモデルが発明され発表されました。・・・LIBを製品化して実用化したのがソニーです。ソニーが91(平成2)年に「世界初で製品化して市場投入しました。電池事業のトップだった西美緒さんにリードされた

ソニーです。ラミネート型LIBを世界初で世に送り出したエナックスを起業した小沢和典さんも当時のソニーの起業メンバーです。本稿97-2/3 ( 2007-9-8 リチウムイオンでマンガン系 )で前述しました。エナックスはその後、自動車部品のメガサプライヤーである独コンチネンタルや日本の積水化学との協業をして発展しているようです。・・・今回受賞された吉野さんの旭化成は、東芝との合弁(ATバッテリー)で製造販売を開始しました。・・・日本の電池メーカーは、GSユアサ(当時は日本電池と湯浅電池)、日立マクセルパナソニック(当時は松下電池と三洋電機) などが参入しました。・・・TDKは、下術の香港ATLの親会社として、今やIPhone向けLIBの主要サプライヤーですが、当時は電極のみを製造する部材メーカーで、電池メーカーに電極をOEM販売していたと記憶してます。・・・LIBの産業としての発展の様子は、まるでラグビーのようです。「後ろの走者へのパス」と「キック」で、ラインアウトスクラムを交えながら前進していく様子にとても近いものを感じます。

  1995(平成7)年に、今や車載用LIB世界最大手の一角を占める BYD( 比亜迪)深セン起業されました。筆者は翌年に同社関係者から、起業家・創業者のWan Chafu( 王伝福 )さんは確か「豪州の留学から帰国されたお方」と聞いた記憶が残ってます。・・・当時は、ニカド電池を高性能化したニッケル水素電池の成長期で、LIBは導入期でした。筆者/青草新吾は、成長期のニッケル水素電池向けを主力としながらも、導入期のRIB向けの受注を追いかけていました。

  上述のBYD(比亜迪)は、2002年に香港H市場で上場し、2003年に自動車製造に進出し、2008年に世界初PHVを発表し、9月にリーマン破綻直後に、投資家ウォーレンバフェット氏率いる米パークシャハサウェイが出資、12月に世界初でPHVを発売開始しました。BYDは、日本でも2010年に自動車金型でオギハラ館林工場を買収し、2011.6に深センAで上場しました。

  車載LIBの生産量で世界一にのし上ったCATLは、TDK子会社香港ATLから独立したLIBメーカーです。創業者で起業家の Robin Zeng (曾毓群)なるお方が、前職上司の梁少康なるお方と香港でATL ( Amprex Technology )を設立し、2005年TDKに売却して資本を積み上げ、創業メンバーはそのまま車載向けの事業化を進めました。広東省政府の電気自動車プロジェクトに呼応して、2011年に、福建省寧徳市に CATL ( Contenporary Amprex Technology 寧徳 時代 新能源 科技 )を設立し、ATLから車載部門まるごと、技術者や研究者などをそのままCATLに引き連れて、中国政府のEV支援策に乗って急成長を果たし、2018.6に深センマザーズに上場しました。

   平成の30年間を振り返ると、上述の1995(平成7)年は、日本経済がピークアウトして失われた20年へと凋落していった転機の年でした。例えば、1月に阪神大震災、オーム地下鉄サリン事件村山富市首相の中韓向け「反省と謝罪」表明、金融機関の経営破綻、急激な円高で円相場が初の70円台への突入、世界貿易ではGATT廃止とWTO発足での再スタート、等々、凝縮して数年分が重なって起こったような年でした。

  香港民主化デモを見るたびに、BYDATLCATLのように、香港の世界に開かれた窓を使って、天安門世代起業して飛躍していった中国新興産業分野起業家会社を想起します。中国を政治支配するのが毛沢東の真似事に走る習近平(66歳)など紅衛兵世代ですが、イノベーション盛んな新興分野で起業して事業を大きくしてきたのが天安門世代です。民主化運動に関わった方々は就職で苦労しながらもその後に起業した方々も多々おられるようで、電池やITサービスの分野に多いようです。電池やITの例で、上述のCATLのRobin Zeng( 51歳 3割株主 )やHuang Shilin( 黄世霖 1割株主 )、eコマースのアリババを起業したJack Ma( 56歳 馬雲)などの各氏は、民主化運動ピークの天安門事件の頃に20代前半だった方々です。Jack Maは就活で30社から断られたお方だそうです。

  米国と直結した深センエコシステムについては、本稿211 [ 2018-05-02 ( 会社の役目は営利とイノベーション)で前述しました。深センでは、経営機能を分業するインキュベータ(Incubator 起業支援会社)やアクセラレータ( Accerator 成長加速支援会社)に加えて、設計製造機能を分業する ODM (Original Design Manufacturing )や IDH ( Independent Design House ) など、スタートアップや成長事業をサポートするエコシステムが充実しています。・・・深センが発達したことで、香港の機能と役割が相対的に低下していくといわれてきました。がしかし、米中摩擦や、先進各国の対中政策をみていると、潮目が変わって「やっぱり香港がないと」で香港の役割再び高まっていく方向です。最後に、今回のLIBノーベル受賞分野を、ラグビーのようにパスとキックで、この日本でパワフルにつないで前進しながら、稼ぐ力を高めて好社会実現へのエネルギーにしていけそうかどうか?を考察してみます。同じデバイス分野の半導体バイスの歴史的事実が参考になります。

  銘記すべきは、パワー半導体及び、半導体バイス向けの機能材料今でも世界最強であることです。パワー以外のその他の半導体バイスは凋落したのですが・・・。凋落した主な原因は、経営人材の薄さと、日本政府の政策の誤り(対米交渉)に依ります。 ・・・ 反対に、パワー半導体機能材料が個々の会社としても産業としても、今でも世界最強なのはアナログ技術材料技術の広がりと厚みによります。日本は要素技術が豊かで強い。しかし付加価値厚く広くしていくには、本稿214 ( 2018-09-15 変化に強い会社と働き方 )で前述しましたが「強みの要素技術を生かしたシステム技術」を強化していく必要があります。LIBとその産業連関ではどうなっていくのでしょうか??

  筆者/青草新吾は1995年頃に「成長期のニッケル水素電池向けを主力としながらも、導入期のRIB向けの受注を追いかけていました。」と上述しました。日本の電池業界は「総合電池メーカー」が担っていました。ニカド電池ニッケル水素電池は「酸化還元反応を使うアルカリ蓄電池」です。これに対してLIBは「イオン移動を使うイオン電池」です。当時は「連続的な改良」で理解されていましたが、実は「不連続な激変」だったのではないかと、今は考えています。

      イオン電池のリチウムイオン電池( LIB )は、液体LIBの進化でラミネートタイプに代表されるゲルLIB( ポリマーLIB /リチウムポリマー電池 )が登場し、今は全個体LIBが次世代電池として開発の競争下にあります。ゲルLIBではソニー日立マクセルが先行しましたが、全個体電池では、TDK村田製作所が小型電池で先導しています。進化とともに日本勢が再び世界市場で盛り返すか、このまま衰退していくか・・会社の経営者と政治家の力量と働き次第です。

  不連続なイノベーションの特徴であるアウトサイダーの参入に関し、日本のLIBではソニーが参入し、TDKが今や小型(ポータブル)では世界トップグループです。更にソニーは「2017年に電池事業を村田製作所に譲渡」しました。業界の垣根を越えたイノベーションが起こり、産業構造が激変していくのは、半導体バイス電機業界で経験済みで、自動車業界でも始まっています。・・・このような変化の中でも、日本の「部材化された機能材料」と「電子部品」の両産業は、競争力を維持できています。そして日本をより豊かな好社会にしていくには、稼ぐ力もっと厚く広くしていくことが望まれます。・・・個々の会社としては各々「ニッチトップな会社」が増えて、シナジーで「システム化された製品」がもっと増えて「産業連関もっと広がって」いく姿は、まるでラグビーです。「後方へのパス」と「キック」でスクラムラインアウトを交えて戦い、試合が終われば敵味方なく称え合うノーサイドのイメージです。台風直後ですが、本日の「スコットランドx日本」は面白そうです。

  久方ぶりの投稿でしたが、次回は「グローバル化よりも国際化!!」を寄稿します。